人はなぜダイエットに失敗するのか。太るも痩せるも“脳”次第?

ダイエットに失敗するのは自分の意志が弱いから……というのは実は間違い。カギを握るのは脳の働き。うまく脳を騙す方法を紹介しよう。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/moi. 取材協力・監修/篠原菊紀(公立諏訪東京理科大学教授)

初出『Tarzan』No.894・2025年1月4日発売

太るのも痩せるのも脳のせい
教えてくれた人

篠原菊紀(しのはら・きくのり)/公立諏訪東京理科大学教授。専門は脳システム論。大学で教鞭を執りながら脳科学者として日常のさまざまな場面での人間の脳活動を調査。テレビやラジオなどのメディアで脳に関する実験や解説も行う。

ダイエットはとにかく腹が減る。

食べることで働く快楽神経。脳幹の腹側被蓋野で作られたドーパミンは大脳基底核にある神経の固まり、側坐核から分泌され、前頭前野の広い範囲に投射される。これが食欲をはじめあらゆる快感を生み出す。

脳の仕組み

一念発起でダイエットを始めたはいいけれど、うなぎ屋の前を通ったりグルメ番組を目にしたり電車の中でハンバーガーの匂いが漂ってきたり。事あるごとに腹が減り、ときには誘惑に負けてしまう。

脳科学者・篠原菊紀さんは次のように衝撃の事実を明かす。

「食欲に関連するホルモンの分泌量とダイエットに関する研究では、ダイエット開始1年後もレプチンという食欲を抑制するホルモンが減り、グレリンという食欲増進ホルモンが増えたままでした。

習慣は3週間で習慣化するといいますが、ダイエットに関しては1年後も飢餓のメカニズムが働いたままということです」

ダイエット中の抑え切れない食欲は人間の性(さが)なのだ。

超低カロリーダイエットをしてもらった結果50人の過体重および過食の人に超低カロリーダイエットを行ってもらった実験データ。食欲増進ホルモン・グレリンはダイエット開始1年後も分泌増が続いたままだった。

N Engl J Med 2011; 365: 1597-1604

我慢が過ぎると人は集中できない。

こちらも実際に行われた実験。チョコチップ入りクッキーを乗せた皿の前に被験者たちを座らせる。片方の被験者グループはクッキーを食べることが許され、もう片方のグループは我慢を強いられた。その後、難しいパズルを完成させるよう求められたふたつのグループ、さてどちらが成功したか?

「クッキーを食べた方は課題をクリアし、我慢を強いられた方はすぐに投げ出したという結果でした。我慢のしすぎや無理は続かないという“自我消耗仮説”がありますが、この実験結果がまさにそれ」

大好物のスイーツをひたすら我慢する。揚げ物厳禁の食生活を己に課す。やがて我慢の限界を迎え、ドカ食い→リバウンドするのはこうしたメカニズムのせい。

こちらは日本の実験。ブドウ糖、血糖値が上昇しないエリスリトール、甘みのないデキストリン、何も与えない4群を比較。暗算計算のストレス負荷指標が糖や甘味で緩和された。

山口県立大学 磯本知江ら, 2014

ストレスが高じて過食に走るのは当たり前。

リモートワークで過剰なノルマに取り組んでいる際、無意識にスナック菓子に手が伸びてしまう。勇気を出して意中の相手に告白したものの玉砕し、思わずラーメン大盛りトッピング全部乗せを注文してしまう。

ストレスがかかると副腎皮質からコルチゾールと呼ばれるホルモンが分泌される。コルチゾールは食欲を抑制する神経伝達物質の働きを抑えるので、食欲が刺激されることが分かっている。

「一方でストレスが高まった状態の改善には、食べることによって“報酬系”と呼ばれる脳のドーパミン神経系を活性化させるのが手っ取り早い。嫌な気分やストレスをマスキングできるからです」

イライラしたり落ち込んだときの過食はストレス対処法のひとつ。

3大栄養素を欲する仕組みになっている。

炊きたてのごはん、肉汁ドバドバのハンバーグ、カラリと揚がった鶏唐揚げ。美味しいものにありついたときは快感を感じる神経伝達物質、ドーパミンが脳内で分泌され報酬系神経が刺激される。これが「美味しくて幸せ!」と感じる仕組み。とくに人類の糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素に対する依存度は半端ない。

「ヒトの脳の報酬系神経は3大栄養素に反応するようできているんだと思います。これらの栄養素がないとカラダが作れないしエネルギーも得られない。だから基本的には“美味しい”と感じて“もっと食べたい”と思うようなメカニズムになったと考えられます」

3大栄養素に反応したからこそ生存競争に勝利できたというわけだ。

三日坊主はある意味本能だ。

報酬系神経は美味しいもの、楽しいこと、嬉しいことに反応して「気持ちよさ」をもたらす。それだけではなく、「何かをしたらいいことが起こった」という経験が繰り返されると、予測的に報酬系神経の活性化が起こるようになる。パチンコで言えばリーチがかかった状態でドーパミンがドバドバ出るという具合。

「ただ報酬系神経は快感に慣れてしまいます。以前と同じ程度の快感しか得られなくなったら活性度が下がってくるという現象が必ず起きる。1回目より2回目の方が活性度が下がり、3回目ではもっと下がる。つまり、三日坊主は本能のようなものなんです」

ダイエットを決意したのにすぐ挫折。それもやむなし。

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