
教えてくれた人
内坂庸夫(うちさか・つねお)/フリーエディター。〈ヴァン ヂャケット〉宣伝部を経て伝説の雑誌『Made in U.S.A Catalogue』、『POPEYE』、『Olive』そして『Tarzan』の創刊に携わる。若者文化、そしてフィットネスシーンの伝道師であり、生き辞引。毎年ヨーロッパアルプスのモンブランを舞台とするトレイルランニングレース『UTMB』にも参加するなど、現在もなお実践者であり続ける。
持ち物・準備にまつわるアイディア。
1.「山歩き本」や「ハイキング本」を読む。
トレランのコースを選ぶ方法はいくつもあるけど、まずひとつ目。参考にするのはわかりやすい地図のついた「山歩き本」「ハイキング本」です。くれぐれも「登山」や「名山」などのタイトルは避けましょう、そっちは本気の山登りの案内本ですから。
2.必読本は『山と高原地図』。
ガイド本にはちょっとした地図もついているけど、もうひとつ「必ず」用意してほしいのが〈昭文社〉の『山と高原地図(日本全山域63地図)』。ガイド本で選んだコースの周辺(隣の山や峠、予備のトレイル、隣の駅や国道など)がしっかり見渡せます。「歩行」所要時間も詳細で、また、等高線で斜度(上り下り、平坦)がわかります。なにより、コピーしておけば、ペラ1枚でも現場の役に立ちます。
3.はじめてなら厚底シューズ。
舗装路と違って、山には下り坂があります。急斜面はブレーキをかけながら下ることになります、一歩一歩の衝撃吸収(等張性筋収縮)のために筋肉(特に大腿四頭筋)を使ってしまいます。ですから初心者こそ厚底シューズで下りのショックをやわらげましょう。
4.最初のザックは12〜15L。
水や必携品を運ぶためにザックが必要です。まずは容量12〜15Lのサイズを選びましょう。これなら四季を通じていつでも(レースでも)使えます。背負ったまま、ケータイ、行動食などを取り出せるように胸や脇に大きなポケットのついたタイプがいいでしょう。
走りながら「首を傾けるだけで」水が飲めるように、胸の左右に水筒を収められるようデザインされたザックが主流です。水筒は水を飲んで水量が減るにつれ、容器もペタンコになってゆくという柔らかい樹脂のソフトフラスクが使いやすいです。
吸い口を歯で軽く嚙んで吸えば、口の中に水が流れ込むという構造も素敵。ザックと同じブランドならザックへの収納もぴったり、容量は500mL(をふたつ)が正解です。
5.救急セットは自分オリジナルで。
山のケガ、いちばんは転倒による膝や手のひらの擦り傷、切り傷。なので、アルコール消毒綿、大きめの絆創膏、キズ軟膏は必ず持っていましょう。胃薬や下痢止めが必須かもと、自分のやりがちなケガやトラブルを予測して救急セットの中身を用意しましょう。
低体温症に備えて、エマージェンシーシートはみんな持っていた方がいいです。
6.濡れて困るものはポリ袋へ。
トレランは汗をかきます、シャツもパンツもしっとり、夏はびしょびしょです。背負ったザックもびしょびしょです、中身もびしょびしょになります。なので、ザックに収納する着替えや用具など濡れて困るもの(ほとんどがそうでしょう)は、シールつきのポリ袋に入れましょう。
7.大きなポリ袋とエコバッグは必携。
いかんせんトレランはビショビショになるものですから、走ったあとのザックは濡れているし汗臭いのです。帰りの電車の中、むき出しは他の人に迷惑です。臭いウェアと一緒に大きなポリ袋に入れて、そしてエコバッグなどに入れて持ち帰りましょう。
8.ぺらぺらウィンドシェルを携帯。
山ではいつも必ず持っていたいのがウィンドシェルあるいはウィンドジャケットと呼ばれるぺらぺらの風よけの上着。防水ではなく撥水、保温というより風よけ、でもめちゃ軽い。
天気がよくても、日陰で汗冷えすることがあるし、山の北斜面で風に吹かれれば寒いです。山への往復の電車の中の冷房が効き過ぎってこともあります。小さく丸めれば「おにぎり」以下になっちゃう、一年中いつでもどこでも携帯しましょう。
9.万が一のヘッドライトを用意。
ハイカーも登山家もみんなそう。暗くなる1時間前(余裕をもって冬なら3時、夏なら4時)に麓に下るのが山の鉄則だけど、「何か」が起きることを予測して、頭につける(両手が使えます)ヘッドライトをザックに入れておきましょう。
レース用ではなくいつもザックに入れておく「万が一のライト」です。200ルーメン(明るさの単位)で4時間使えればOK。単3単4などの乾電池タイプ、充電タイプがあるけど、乾電池タイプなら駅前コンビニなどで予備電池を用意しやすいです。
