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LSDランは脳や食欲にも作用する! 脂肪燃焼にとどまらない16の効能を徹底プレゼン

ダイエット目的のランナーに人気の高い“LSDラン”。しかしその真価を知っている人はまだまだ少ないはず。脂肪燃焼効果の他にも、ミトコンドリアの増加や怪我リスクの低さ、果ては脳にまで効くなど、多くのメリットがあるのだ。この記事でLSDランが持つ16もの効能を徹底プレゼン!

1.ウォークよりもランよりも、脂肪が燃える

体内で消費した酸素量に対して、発生した二酸化炭素量の体積比を呼吸比という。この値が1.0のときはエネルギーとして糖質だけが使われていることを意味する。運動強度でいうと、1500m走やボート競技など限界ギリギリの運動時は、ほぼこの状態。これらの運動強度を100%とすると、その60%程度までの運動強度で、脂肪は効率的にエネルギーとして利用される。

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LSDに相当する運動強度は50〜60%。まさに脂肪燃焼ゾーンにドンピシャ当てはまる。しかも、歩くより多くの筋肉が動員されるのでたくさんのエネルギー消費が見込める。スピーディなランニングより長い時間続けられるので、トータルで使われるエネルギー消費量はやっぱりLSDに軍配が上がる。というわけで、脂肪がじゃんじゃん使われて効率的に痩せられるという寸法。

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運動強度とエネルギー源の関係
安静状態から運動強度60%くらいまで、脂質がエネルギーとして利用される割合は約半分。それ以上になると糖質が優位にエネルギーとして利用される。

2.LSDと歩行、同じ時間でも効果は倍

下のグラフは台湾の人を対象にした興味深いデータ。一日にカラダを動かす時間と死亡リスクの相関関係を調べた研究結果だ。

普通歩行のスピードで歩く場合と、ジョギング程度のスピードで走る場合ですべての死因の死亡減少率を比較してみると、20%減少させるのに必要な運動時間はウォーキングで約42分、ジョギングでは約12分だという。

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死亡減少率と身体活動時間の関係
健康効果を狙うなら、ウォークよりジョグの方が圧倒的に時間が短縮できる。長時間運動のLSDならさらに高い健康効果が狙える。どちらにしても効率的。

LSDはただゆっくり走るのではなく、長時間走り続けることが重要なお題。たとえば、ウォーキングと同様の約42分走り続けたとしたら死亡減少率は40%以上にもなる。つまり、歩いて得られる恩恵の倍。これはとっても効率的。

もしあなたが、健康のために何かやりたいけれど時間がないという場合、同じ時間で倍の効果が得られるとしたら、さて歩きます? 走ります?

3.体力も決意も一切不要の低ハードル

スタミナを向上させたい、今より1秒でも速く走れるようになりたいという場合は、インターバルなど高強度の運動を取り入れる必要がある。ただし、誰もがそうしたトレーニングに簡単に挑めるわけではない。

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いや、そんなの目指してないし、辛いのイヤですからという人にとっては、LSD以上に適した有酸素運動はないといってもいいだろう。なにせ、体力という素地がいらないからだ。

自力で立てるならばゆっくり歩くことはできるはず。通勤や散歩で日常的に歩けるならばスローペースで走れるはず。そのついでにちょっと長めに走ってみる。これこそがLSDなのだ。

スタートするのに特別な決意は必要ない。なんだったら途中で歩いても構わない。体力に自信がなくても今日から即、始められるというわけです。

4.ジョギングよりさらに楽だから長時間走れる

先ほどからゆっくりゆっくりと連呼してますけれど、人によってそのレベルは違うはず。ボルトの「ゆっくり」は自分にとっては全速力、いやそれ以上かもしれないし。

その通り。すべての人の運動強度を並列で語ることはできない。そこで、よく利用されるのが「主観的運動強度」という尺度。指標6の「安静」から指標20の「もうだめ」までのレベルがあり、人がそのような感覚を覚えるのは大体これくらいの心拍数でしょうという数値が対応している。

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己の主観で「ゆっくり」を把握しよう。
スウェーデンの心理学者、グンナー・ボルグが開発した運動指標。運動による辛さを表現する言葉と心拍数の相関を示した評価スケールだ。これでいうとLSDは11。

今回推奨するLSDは主観的運動強度でいうと、11の「楽に感じる」レベル。ジョギングよりもやや低い設定だ。ちょっとでもキツいと思ったら、それはLSD的にはオーバーペース。長く動き続けるという目標が達成できない。「こんなに楽でいいの?」くらいでいいのだ。

5.痛みやケガのリスクが低く、長続きする

膝が痛いふくらはぎが痛い足首が痛い。初心者ランナーが訴えがちな足の痛みあれこれ。すべては自分が思っている以上に速いペースで走っていることが主な原因だ。

地面反力をうまく利用できない初心者が速いペースで走ろうとすると、地面を蹴っては止まるという繰り返し動作になる。さらに、軸が整っていないのでそのたびにバランスが崩れる。崩れたバランスを脚で持ち直そうとするので膝やふくらはぎ、アーチに負担がかかり痛みが生じるのだ。

