寝苦しい夜の眠りのお悩みを、3人の専門家が解決します
睡眠専門医の白濱龍太郎先生、快眠セラピストの三橋美穂さん、そして作業療法士でユークロニア代表の菅原洋平さん。寝苦しい夜を解決する15の方法を、伝授していただきました。
取材・文/井上健二 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/白濱龍太郎(RESM新横浜院長、医学博士)、三橋美穂(快眠セラピスト)、菅原洋平(作業療法士)
(初出『Tarzan』No.770・2019年8月8日発売)
目次
- 1. 寝汗がベタベタ。パジャマに張り付いて気持ち悪い。
- 2. 寝室に熱がこもり、夜になっても暑すぎる。
- 3. 眠ろうとしてもなかなか寝付きにくい。
- 4. 昼の興奮が残り、頭がカッカして眠れない。
- 5. 就寝時刻前にソファでつい寝落ちする。
- 6. お酒を飲むとトイレに起きる。
- 7. 寝ても暑くて途中で起きてしまう。
- 8. スマホが寝る直前まで手放せない。
- 9. 歯磨きで目が冴える。
- 10. 多忙で短時間睡眠でやりくりしたい。
- 11. 朝食を食べているのに眠りが整わない。
- 12. 慢性的な睡眠不足が蓄積した睡眠負債を抱えていると、休みの日くらいは思い切り寝坊したくなる。
- 13. 夜中に起きたら、暑くて眠れなくなってしまった。
- 14. クヨクヨ考えすぎて眠れない。
- 15. 寝苦しくて眠れず、日中に眠くてたまらない日もある。そういうときに活用したいのは、昼寝(ナップ)。
1. 寝汗がベタベタ。パジャマに張り付いて気持ち悪い。
寝汗にはベタつかないサラサラした汗と、パジャマが肌に張り付くようなベタベタした汗がある。
「サラサラした汗は副交感神経、ベタベタした汗は交感神経が優位になっている証拠です」(菅原さん)
汗腺には副交感神経は関与しない。交感神経が優位だと汗腺の働きが活性化してベタベタした汗が出るが、交感神経がオフで代わりに副交感神経がオンだと、汗腺以外の皮膚から水分が蒸発する不感蒸泄がメインとなる。こちらはサラサラなのだ。
睡眠中は心身を休息させる副交感神経がオンであるべき。交感神経がオンだと寝たつもりでも緊張が完全に取れず、疲れが抜けにくい。浴槽入浴やストレッチなど寝る前に副交感神経をオンする試みに取り組もう。
2. 寝室に熱がこもり、夜になっても暑すぎる。
熱帯夜が続くと暑くて眠れない。その賢い対処術は、帰宅直後のひと手間にある。
マンションのように気密性が高く熱がこもりやすい建物だと昼間の日射で寝室全体が夜になっても熱を持ち、寝具まで熱くて湿気を帯びる。
「そこで帰宅したら枕や寝具をめくってこもった熱と湿気を逃がし、寝室のエアコンを入れて室温を約25度まで下げておきます」(菅原さん)
寝具が乾いていて冷たいと汗を吸い、深部体温が下がって眠りやすい。また足首を夏用レッグウォーマーで温めると放熱が促されて深部体温が下がり、暑い夜でも快眠につながる。眠る直前に慌ててエアコンを入れても寝具が熱く湿気ているため汗を吸わず、深部体温も下がりにくい。カラダだけ冷えて体調が悪くなるだけ。
3. 眠ろうとしてもなかなか寝付きにくい。
眠りを大きく左右するのが光。暗くなるとメラトニンが増えて眠りに備える。不眠に悩む現代人が多いのは、夜でも明るいところにいるのに慣れすぎているためだ。自宅に戻ったら明かりを絞り、暗い夜を演出しよう。
「通常の500ルクスの明るさのリビングに3時間いると、メラトニンは半分にまで減ります。自宅で長い時間を過ごすリビングこそ消灯し、フロアライトを壁に向ける間接照明などで、光が目に直接入らないように工夫しましょう」(菅原さん)
バスルームは消灯しても脱衣場の照明でお風呂には入れる。廊下などに足元を照らす最小限の照明があれば、夜中に起きてトイレに行っても電気を煌々と点けなくて済む。帰宅後は朝まで暗闇生活を心掛けよう。
4. 昼の興奮が残り、頭がカッカして眠れない。
