痩せている人も要注意。内臓脂肪にまつわる「誤解されがち」なポイント。
「内臓脂肪」という字面からは、胃腸にたっぷりへばりつく脂肪の塊が想像されがち。蓋を開ければ「脂肪100%」でもなければ、大量に蓄積されるものでもない。ただ少量でも蓄積されると、病気のリスクは急上昇する。痩せている人も無関係とは言えない内臓脂肪について、今一度正しい知識を得よう。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/野村憲司(トキア企画)、yua 取材協力・監修/益崎裕章(琉球大学大学院医学研究科教授) 画像提供/アフロ
初出『Tarzan』No.894・2025年1月4日発売

教えてくれた人
益崎裕章(ますざき・ひろあき)/琉球大学教授。京都大学医学部卒業後、ハーバード大学客員准教授、京都大学講師を経て現職に。専門は代謝・内分泌病学。肥満研究に長年携わり、最近注目の玄米研究の第一人者でもある。
目次
内臓脂肪はつまめない!溜まり場は「栄養吸収の入り口」。
皮下脂肪はつまめるけれど内臓脂肪はつまめない。理由は内臓脂肪が筋肉の内側に潜んでいるから。で、実際にどのあたりに潜んでいるかというと、消化管。胃からカーテンのように吊り下がった大網という組織、そして栄養を吸収する小腸をハンモックのようにホールドしている腸間膜。このふたつの組織に溜まるのが内臓脂肪だ。
「胃の場合は大網、小腸の場合は腸間膜。エネルギー過多の場合、外界から摂取した栄養素が吸収される場所に脂肪が蓄積されます」
と言うのは肥満研究の専門家、琉球大学教授の益崎裕章さん。ちなみに脂肪肝は内臓脂肪ではなく、消化管を経由した栄養が蓄積した異所性脂肪(溜まらないはずの場所(異所)の脂肪)だ。
横から見た場合、左側が標準体型。右が内臓脂肪型の体型。
正面から見た場合は左のふたつが標準体型。腸間膜や大網はこんな形をしているが、脂肪が溜まると右のような恐ろしい状態に。
実は「脂肪100%」の塊にあらず。主役は免疫系の細胞だった。
脂肪というとアブラの塊をイメージしがちだが、正確には内臓脂肪も皮下脂肪も脂肪100%でできているわけではない。
「脂肪組織というのはいろいろな細胞の融合体です。脂肪組織の中には脂肪の他、免疫系の細胞や細胞同士を繫ぎ合わせる間質細胞などが混在しています。とくに、内臓脂肪は皮下脂肪に比べて免疫系の細胞が多く存在していることが分かっています」
言ってみれば内臓脂肪のそもそもの役割は、外界から入ってくる食べ物を選別する免疫システム。むしろ脂肪は脇役なのだ。
総量は少ない。でも健康へのインパクトは大。
消化管の組織は本来脂肪を蓄積する場所ではない。なので、度を越すと脂肪組織内の免疫細胞が誤作動し、炎症を引き起こしたり悪玉物質を作り出す。
「いわゆるアディポサイトカインと呼ばれるような悪玉物質は、糖尿病や高血圧などメタボ疾患を引き起こすきっかけになります。そうした悪玉物質は皮下脂肪に比べて内臓脂肪に由来するものが圧倒的に多いのです」
どこにでも溜まるポテンシャルを秘めている皮下脂肪に比べて、内臓脂肪の総量はかなり少ない。でも本来溜まる必要のない脂肪なので、少しでも蓄積方向に傾くと、病気のリスクを高める大きなインパクトを及ぼすのだ。
脂肪細胞は通常、カラダにいい作用をもたらす善玉物質を分泌している。ところが一旦肥大化すると、糖尿病や高血圧、動脈硬化を進行させるアディポサイトカインを分泌する。内臓脂肪ではとくに顕著。
欧米人よりもアジア人の方が内臓脂肪は溜まりやすい。
国際研究では日本人を含む東アジア人は世界の中でも内臓脂肪が溜まりやすいと報告されている。
「答えは難しいんですが、今の世界の標準的な食べ物は運動パフォーマンスに優れた狩猟民族=欧米人向きです。作物の収穫を得ることを優先し、質素な食事をしてきた農耕民族が一気に欧米の食事を取り入れた結果、農耕民族体質には合わなかったと考えられます」
運動さえすれば分解のスイッチが入りやすい。
内臓脂肪は食べすぎれば簡単に増える。その代わり落とすこともある意味、非常に簡単。運動すれば勝手に落ちてくれるからだ。その理由は運動刺激で発動する脂肪分解ホルモンや酵素の受容体が内臓脂肪に多く存在しているから。
「たとえば、運動することで筋肉や免疫細胞から大量に分泌されるILー6という物質があります。この物質には脂肪を溶かす効果があり、その受容体は皮下脂肪に比べて内臓脂肪の方が約10倍多く存在していることが分かっています」
毎日運動をすれば、その効果が期待できる。