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その点、歩きの延長に近いLSDなら一歩一歩の歩幅が狭く、ほぼ両足着地に近い状態。安定性が高いのでバランスがとりやすく、脚に負担がかからない。そのゆっくりスピードを保ちながら重心をぐっと体幹に引き上げれば、さらに脚への負担は軽くなる。痛みなしケガなし、が長続きの秘訣。

6.毛細血管および脂肪燃焼組織が増えていく

LSDをトレーニングとして取り入れる最大の目的のひとつは、持久的能力の向上。長時間動き続けることができるカラダづくりだ。

これを小難しく言うと、遅筋の機能を強化し、新たな毛細血管を作り出し、細胞内で酸素を取り込み脂肪燃焼を引き受けるミトコンドリアの数を増やす。などなどの身体効果を狙うというもの。

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運動強度とPGC-1αの関係
血管やミトコンドリアの数を増やす遺伝子の名はPGC-1α。その発現率を見ると、高強度運動が最も高い。でも乳酸が溜まり始めるLTレベルの8割のゆるい運動でも発現が見られる。

超メジャー学術誌『ネイチャー』で発表された有名な仮説がある。不活動の人に比べて日常的に運動する人は、ある遺伝子が発現して血管やミトコンドリアを増やしたり、肥満やがんなどの原因となる全身の炎症を防ぐというのだ。

高強度運動であるほどこの遺伝子の発現率は高いが、LSDでも発現の期待は十分できる。長く走れるようになるほどに、血管やミトコンドリアが増え、肥満から遠ざかると考えてよし。

7.走った後もEPOCで痩せるかも?

下のグラフはウォーキングのグループとランニングのグループを比較した、ちょっと不思議なデータ。同じ運動量をこなした両者のウェストの変化を比べてみると、歩くより走ったグループの方がウェストサイズが下がっていた。

理論的にこれはあり得ない話。なぜなら、消費エネルギーが同じであれば燃える体脂肪の量も同じなはずだから。歩こうが走ろうが同様に痩せていくはず。

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同じ運動量でも走る方が痩せる。
被験者を太っている順の4グループに分けてウォーキングとランニングを行ったところ、太いグループ(一番右)ほどランニングでのウェストサイズの減少率が高かった。

この報告を行った研究者は、次のような仮説を立てた。走ったグループのウェスト減少率が高かったのは、運動後のEPOCが理由ではないかというのだ。

EPOCとは運動後のカラダを安静時の状態に戻すために酸素の消費量が増え、その分脂肪が燃えるという仕組みのこと。強度が高いほどその効果は期待できる。同じ運動量でも歩くより走る方が痩せるなら、LSDもやりがいがある。

8.LSD1時間で食欲ダウンの可能性大

同じ運動量でもウォーキングとランニングでは後者の方が体重の減少率が高い。これは、前述した通り。EPOCをはじめその理由はいろいろ考えられるが、消化管ホルモンという可能性もある。

消化管ホルモンというのは、食欲をコントロールするネットワークのひとつ。胃から分泌される食欲促進ホルモンのグレリン、腸管から分泌されるPYY、GLP―1といった食欲抑制ホルモンがよく知られている。切ない空腹感や幸福な満腹感は、こうしたホルモンの影響を少なからず受けているのだ。

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このうち、PYYやGLP-1は運動によって分泌が促されることが分かっている。大阪市立大学の研究では最大運動強度の50%の運動を60分行ったところ、これらのホルモンの分泌量が増し、食欲が抑制されることが分かったという。なんとこれ、ちょうどLSDペース!

9.歳をとっても腱のバネ機能をキープできる

日常的に歩いている高齢者と走っている高齢者にヨーイドンで歩いてもらうと、後者の方がエネルギー効率が明らかにいいという結果が出た。同じスピードで歩くときに、より省エネで余裕シャクシャク歩き通せる。ウォーキング群に比べてランニング群のエネルギー効率は7〜10%良く、20歳の若者と同等だったという。

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ランナーはエネルギー効率が20代並み。
秒速1mのウォーキングは信号を渡るスピード。シニアランナーはそれ以上のスピードでも効率のいいウォーキングができる。理由は筋肉だけの力でなく、腱のバネ機能を利用しているから。

その理由は筋肉と骨を繫ぐ腱のバネ機能が維持できているから。このため少ないエネルギーでスタスタ歩くことができるのだ。

加齢によって硬くなりやすい腱はLSDで保てる可能性十分。

10.免疫力アップを狙うなら、無理のないLSD

マラソンのような長時間運動をすると免疫機能が低下し、長くて72時間後まで風邪などの疾患にかかりやすいといわれている。ところがよくよく調べてみると、感染リスクが高くなったのは、レース前の練習量に見合わないペースで追い込んで走ったランナーたち。

