ランが続く人、続かない人は何が違うのか? 5つの要因
身体能力や運動能力は関係ない! 初心者ランナーに特有な弱点は、5つの要因を軸に分析できる。ランに慣れるカラダを作るためのポイントを解説します。
取材・文/黒田 創 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/大谷亮治 監修/鍋倉賢治(筑波大学体育系) 取材協力/牧野 仁(Japanマラソンクラブ代表)
(初出『Tarzan』No.728・2017年10月12日発売)
我スポーツには自信あり、と張り切って走り始めたはいいけどすぐにバテバテ。その横を涼しい顔して通り過ぎていく高齢のランナー。明らかに自分の方が走れそうなのに…。
そう、ランニングは往年の運動経験が意外と通用しない不思議なスポーツ。ゆえにスポーツ未経験者でも、お年寄りでも始められるわけだが、実はランニングに必要な持久力を伸ばすには、ラン中にいかにして体内の環境をキープできるかが鍵。それは身体能力や運動能力などとは別のベクトルの話なのだ。
走ることで変わる体内環境は主に次の5つ。「心拍」「エネルギー」「体温」「バランス環境」「筋肉」。これらを的確に把握することが持久力アップのポイントとなるのである。
初心者ランナーは、5つの要因を軸に特有の弱点を知ろう。辛いカラダには何が起きているのか? まずはそこを客観的に見つめるところから、ランに慣れるカラダを作ろう。
1. 初心者は、30分でもキツい?
初心者はまずゆっくりペース、キロ7~8分くらいで走りましょう」。ランニングを始めると必ずと言っていいほどアドバイスされる言葉だ。
でも「昔からずっとスポーツをやってきたし、そんなチンタラしたペースじゃ格好悪いよね」と右から左に受け流し、勢いよく走った結果、ものの20分程度でゼエゼエ。ほら、言わんこっちゃない。
こういうタイプは、ランニングを体育の授業でやった1500m走と勘違いしていないだろうか。
1500m走はその距離だから全力で走れるわけで、同じペースで10kmや20km、ましてや42.195kmなんて走れっこない。どんなエリートランナーだって、1500mを全力走したら全身オールアウト。上記のような初心者ランナーは、それに近い走り方をしているのだ。つまり強度が高すぎ、オーバーペース状態なのである。
オーバーペースで走るとエネルギー代謝を阻害する乳酸が出るかもしれないし、筋肉痛が起こるかもしれない。心拍数は跳ね上がり、当然、息切れもする。ランに慣れていない初心者のカラダではかようにさまざまなことが起きている。結果、「ランニングなんて苦しいし、やってられない!」と、三日坊主になるケースも。実にもったいない。
まずは、苦しくない心拍数をキープしてみよう。最初は少しもどかしいかもしれないが、そのうち「このペースならずっと走り続けられるかも」と気付くはず。そうなればしめたもの。30分、1時間と長い時間走れるようになるし、距離も延びていく。まずはゆっくり走ることで持久力をつけていこう。
2. カラダの糖が低下する
ランニングを含め、カラダを動かすときにエネルギーに使うのがカラダに蓄えられている糖質と脂質である。糖質が持つエネルギーは、その貯蔵量にもよるが約1600~2000キロカロリー。一方の脂質は莫大で、体脂肪率10%のやせ型でも4万2000キロカロリーといわれている。
だったら脂質をエネルギー源にすればフルマラソンも余裕じゃない?とも思うが、そうはうまくいかない。
脂質は糖質よりエネルギー変換効率が悪く、走るときに脂質がしっかり使えるようになるには練習に工夫が必要。まずはエネルギー変換効率の高い糖質を上手に使うことを考えよう。
初心者がペースを無視して走る、つまり高強度ランを行うと、一気に糖質エネルギーを使ってしまう。うまく脂質エネルギーを使えないカラダなら、その時点で走れなくなることも。初心者が長時間走れないのは、そのあたりも大きい。
なるべくゆっくり走れば一気に糖質の貯蔵量が低下することはないし、途中でスポーツドリンクや甘いものを摂れば一時的にせよそれがエネルギー源となり、長時間走り続けることができる。これはランナーの基本知識として覚えておきたい。
走り始めは糖質の方が使われる割合が大きいが、下のグラフのように、ゆっくり長く走り続けられるようになると、脂質がエネルギーとして使われる割合が増えていく。
つまりレベルが上がるほど、莫大なエネルギー源である脂質をうまく使えるようになるのだ。早くランニングに慣れて、その域を目指そう。
