色や臭いを決める要因は何か? 真面目に学ぶ大人のウンチ学
くさい、汚い、見たくない。ウンチには、そんなイメージがつきまとうけど、自分の健康状態をこれほどまではっきりと示してくれるものって他にない。毎日の食生活を改善し、適度な運動を行えば、ウンチは必ず応えてくれる。まずは、ウンチの正体を探ることから始めよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/サタケシュンスケ 取材協力/神山剛一(寺田病院外科・胃腸科・肛門科、医学博士)
(初出『Tarzan』No.771・2019年8月29日発売)
目次
ウンチの正体その1. ウンチって何? どこでできるの?
腸内環境の良し悪しを知る身近な手がかりになるのが、ウンチ。その正体を探ってみよう。
ウンチは大腸で作られる。
食べ物を口にすると胃→小腸→大腸と進み、消化と吸収が行われる。飲み物と各種消化液を合わせると、小腸に流れ込む液体は1日約9L。小腸では、そのうち7Lが栄養素とともに体内に再吸収される。大腸に流入するのは残る2Lだ。
この2Lに含まれるのは、消化も吸収もされなかった食べ物のカス。難消化性の食物繊維が主成分である。大腸には内側に輪状筋、外側に縦走筋という2タイプの筋肉があり、その伸縮によって尺取り虫のような蠕動運動を行う。
この蠕動運動で上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸と正面から見ると時計回りに大腸を巡るうち、水分と電解質の吸収が進んで徐々に固形化される。そしてハンバーグの種を捏ねるようにウンチが形作られる。
「便の水分を除いた固形部分は難消化性の食物繊維、排出された腸内細菌、消化管の新陳代謝などで脱落した粘膜という3種類。これが3分の1ずつを占めるのが普通です」(排便機能専門医の神山剛一医師)
ウンチの正体その2. 理想のウンチってどんな形?
消化管を通り抜けてきたウンチは腸内環境を反映している。ロクに見ないでさっさと水に流さず、目を向けてみたい。そのとき参考になるのが、ブリストルスケール。1997年にイギリス・ブリストル大学のある教授が提唱したもので、ウンチを形状と硬さで分類した指標。便秘や下痢の診断項目の一つとして世界的に広く用いられている。
上図の1〜2は便秘気味のときに出てくる硬い便。6〜7は軟らかすぎで下痢のときに出てくる。正常なのは硬すぎず、軟らかすぎない3〜5のウンチ。なかでも理想とされるのは、スケール4の普通便だ。これはバナナかソーセージのような形で水分がおよそ80%、固形物が残りの20%を占める。食事の量や質で変わるが、重さは1本200〜250gほど。
このバナナ状ウンチが、力まずともスルスルと出てくるのがベスト。それは排便のすべてのプロセスに何ら問題がなく、腸内環境も良好な証拠なのである。しかし逆は必ずしも真ならず。バナナ状ウンチが毎回出ないから不健康とは限らない。
「便秘や下痢=病気のサインではない。便秘でも下痢でも日常生活に支障がなければ、心配ありません」
ウンチの正体その3. 硬さを決めるのは通過時間。
コロコロかバナナ状か泥状か。それを決めるのは大腸の通過時間。大腸内に長く留まるほど水分吸収が進んで硬くなる。3〜5日も大腸内に留まるとブリストルスケール1のコロコロウンチに。スケール4のバナナ状ウンチは、食後24〜48時間で出てくることが多い。固形化していないスケール7の水様便は、食後数時間で出てくることすらある。
大腸をはじめとする腸管の通過時間を左右するのは、毎度おなじみの自律神経。交感神経と副交感神経があり、対照的に働く。腸管の活動は副交感神経が優位だと活性化し、交感神経が優位だと抑制される。
ストレスで便通が乱れるのは自律神経の働きが狂うため。一般的にストレスがあると腸管を抑制する交感神経が優位になりやすいとされるが、ストレスで腸管の活動が活発になりすぎてお腹が下る人もいる。ストレス下での腸管通過時間は一様でなく、体調と体質に応じて変わるのだ。
この他、病原性の細菌やウイルスに感染すると下痢が起こる。腸管で増えたこれらの微生物とそこから生じる毒素が引き金。刺激を受けた腸管が邪魔者をいち早く排泄する防御反応として下痢を引き起こす。
ウンチの正体その4. あの色は胆汁の色。
ウンチが黄色いのは、肝臓から十二指腸に分泌される胆汁によるもの。胆汁は脂質を乳化させて消化しやすくする胆汁酸と、壊された赤血球のヘムという鉄成分が代謝されたビリルビンという黄色い色素からなる。このビリルビンが、ウンチとオシッコに色を付ける。
ビリルビンは腸内細菌の作用でウロビリノーゲンとなり、一部は体内に吸収されて尿から排泄される。オシッコの黄色はウロビリノーゲンの色だ。残りのウロビリノーゲンは腸内細菌でさらに代謝された後、酸化されてステルコビリンに変わる。ウンチが黄色いのはステルコビリンの色。便秘のウンチが黒っぽいのは、大腸内でぐずぐずしている間に酸化が進みすぎたせいだ。
食べ物でも色合いは変わる。肉類などの鉄分や、赤ワインの褐色の色素アントシアニンが大腸内で酸化されると、ウンチは少し黒っぽくなる。
心配なのは赤いウンチと真っ黒なウンチ。赤みの多くは大腸内の出血で痔か大腸がんの恐れがある。コールタールのように真っ黒な便(タール便)は赤信号。大腸がんが入り口に近い場所にあると出血から排泄まで時間を要するため、酸化が亢進して真っ黒になるのだ。病院へ急ごう。
ウンチの正体その5. 食べ物で臭いは変わる。
硬さや形状だけではない。ウンチの臭いも日々変わる。これには食べ物が関わっている。
悪臭の代表例は、インドール、硫化水素、アンモニアといったいわゆる腐敗臭。なぜか大腸まで辿り着いたタンパク質を、悪玉の腸内細菌が代謝した結果、生じる臭いである。
“腐敗”と聞くと不安になるけれど、ウンチの臭いがきついからといって病気というわけではない。
「嫌な臭いの元になる成分は100万分のいくつというPPMレベル。ごく少量ですから、臭う以外にとくに害はありません」
発酵と腐敗はどちらも微生物の代謝で厳密に区別できない。人体に有益なら発酵、不利益なら腐敗と勝手に名付けているだけ。不快な臭いだから“腐敗”臭と呼ばれるのだ。
赤ちゃんのウンチからは甘酸っぱい臭いがすることがある。母乳やミルクを飲むとそれを好むビフィズス菌が赤ちゃんの腸内で増える。甘酸っぱい臭いの正体はビフィズス菌が分泌する酢酸。いわば発酵臭だ。
ウンチの硬さでも臭さは変わる。軟便よりも固形便の方が臭気が拡散しにくいため、臭いが気にならないこともあるのだ。