運動後に免疫機能が低下する「オープンウインドウ仮説」というものがあるが、どうやらそれ、体力に見合わない強度やボリュームで運動した場合のことらしい。

適度な運動が免疫力向上に繫がるが、過度な運動は逆効果。LSDはその点、免疫力アップに有効。

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適度な運動は免疫力向上に繫がる。
外部からの侵入物を防ぐのは、体内に備わった免疫システム。運動不足の人に比べて適度な運動を行っている人は免疫力が高く、過度な運動を行っている人は運動不足の人以上に免疫力が低下する。

11.肩こりや腰痛、加齢による痛みが軽減される

人間歳を重ねていくと、肩、膝、腰などが痛むことは珍しくない。そこに運動で負荷を加えようものなら、さらなる痛みを背負い込むことになるのでは?

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ところが、さにあらず。こんな報告がある。同じ地域に暮らす65歳から80歳の人々に痛みのアンケートをとったところ、男女ともに走る習慣がある人は自覚する痛みのスコアが総じて低く、走っていない人たちは60歳以降、顕著な痛みを抱えていることが分かった。

ランニングは将来的にカラダの痛みを増やすどころか、減らしてくれるというお話。

12.適度なLSDはやる気、元気、鎮静効果をもたらす

やる気を促すノルアドレナリン、気分をリラックスさせるセロトニン、快感をもたらすドーパミン、これらはモノアミン系と呼ばれる脳の3大神経伝達物質。

これらが脳の神経細胞同士の繫ぎ目で分泌されると、やる気や元気やリラックスというプラスの精神状態を保つことができる。適度な有酸素運動は、これらモノアミン系の濃度を増やす効果があるという。近年では医療の現場で運動によるうつ症状の改善や予防などの研究も数多く行われている。凹んだときはLSDでスカッと爽やかに。

13.そこそこ飲んでもアルコールによる脳の萎縮が防げる

アルコールの大量摂取を長期間続けると、脳はいずれ萎縮していく。加齢による記憶・学習能力が低下し、認知症になるリスクも高まることが知られている。ところが、MRIで脳の体積を計測してみると、たとえ平均以上にアルコール摂取をしていても、運動量が多い人は脳萎縮の度合いが少ないという。

じゃあLSDをやればいくら飲んでも大丈夫? 大丈夫じゃない。大量飲酒は筋の破壊(アルコール筋症)を招くこともある。筋が萎縮してしまえばLSDどころではない。あくまで適量飲酒で。

14.長時間動き続ける持久系スポーツは生存率を高める?

「アスリート=早死に」という俗説があるが、その説を覆すデータがここにある。

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スポーツ種目別の生存率は?
フィンランドの異なる9種目の元五輪・世界大会選手の生存率を同時代・同地域の健康男性と比較したデータ。持久系スポーツ選手は最も生存率が高く、60代半ばまで横這い状態を維持している。

オリンピックや世界選手権に出場したトップ選手と一般の健康男性の年齢別生存率を調べたところ、一般男性のそれは最も低く、50歳前後でぐっと生存率が低下していた。

ニアイコールで生存率の落ち込みが早かったのはウェイトリフティングなどのパワースポーツの選手。3番目がチームスポーツ選手で、最も生存率の低下が遅かったのは持久系スポーツの選手。LSDはもちろん持久系運動。長生きできる予感満々。

15.脳の血流量がどっと増して頭が冴える

筑波大学運動体育系・征矢英昭教授の研究によれば、運動を始めて徐々に強度を上げていくと、脳、とくに運動野と前頭前野の血流量があるところでどっと増えることが分かったという。

血流量が増える「あるところ」とは血液中の乳酸が増え始めるLTレベルの少し前。運動強度にして60%前後。もっと強度を上げていき、強度が65%、70%となると血流量は逆に減っていくらしい。

つまりLSDペースで走っている間は理性と創造を司る前頭前野の血流量が増している状態。いいアイデアが浮かぶかも。

16.LSDを続ければ生活習慣病リスク恐るるに足らず

3万人以上のランナーと1万5000人以上のウォーカーの高血圧リスクを比較したある報告では、強度にかかわらずランナーの方がウォーカーより軒並み低かったという。別の報告では平均6年間のランニング経験を持つ人の心疾患や脳卒中などの死亡リスクは50%低下したという結果。

またPGC-1α遺伝子は体内の炎症によって発症する糖尿病や動脈硬化の改善にもひと役買う。つまり、LSDの継続で近い将来の生活習慣病のリスクをぐっと低くすることができる。もはや走るクスリ。

取材・文/石飛カノ 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子/ヘア&メイク/天野誠吾 監修/石井好二郎(同志社大学スポーツ健康科学部スポーツ健康学科教授)、牧野 仁(JAPANマラソンクラブ代表=底力5)参考文献/『新版これでなっとく 使えるスポーツサイエンス』(講談社サイエンティフィク)

(初出『Tarzan』No.705・2016年10月6日発売)

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