3. 汗をかいてだるくなる
夏に比べるとかなり走りやすくなったとはいえ、秋も長時間走れば汗をかく。
このとき水分と一緒に体内のナトリウムが外に出てしまい、浸透圧のバランスが崩れて疲れの元になってしまう。つまり発汗具合も持久力を左右する大きな要因といえる。
医学的には体重当たりの脱水量が2%を超えると運動パフォーマンスが低下し、3%以上で熱中症の危険性が高くなるとされる。涼しい季節だからって汗をかいたらかきっ放しなんてのは言語道断。汗で失った分の水分はスポーツドリンクなどで必ず補わないといけない。
もうひとつ、暑さによって同じペースで走っていても時間とともに心拍数が上がる「心拍数のドリフト現象」が引き起こされることも知っておきたい。これは一定ペースで走っているつもりでも、心拍の方は思ったより高い数値を示している状態を指す。ドリフト幅が大きくなると、パフォーマンスは低下していることになる。
下はこの記事の監修者、筑波大学体育系教授・鍋倉賢治さんが東京マラソン(冬環境)とホノルルマラソン(夏環境)を同じペースで走り、心拍数と速度を比較したグラフ。
寒い東京マラソンは心拍数の上昇を描く線はなだらかで、40kmあたりでピークを迎えるが、12月とはいえ常夏のホノルルマラソンではスタートから勢いよく心拍数が上がり、20~25km地点で早くもピークに。それだけカラダにかかる負担が大きくなっているわけだ。
これからは走る際の気温も忘れずにチェックしておこう。
4. 体温が高くなってキツくなる
長時間ランがカラダに及ぼす影響はいろいろあるが、体温の上昇もパフォーマンスを低下させる大きな要因だ。
「とくに気温の高い日のランは体温が上がりやすくなります。この熱を放散させるべく、汗をカラダの外に出して水分を蒸発させたり、皮膚を通る血管の血流量を増やしたりするのですが、皮膚の血流が増えすぎると、相対的に体内を循環する血液が減ってしまい、それが疲労につながるケースがあります。
その影響が出始める目安はだいたい気温15度前後。真冬ならまだしも、今の時期は20度を超える日がまだ多い。秋とはいってもしばらくの間はランニング中にカラダを冷やすことを意識する必要があります」(鍋倉さん)
日よけグッズを使ったり、水や氷でカラダを冷やしたり。暑さ対策は決して夏だけのものではないと心得よう。
体温の上昇とランニングのパフォーマンス低下の相関関係を如実に表す実験データがある(上グラフ参照)。
長い距離を走ると、20km走、フルマラソンどちらの場合でも終盤のオールアウト寸前に直腸の温度が上昇する傾向があり、ゴール時、つまりオールアウトしたときはこれまた距離に関係なく、だいたい40度程度になるというもの。
「おそらく体力の限界に近づくと体温が上がり始め、それ以上は頑張りが利かないというサインのひとつとして体温(直腸温)が40度近くになるのではと推測できます。その点から考えると、体温の上昇はランによる疲労度を判断する基準のひとつといえるでしょう」(鍋倉さん)
5. 筋疲労が起きて動かなくなる
初心者が走り始めて早い段階で速度が落ちたり走れなくなってしまうのは、筋疲労による筋肉の張りや痛みも原因のひとつである。
まず考えられるのが乳酸の発生によるもの。速く走ると、急な筋伸縮によって筋肉への酸素の供給が追いつかなくなる。するとエネルギー源である糖がうまく代謝されず、燃えカスのような形で乳酸が残ってしまう(血中乳酸濃度の上昇)。その乳酸が筋肉の中に溜まって筋肉を収縮させることで、筋疲労が起こるのだ。
ちょっと息が上がるくらいのLT(乳酸性作業閾値)ペース以下で走っている限りは、血中乳酸濃度はそれほど上昇せず、筋疲労が起こることは少ない。
つまり短い距離でもすぐに脚がだるく感じたりするのは、要はスピードが速すぎるのである。初心者ほどゆっくり走るべし、という理由はそのあたりにもある。
ランナーの筋疲労のもうひとつの原因は、長距離走で筋損傷が起こることによるもの。これは単純に筋肉が長時間にわたり伸縮を繰り返すと発生するが、筋線維の修復にはだいたい3日かかるので、その間休息やケア、栄養補給をしっかり行うこと。
休んだ後に筋疲労の回復過程で、走り込みなどで適切に負荷をかけると、筋肥大や酸素摂取能力などの向上が期待できる。即ち超回復と呼ばれる練習法だが、初心者はまずゆっくり長く走れることを目標にしてみよう。あとはスクワットなどの筋トレを行い、筋疲労に強いカラダ作りも最近のランナーの考え方である。