レジェンドも降臨!女子プロレスをより楽しむための3つの“証言”。
髪を振り乱し、ピュアなまでにリングに情熱を注ぐ女子プロレスラーたちの姿が今また人々を熱くさせている。その根底にある魅力をさまざまな“証言”とともに探る。
編集・取材・文/徳原 海 撮影/田邊 剛(サリー)、干田哲平(岡崎実央)、山田 陽(長与千種)
初出『Tarzan』No.899・2025年3月19日発売

目次
岡﨑実央の証言|女子プロレスは、芸術だ!
プロレスをはじめ格闘技をモチーフにした作品で話題を集める画家・デザイナーの岡﨑実央さんは、経歴からして実にユニークな人だ。
「高2の頃に当時の彼氏の影響で新日本プロレスやWWEを見始めたのが最初。ユーチューブで昔の映像を一緒に見たりしているうちに私の方が詳しくなり(笑)。体育ジャージの下にプロレスT着ている女子は私だけでしたね」
美大での創作もとにかくプロレス一色だったそう。
「Webページを作る課題で歴代マスクマンを年代順に並べてみたり、自分が女子プロレスラーになった体でコスチュームデザインをしてみたり。半ば教授や友人たちにプロレスを知ってもらうためのプレゼンでもありました」
極めつきは卒業後の進路。『週刊プロレス』に就職したのだ。
「卒業制作の参考に週プロをパラパラとめくっていたら“契約社員募集”と書かれてあったので軽い気持ちで履歴書を送ってみたんです。すると面接に呼ばれ正社員に採用。女性記者は十数年ぶりだったとか。選手との距離感を摑むのに苦労したこともありますけれど、女子レスラーのメイク企画やアートコラムの連載を担当するなど約2年半の間でしたがペーペーなりにやりたいことができました」
その後コンペ入賞などを経て、海外からの作品オーダーを機に独立。現在はアートを通じてプロレスの魅力を多彩に表現している。
「プロレスのリングはこっちから選手の背筋が見えてあっちからは腹筋が見える、といったように席によって景色が違いますよね。それらを一枚絵に集約させるために作風はすべてピカソでお馴染みのキュビズム。だからどちらのレスラーも顔が見え、ロープに手を伸ばしていたりします。女子プロレスは綺麗さがある反面、相手の長い髪を引っ張り、鼻を歪ませといった具合に男子より人間臭さがあって。そのエモーショナルな部分に芸術性をとても感じるんです」
岡﨑実央(おかざき・みお)/1995年、北海道生まれ。武蔵野美術大学時代にプロレスを題材にした創作を始め、卒業後ベースボール・マガジン社『週刊プロレス』記者に。在籍中に新人発掘コンテスト『ARTIST NEW GATE』の中島健太賞、リキテックス賞を受賞。2021年から本格的に芸術家活動を開始。
Sareeeの証言|強くなきゃプロレスラーじゃない。
「父がアントニオ猪木さんの大ファンで物心ついた頃からプロレスが身近にありました。そして小学1年生の頃にNEOという団体の興行で初めて女子プロレスを体感し、私の進む道は決まりました」
そう原体験を語ってくれたSareeeさん。この世界に飛び込んだのは15歳の頃。なんと中学卒業と同時にプロデビュー。
「入門したかったNEOの解散が決まったためディアナで。まさか本当にプロレスラーになるとは家族の誰も思ってなかったと思います。せめて高校までは……と言われましたが決意は揺るがなかった。しかし、プロレス雑誌を読み漁っていたので厳しい世界だと知ったつもりで入ったんですけど想像以上でした(笑)。当時は体重が45kgしかなく、同期にも全然敵わなくて。プロレス好きな気持ちだけでイチからカラダを作りました」
彼女が何より大切にしているのは、シンプルに心の強さ。
「プロレスは闘い。そして強くなきゃプロレスラーじゃないというのが私の信条。だからとにかく練習して、いっぱい食べて、先輩たちの話を聞きまくってきました。それにプロレスは負けたら終わりじゃない。勝ちたい気持ちさえあれば何度でも挑戦できるし、ファンの方々の心に響くようなドラマを生み出すことができるんです」
アメリカに渡ってWWEで活躍した時期もあるが、彼女が標榜する“ストロングスタイル”はやはり日本のマットにあった。
「キラキラかわいいだけが女子プロじゃないってところをもっと背中で見せていきたい。プロレスラーは最強でなければいけない。本気の闘いを私がリングの上で証明していきます!」
Sareee(サリー)/1996年、東京都生まれ。2011年に〈ディアナ〉でプロデビュー。その後SEAdLINNNGなどでの活躍を経て20年にアメリカWWEに挑戦。現在はフリーでさまざまな団体のリングに上がりながら自主興行『Sareee-ISM』にも注力。『東京スポーツ』制定の2024女子プロレス大賞を受賞。
長与千種の証言|レジェンドが分析する、昭和・平成・令和の女子プロレス。
1980年の全日本女子プロレス入門を起点にはや45年。半世紀近くにわたってシーンを見つめ続けている長与千種さんに、女子プロレスの過去・現在・未来をあらためて語っていただいた。
「昭和の“全女”は言うならば軍隊。誰かが何かを教えてくれるでもなく、基本は見て学べ。できなければ“田舎に帰れ”と容赦なく弾かれる。それでも当時はいろんな事情を背負って全女の門を叩く人がほとんどだったから、みんな歯をくいしばって会社に反旗を翻す日を夢見ていました(笑)。平成になるとアナログからデジタルに移行していく流れとともに選手個々のキャラ設定がより明確になり、多様性や芸術性が強くなった時代。じゃあ令和はどうかというと、今は日本全国にプロレス団体が広がり、配信で試合を見ることができ、選手自身がSNSで直に発信できるようになった。いわば“ネット社会の中に息づくプロレス”。それによってファンの方々との距離がぐっと近くなったことはとても素晴らしいこと」
しかし利便性の裏に潜む課題点を長与さんはこう指摘する。
「時間刻みでレスラーの動向がわかってしまうのは、どこかアイドルの推し活みたいで近すぎるのかな。選手たちはそういうなかでもプロレスの本分を見失わず、スタイルを貫き、ひたむきに強さを追い求めていかないと。プロレスは人間力がすべてですから」
しかし時代がどんなに移ろっても変わらない芯があるという。
「デジタル化の恩恵はたくさんあるけれど、それでもプロレスの一番の醍醐味はライブ。生のリングのバンプ音とか、あの臨場感は映像だけでは全て伝わらないので、まずは会場に足を運んでほしい。あと“自分を変えたい”という選手たちの根っこにある思いだけは今も昔も同じ。だから私たちがやらなければいけないのは全ての女子レスラーが“プロレスをやってよかった”と心から思えるような土台作り。ビューティ・ペアさんの時代やクラッシュ・ギャルズの時代とはまた違う、女子プロレスの新しい時代をみんなで作り出していかないと。究極は、プロレス団体に“入門”ではなく“就職”しますって言えるくらい職業として確立させたいですね」
長与千種(ながよ・ちぐさ)/1964年、長崎県生まれ。中学卒業後に全日本女子プロレスに入門。80年に大森ゆかり戦でデビュー。84年にライオネス飛鳥と〈クラッシュ・ギャルズ〉を結成し、ダンプ松本率いる〈極悪同盟〉との激闘で大ブームを巻き起こす。94年にGAEA JAPAN、2016年にマーベラス旗揚げ。
群雄割拠! 女子プロレスの現在形。
3者の証言を踏まえたうえで、ここからは団体や注目選手など、女子プロレス界の今をぎゅっと凝縮してご紹介。さて、あなたはどこからアクセスする?
スターダム

