原因はおつまみにあり!飲酒がお腹太りに直結するメカニズム。
お酒が大好きだったり、仕事関係で飲まざるを得なかったり。腹回りの変化の原因は分かっているものの、禁酒というものは一筋縄ではいかない。それなら「太りにくい」飲み方に変えればいいのだ。肝臓の専門医に「お酒で太る理由」と、その対策を伝授してもらった。
取材・文/黒澤 彩 撮影/北尾 渉 イラストレーション/飯田 淳 編集/堀越和幸
初出『Tarzan』No.901・2025年4月17日発売

教えてくれた人
浅部伸一(あさべ・しんいち)/医学博士。肝臓専門医、消化器病専門医。東京大学医学部卒業。現在は米系製薬会社で新薬開発に携わる。新刊『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(葉石かおり著)医学監修。
目次
お酒と腹の関係をひもとく。
“ビールっ腹”なんていう言葉があるように、酒とお腹太りは分かちがたいようにも思えるが……?
「お酒を飲む人でもお腹を凹ますことは可能ですよ。完全に断酒しなくても大丈夫です。ただ、一般的にいわれているように“飲むと太りやすい”というのもおおむね事実。お酒で胃腸の動きがよくなって食欲が増進しますし、大量飲酒をすれば脂肪肝にもなります。飲み方、食べ方、合わせるつまみ選びなどの工夫は欠かせません」
こう話すのは自身も大の酒好きという肝臓専門医の浅部伸一さん(心強い!)。まずは、どうして飲酒がぽっこりお腹につながるのか? そのメカニズムをひもといていこう。
酒自体は“エンプティーカロリー”。

同じ酒飲みでも、つまみをよく食べる人ほど太りやすく、酒ばかり飲んでいる人は案外太りにくいという違いが。
多くの酒はそれ自体にはカロリーがあるが、それらは“エンプティーカロリー”と呼ばれている。どういうことだろう?
「お酒のカロリーは、すぐにエネルギーとして使われるからです。私の推測では、アルコールはカラダに有害なものなので、体内から早くなくしてしまうために、優先的に代謝されるのではないかと考えています」
酒を飲んで太るのは、酒とともに食べたつまみの方が脂肪として蓄えられやすいからだ。
「アルコールに糖質というイメージを抱く人もいますが、実は脂肪の親戚、代謝経路が似ている。カラダはアルコールを優先的に代謝しながら、食事を脂肪として蓄えようとするのです」
締めの一杯は低血糖によるものだった!

〆のラーメンはカラダが欲しているのではなく、脳の誤作動。「食べたい気がするだけ」と自分に言い聞かせよう。
飲酒によって、血糖値が下がることがわかってきた。先に説明したように、アルコールは脂肪に近い性質を持つものなので酒から血糖が作られることはないのだという。
「血糖値が下がると、お腹が空いたかのように感じてしまうのが問題です。〆のラーメンを欲するのは、一時的な低血糖によって脳が誤ったシグナルを送ってくるため。十分食べているのに、もっと栄養を摂らなければ! という本能が働くのです」
でも、実際にラーメンを食べてしまえばカロリー過多に。おにぎりやお茶漬け少量で十分。血糖値が上がるまでに30分ほどかかるので、その間にたくさん食べすぎないように注意を。
飲酒した翌日に顔がむくむのはなぜ?

しょっちゅうトイレに行きたくなるのは脱水が起きている証拠。水を補いつつ、塩辛いつまみには手を伸ばさない!
「アルコールは利尿作用によって脱水が起きます。必要以上に尿を作り出すことで、カラダの水分が失われます」
一方のむくみは水が溜まることなので、脱水とは逆の現象。それが同時に起きるとは?
「水は血管外の組織に溜まるので、むくんでいるのに血管中の水分が足りないということは起こり得ます。飲酒のむくみの原因は主におつまみの塩分。カラダは塩分濃度が高い状態に耐えられず、水を欲します。一方、腎臓では尿をどんどん作って出しているので、水分調整のバランスが崩れてしまうのです」
むくみのせいで太って見えるタイプの人は、酒量、食べる量のほかに塩分量にも要注意だ。
酒の席の記憶はなし。でも家には帰れる理由。

一度ほろ酔いになると、「もうやめておこう」と自分で判断するのは難しい。だらだら飲む習慣が腹回りの肥大につながる。
アルコールは、カラダだけでなく脳に作用するのが特徴。
「脳の中では、脳幹が生命維持を、大脳辺縁系が本能や感情を司ります。理性や思考を司るのは大脳皮質で、短期記憶は海馬ですが、ここがアルコールにもっとも弱い。酒席で話した内容は覚えていないのに、家に帰れた経験がある人も多いでしょう。あれは、大脳辺縁系まではやられていないけれど大脳皮質と海馬がお酒で麻痺した状態です」
飲みすぎないという決意も、大脳皮質の麻痺によって理性が保てなくなればそれまでだ。
「家で飲むときは、初めに飲む量をきっちり決めておきましょう。ビールなどを余分に冷やさないようにするのも有効です」
糖質が気になる時、飲むべきはやっぱり蒸留酒?

酒の味わいと糖質はだいたい比例するので、甘い酒は大敵。飲みやすいカクテルなどにも気をつけよう。
お腹回りのほか、どうしても気になるのは糖質。焼酎、ウィスキーなどの蒸留酒には糖質がなく、ビール、ワイン、日本酒などの醸造酒は糖質を含む。ならば蒸留酒一択かというと、そうとも限らないのだそう。
「蒸留酒はアルコール度数が高いわりに、味わいがさっぱりしているのでスイスイ飲んでしまいがちです。たくさん飲めば、カロリーは醸造酒と変わらなくなるので、少量を割って飲みましょう。個人的には、糖質だけを気にするよりも、おつまみも含めたトータルで考えたほうがカロリーを調整しやすいと思います。たとえばご飯ものや麺類を食べながら飲む人には、蒸留酒のほうがおすすめです」