行き先を決めるためのアイディア。
10.はじめて走るなら平坦なコースを。
トレランは笑って楽しく過ごす山遊びです。「距離は8km以内」「所要時間は(ガイド本では歩いた場合の表示です)4時間以内=走りに換算すると3時間以内」、そして上り下りの少ない「平坦なコース」を。
11.レースに参加してみよう。
山を走ることに慣れてきたら、レースに出るのはいかがでしょう? いつもと違うトレイルを走れます。たくさんのランナーに出会えます。フィニッシュの達成感があります。最初は10〜20kmくらい、競技時間は最大で5時間くらい、そして日帰りできるスケジュールのレースがいいでしょう。あ、エントリーはたいてい半年前からです。
12.レースは距離より標高差累積をチェック。
何回か山を走ればわかってくるけど、コース途中のアップダウン(上り下り)の回数や、その斜度のきつさ、また上る(下る)距離が長いとしんどいです。ですから、距離が短いからといってラクなレースとは限りません。
上りの距離を垂直換算して合計したものを「標高差累積」といいますが、はじめてなら、そして笑顔でフィニッシュしたいなら、標高差累積が1000mくらいまでのレースにしておきましょう。
トレラン当日を楽しむアイディア。
13.靴ひもはきつめに結ぶ。
山には下り坂があります、ひも締めのゆるい靴だと、靴の中で足が(前に)動いてしまい、親指や人差し指の爪が、靴の内側に当たります、押されて、爪の裏が出血して黒爪になります。かなり痛いです。
なので足が靴の中でビクとも動かないように、靴ひもはいちばん上まできっちり、(ロードランの靴より)きつめに締めましょう。
14.コインロッカーを使う。
駅からスタートして同じ駅に戻るのなら、走るときに必要のない荷物(着替え、お風呂道具など、冬場はかさばるウェアが多いし)は駅のコインロッカーに預けちゃいましょう。人気の山なら麓にトレランステーション(荷物預かり、シャワー、食事など)もあります。
15.冬は15時、夏は16時に麓へ到着。
山では日が暮れたら真っ暗、一歩も動けません、いきなり遭難です。冬は15時まで、夏でも16時までに麓へ(駅やバス停に)下りていること、これも山の鉄則、ハイカーも登山家もみんな心がけます。あとは山での予想所要時間(余裕をもって)を逆算して、朝、家を出ればいい。トレランは楽しい遊びだけど、時間厳守、スケジュール厳守ができてこそ。
16.苦しくなったら歩く。
トレランをしたことのない人は必ず疑問に思います、山を走って「苦しくないんですか?」と。苦しくなったら歩けばいいんです。具体的には上り坂はゆっくり歩く、下り坂は気持ちよく駆け下りる、それでいいんです。トレランは山のジョギングであり、走るハイキングでもあるんですから。そもそもトレイルラニングは人生を楽しむためのものですから。
17.道に迷ったらひとつ前に。
おかしいぞ、と思ったら、絶対にその先に進まないこと。ひとつ手前の(正しい)ポイントまで引き返しましょう。たいていは、そのポイントから違った方向に走っていたり、途中の分岐を見逃していたからです。
18.すれ違う時は「歩く人」になろう。
ハイカーや観光客など山を「歩く人」にとって、「走って近づいてくる人」は「怖い人」「嫌な人」です。そこでトレランの鉄則、トレイルで「歩く人」に出合ったら、すれ違う少し手前で走ることをやめて、「歩いて」すれ違いましょう、状況に応じて、脇に避けて道を譲りましょう。ランナーが「歩く人」になれば怖くありません、嫌われません。
19.「歩く人」のことは「歩いて」追い越す。
狭いトレイルで「歩く人」に追いついてしまったら、少し離れて「歩いて」ついていきましょう。道幅が広くなったところで、ひと声かけて、「歩いて」追い越せばいいんです。たいてい前を歩く人は、後ろに人が来ると気配や足音で気づいて、道を譲ってくれることが多いので、そのときはお礼を言って「歩いて」追い越しましょう。けど、耳の遠い人もいるので、気づかないこともあります。
20.トレイルを外れない。
近道だから、こっちがラクだからと、コースを外れてトレイル以外のところに踏み込んではいけません。植物や小動物を傷つけるからです。また、一度踏み跡がつくと、多くの人が後に続きます、新たな道ができてしまいます。さらに自然環境が破壊されます、そしてそこに雨水が流れ、掘れ、崩れてしまいます。本来のトレイルを外れてはいけません。