注目選手:岩谷麻優(いわたに・まゆ)/団体旗揚げから所属している絶対的エース。得意のフィニッシュ技はドラゴン・スープレックス・ホールドやムーンサルトプレスなど。©STARDOM
「明るく激しく美しく」をテーマに、2011年1月に旗揚げ。以降、同年MVPを獲得した元グラビアアイドルの愛川ゆず季を皮切りに、これまで紫雷イオ(現イヨ・スカイ)や宝城カイリ(現KAIRI)、岩谷麻優、ジュリアら数々のスターレスラーを輩出。
現在も岩谷を筆頭に華やかさとアスリート性を兼ね備えた40人もの所属レスラーを抱えており、世界屈指の知名度とコンテンツ力を武器に女子プロレスシーンをリード。自社HPでの有料動画配信サービスを運営するほか、BS11やU-NEXTでもレギュラー番組を毎週オンエアしている。
マーベラス

注目選手: 彩羽匠(いろは・たくみ)/クラッシュ・ギャルズに憧れ2012年スターダム入り、15年マーベラス旗揚げに向け移籍。必殺技は長与直伝「ランニングスリー」。©Marvelous
2014年3月に元〈クラッシュ・ギャルズ〉の長与千種が設立し、現在は彩羽匠が代表を務める。かつて長与とともに〈GAEA JAPAN〉設立に携わったKAORUが15年に入団し、〈スターダム〉から若手の有望株であった彩羽が移籍して16年旗揚げ。
若手レスラーの発掘と育成にも注力しており、公開プロテストを行うなどプロレス界全体の発展も視野に入れながら活動。昨年大ヒットしたNetflixドラマ『極悪女王』では、俳優たちが実在のプロレスラーを演じるために約2年にわたって長与と〈マーベラス〉の選手の指導のもとプロレスの練習を積んだ。
マリーゴールド