頭寒足熱は健康に良いとされる。確かに足を温めると深部体温は下がりやすいし、頭の温度を下げると脳が休まって寝付きやすい。では、残業が終わったばかりで、眠る時刻になっても頭が興奮してカッカしているときはどうすべきか。三橋さんのお薦めは小豆。
「小豆1袋(約250g)を袋に入れて冷凍庫で凍らせます。これを後頭部に当てると頭が冷やせる。小豆は水分を約15%含み、凍らせると15分はちょうどいい冷たさが続きます」
保冷剤だとクールダウンにしか使えないけれど、袋入りの小豆なら、電子レンジで温めても使える。
「足だけではなく、温めた小豆を首の後ろに当て、そこを通る太い血管を温めても深部体温が下がりやすく、深い眠りに落ちやすくなります」
5. 就寝時刻前にソファでつい寝落ちする。
眠りのリズムを決めている体内時計の働きにより、1日2回眠気が高まるタイミングがある。1回目は14時頃であり、それがランチ後の眠気の正体。2回目が21時頃。帰宅後油断すると寝落ちする魔の時間帯である。
寝落ちで眠気が飛び、想定した就寝時刻に眠れないと睡眠が乱れる。それを防ぐのに有効なのは、21時前後にやるべきことを決めておくこと。
「皿洗いなどの立ち仕事をその時間帯に行うと、筋肉が刺激されて余計な眠気が霧散します」(白濱先生)
スクワットやシットアップなどの自体重トレで眠気を解消すると筋肉も鍛えられて一石二鳥。激しい運動は交感神経を優位にするから夜はNGだが、夜のとば口の短時間かつ軽めの自体重トレならその心配も無用。
6. お酒を飲むとトイレに起きる。
お酒を飲まないと眠れないという人もいるが、アルコールは興奮物質で快眠の天敵。興奮しすぎると反動で催眠作用が起こり眠りに落ちる。するとアルコールの脱水作用で脱水が進み(ビール1Lで1.1Lの尿が出る)、体内のアルコール濃度が急に高まる。眠りが浅くて質も悪く、アルコールで弛緩して舌などが垂れ下がると気道が狭まり、息苦しくなって脳にも負担。利尿作用でトイレに起きると、その先眠れない夜もある。踏んだり蹴ったりだ。
「お酒を飲む間はもちろん、飲む前からの1杯の水で脱水が防げてダメージが抑えられます」(菅原さん)
眠りに何らかの悩みがあるならお酒は適量を守り、遅くまでダラダラ飲まないことが肝要である。
7. 寝ても暑くて途中で起きてしまう。
寝室を25度前後に冷やしたままだと少し寒いから、体調や感受性に応じて眠る前に26〜28度に再設定。省エネ魂を発揮してオフにするのもいいが、熱帯夜だと室温が上昇して寝汗をかいて起きるのが関の山。熱中症を防ぐために暑い夜はエアコンを終夜使おう。
「暑くて途中で起きてエアコンを入れるのは最悪。カラダが急に冷えて、反動で熱がこもって暑くなり、寝付きにくくなります」(菅原さん)
ヒトは一晩で平均20回は寝返りを打ち、放熱を促す。寝返りが下手だと熱が逃げにくいため、寝汗をかきやすい。正しい寝返りは、カラダをその場で持ち上げて回転させるように打つ。お尻を持ち上げるヒップレイズなどで体幹を鍛えると、寝返りが正しく打てて寝汗は減ってくる。
8. スマホが寝る直前まで手放せない。
通勤中やランチ中はもちろんトイレやジムでもスマホを手放さない人は多い。
もはやまるでカラダの一部だが、眠る準備を整える時間帯はスマホから距離を置こう。スマホから出るブルーライトは覚醒を促すし、SNSやネットをチェックしていると興奮状態が続くからだ。そして可能なら、スマホは寝室には持ち込まない。
「同じ部屋にあるだけで気になる。寝室には眠りと関係のないものは置かないのが理想です」(三橋さん)
それが無理なら、スマホはベッドからできるだけ遠いところに安置。スマホを目覚まし代わりに使っている人は、帰宅直後にアラーム設定を済ませておく。眠る寸前に設定しようとすると、結局眠る直前までスマホ離れができないからだ。
9. 歯磨きで目が冴える。
歯磨きを済ませてから眠るのは良い習慣だが、眠るギリギリになって歯を磨いているうちに、眠気が吹き飛んだ失敗経験はないだろうか?