注目選手:山岡聖怜(やまおか・せり)25年1月に大田区総合体育館でのMIRAI戦でデビューした18歳のスーパールーキー。レスリング仕込みのタックルや関節技が持ち味。©MARIGOLD
〈スターダム〉創業者であるロッシー小川が2024年4月に設立を発表した最も新しいメジャー団体。立ち上げメンバーに林下詩美、ジュリア、MIRAIら。
同年5月20日にプロレスの聖地・後楽園ホールで旗揚げ戦を行い、7月には両国国技館で団体初のビッグマッチ『MARIGOLD Summer Destiny 2024』を開催して3000人以上の観衆を集めた。
後楽園ホールを主戦場としながら、今年初めの試合を東京・大田区総合体育館で開催するなど大規模会場を使用することも多く、5月24日には1周年記念大会が国立代々木競技場第二体育館で行われる予定。
東京女子プロレス

注目選手:荒井優希(あらい・ゆき)アイドルグループ〈SKE48〉のメンバーでありながら2021年から参戦。25年3月31日をもってSKE48を卒業してプロレスラーに一本化。©東京女子プロレス
2013年1月にプレ旗揚げ、同年12月に本旗揚げ。草創期は試合とアイドルグループのライブで大会プログラムを構成し、18年頃からはアイドル兼レスラー〈アップアップガールズ(プロレス)〉のライブパフォーマンスなども人気を集めている。
他団体との交流がほとんどない独自路線を貫く一方、有名海外選手やアジャコングといった著名レスラーがスポット参戦することも多い。プールや遊園地、水族館などで路上プロレスを行うなど斬新なイベントを手がけることでも知られ、25年2月15日には史上初の「新幹線女子プロレス」が大成功。
プロレスリングWAVE

注目選手: シン・広田さくら(しん・ひろたさくら)〈GAEA JAPAN〉でキャリアを始め、1996年に長与千種とのタッグマッチで日本武道館デビューした現役レジェンド。コミカルな技も得意。©プロレスリングwave
今はなき〈ジャパン女子プロレス〉や〈LLWP〉などさまざまな団体を渡り歩いてきた元レスラーGAMIのプロデュースにより、2007年8月に新木場1stRINGで旗揚げ。09年以来、毎年5月から2か月間にわたって開催されているリーグ戦『CATCH THE WAVE』は女子プロレス界屈指の過酷さで知られる。
初代王者は現在も団体の中心で活躍中の桜花由美、24年度の王者は〈WAVE〉の頂点・レジーナ王座のほか〈スターダム〉のワールド王座も保持する上谷沙弥。4月23日にはWAVE屈指の人気を誇るシン・広田さくらが新宿FACEで自主興行を開催。
センダイガールズ

注目選手:里村明衣子(さとむら・めいこ)シーン全体の発展に多大な貢献をしてきた“女子プロレス界の横綱”。25年4月29日後楽園ホールで引退試合『里村明衣子 THE FINAL』が開催。©センダイガールズプロレスリング
仙台市を中心に活動する地域密着型女子プロレス団体。長与千種が設立した〈GAEA JAPAN〉の里村明衣子が、同団体の解散に伴い〈みちのくプロレス〉新崎人生とともに2005年4月に立ち上げ。
当時のプロレス経験者は里村のみで、他の選手はオーディションを経て里村自身が一から鍛え上げたといわれており、所属選手同士の対戦は行わず他団体やフリー選手を迎え撃つスタイルを取っていた。
仙台市との協力体制も強固で、福祉活動や学校講演、地域イベントなどにも積極的に参加することで地元ファンから高い支持を得る。
海外&フリーで活躍する女子プロ選手
上で紹介した団体や注目選手はあくまで一部。他に〈ディアナ〉や〈シードリング〉などの実力派メジャー団体もあれば、地方のローカル団体も多く存在する。
そして外せないのが“海外組”とフリー勢。特にアメリカ〈WWE〉で活躍中のカイリ・セインことKAIRIとジュリアは要注目で、選手としての地力に加えて“魅せ方”も高いレベルが求められるアメリカで確かな存在感を発揮。
今もし凱旋マッチが行われたなら満員札止めは必至。フリーではウナギ・サヤカ。ド派手なルックス&言動で各団体を自由奔放に往来する“お騒がせ”レスラーは、一方でさまざまな自主興行を展開するバイタリティを併せ持つ。

©WWE
KAIRI(かいり)/〈スターダム〉出身のIWGP女子初代王者。2017年に「カイリ・セイン」のリングネームでWWE進出。女子タッグ王座などを戴冠。

©Getty Images
ジュリア/〈マリーゴールド〉の立ち上げに参画した後、24年9月に渡米してWWEデビュー。その強烈なキャラクターは本場でも人気上昇中。

写真提供/Ryota
ウナギ・サヤカ/〈東京女子プロレス〉出身。2月に里村明衣子とのワンマッチ興行で後楽園ホールを満員に。25年4月26日に両国国技館で自主興行開催。