眠りの精であるメラトニンは、光以外でも強い刺激を受けると減るという性質がある。歯ブラシで歯茎をゴシゴシするのも、お休みモードに入ったカラダにはかなりの衝撃。
「それでメラトニンが減り寝入りにくくなる恐れがある」(白濱先生)
歯磨きは夕飯直後に済ませておくと、眠る直前になって頼りのメラトニンが不足する不安はなくなる。一度歯を磨くと、誘惑に負けて夜食を食べてしまうのも防げる。口をさっぱりさせてベッドに入りたいなら、眠る前に低刺激性のマウスウォッシュで優しく口をゆすいでおこう。
10. 多忙で短時間睡眠でやりくりしたい。
多忙で眠る時間を削って仕事に励むビジネスパーソンもいる。彼らの願いは短時間かつ効率的な眠りでやりくりすること。果たして可能なのか。
6時間未満の眠りで十分なナポレオンのようなショートスリーパーは100人に1人いるかどうか。大半の人には最低6時間の眠りは必要。
「擬製ショートスリーパーを気取って短時間睡眠で無理をすると睡眠負債が溜まり、肝心の日中の仕事のパフォーマンスに響く恐れがあります」(白濱先生)
そもそも眠る時間を削って仕事に充てるという発想が本末転倒。眠りはすべての基本。眠りを確保し、それ以外の時間で仕事や家事を片付けるのが本来あるべき姿。効率を高めるべきは眠りではなく仕事の方だ。
11. 朝食を食べているのに眠りが整わない。
眠りの司令塔である体内時計は、細胞一つひとつにも備わる。脳にある体内時計の親時計は光でリセットされるが、細胞内の子時計をリセットするのは食事。朝食を食べると「一日が始まったぞ!」という情報が細胞レベルで広がり、覚醒と睡眠のメリハリがつく。だが、これには条件がある。
もっとも長い絶食(Fast)を破って(Break)取るのが、細胞にとっては朝食(Breakfast)。“朝”食べるから“朝食”ではないのだ。
「朝食後、お昼を抜いて夜遅く夕飯を食べると、いちばん長い絶食は朝〜夜の間になり、細胞は夕飯を“朝食”と認識。すると夜元気で日中眠くなります。夕飯は早めに済ませて、10時間以上経った起床後に朝食を食べるのが正解です」(菅原さん)
12. 慢性的な睡眠不足が蓄積した睡眠負債を抱えていると、休みの日くらいは思い切り寝坊したくなる。
ところが、土日とも寝坊しすぎると体内時計のリセットが遅れて夜型になり、週明けの月曜は時差ボケのような状況で朝起きるのが辛くなる。社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)と呼ばれる現象である。
「土曜の寝坊は、平日いつも起きる時刻の2時間後まで。その程度なら、体内時計の狂いも最小限に抑えられます」(白濱先生)
日曜はより戦略的に月曜の起床時刻から逆算して就寝時刻を決めて、それまでに眠れるような時刻に朝起きる。寝坊だけでは返せない睡眠負債を繰り上げ返済するには、昼寝が有効である。
13. 夜中に起きたら、暑くて眠れなくなってしまった。
せっかく眠ったのに暑くて途中起きて寝られなくなったら、どうすべきなのか。
寝付きを良くする秘密兵器はホットタオル。蒸し暑い夏場に冷たいタオルならわかるが、なぜホット?
「体温より熱くて蒸気が出るタオルでカラダを拭くと、気化熱を奪って熱くなったカラダを適度に冷ましてくれます。冷たいタオルで拭くと一瞬はひんやりして気持ちいいのですが、反動で熱を逃がさないように血管が縮まり、余計に熱がこもって寝入りにくくなります」(菅原さん)
ホットタオルで拭くのは、足裏と足の指の間。服を脱がなくていいから手軽だし、表面積が広くて効率的に気化熱を奪い、寝苦しさから解放してくれる。濡れタオルをラップで包み、電子レンジで温めて使おう。
14. クヨクヨ考えすぎて眠れない。
その日の仕事と家事が終わってホッとしたのもつかの間、雑事に紛れて忘れていた積年の課題や懸案が、次々と頭に浮かんでくる。先送りしていた人間ドック、ローン、転職、果ては年金問題など、クヨクヨと考えているうちに緊張して交感神経がオンになり、頭が冴えて眠れなくなる場合も。
「今日明日で解決しない事柄を延々考えて悶々とするのは時間の無駄。一度アウトプットして吐き出すと肩の力が抜けてラクになり、リラックスして眠れます」(白濱先生)
書いて記録するとひと安心するし、昼間に見直して解決の糸口が見つかったときに改めて向き合えばいい。パソコンやスマホに記録するとブルーライトを浴びるから、スケジュール帳や日記帳などの紙媒体に書こう。
15. 寝苦しくて眠れず、日中に眠くてたまらない日もある。そういうときに活用したいのは、昼寝(ナップ)。
昼寝は15〜20分でステージ2くらいの深さの眠りに入り、睡眠物質を消費せずに睡眠不足をカバーする。
「それ以上長く眠ると深い眠りに入り、その夜寝ようとしても寝付けない。昼寝をするなら1回30分まで、午後3時までに済ませましょう。ベッドだと深く長く眠りがちなので、机に突っ伏したり、ソファで寝たりしてください」(白濱先生)
昼寝前に飲んでおきたいのが、コーヒー。コーヒーに含まれるカフェインは30分ほどで覚醒作用を発揮。昼寝直前に飲むと、起きた頃にちょうど効き始めて、すっきり目覚めて仕事にもスムーズに復帰できる。
PROFILE
白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)/睡眠専門医。睡眠、呼吸器内科、在宅医療の専門クリニック〈RESM新横浜〉院長。筑波大学医学群医学類卒業。医学博士。著書に『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』(アスコム)など。
三橋美穂(みはし・みほ)/快眠セラピスト、睡眠環境プランナー。寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまで1万人以上の眠りの悩みを解決。寝具や快眠グッズのプロデュースも行う。著書に『眠トレ!』(三笠書房)など。
菅原洋平(すがわら・ようへい)/作業療法士、ユークロニア代表。国際医療福祉大学卒業。睡眠に着目した臨床、生体リズムや脳科学を踏まえた人材開発を行う。著書に『誰でもできる!「睡眠の法則」超活用法』(自由国民社)など。