レトロで愛嬌のあるルックスがシンボリック《フォルクスワーゲン ヴァナゴン》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

文/豊田耕志 撮影/五十嵐 一晴

初出『Tarzan』No.849・2023年1月26日発売

いかにも頼もしそうなVWの名作だけど、一筋縄じゃいかぬ感じが音楽家らしい。

「古い楽器は良さげなものを見つけたら、ひとまず手に入れるのが鉄則なんですが、この《ヴァナゴン》も知り合いのカーディーラーから“入荷したよ”と連絡を受けて、すぐにゲット。楽器も車も“程度よし”という事前情報は眉唾で、一度使ってみないとわからないですからね」

そう話すのは、日本のジャズバンド〈雨ふらしカルテット〉のピアノ担当、サーカス田中さん。ヴァナゴンはバンドカー的な立ち位置で、日本全国、呼ばれた先々に、商売道具のローズピアノや楽団員の楽器などなど、そのタイヤが軋むほどにたくさん詰め込んで駆けつける。

週末、ライブ会場近くの駐車場にブルーツートンのそれが停まっていれば、“雨ふらし”または“サーカス”登場のサイン。なんてミュージシャン仲間では暗黙の了解になるほど、田中さんの顔になっているそうだ。

「レトロで愛嬌のあるルックスは、儚くブルージーな音色を奏でるフェンダーローズのようにシンボリック。ヴァン+ワゴンで〝ヴァナゴン〟と名付けられたユニークなニックネーム込みで、乗るたびにどんどん愛着が湧いてくるんですよ」

ヴァナゴンとは、もともとアメリカ西海岸で、正式名称トランスポーター3に付けられた仇名。ヴァン+ワゴンの意味だ。

とはいえ、旧車だけにそう簡単に平坦な道を走らせてくれなかった。

「僕は風邪と呼んでいるんですが、エンストは当たり前。意気揚々とライブ会場に乗り付けて、各々の楽器を抱えた楽団が格好よく降りてくるという青写真を描いていたのに、なかなか言うことを聞いてくれなくて(笑)。いつかの野外フェス『りんご音楽祭』では、会場入り前の長閑な畑のど真ん中でエンジンストップ。「何かあったらこちらまで」と携帯番号をメモした貼り紙をして、タクシーで会場に向かって。それでギャラが全部飛んじゃったり(笑)」

“風邪”をひくたびに神奈川・寒川の主治医〈ロアールモータース〉に持ち込んでは修理の日々。約7年にも及ぶ治療の甲斐があってか、ここ1年ほど故障と無縁になった!

「聞けば、エンストの原因は、主にプラグの劣化みたいなんですよ。もしかして全部取っ替えたから?なんて楽観的に考えています。内心いつ止まるのかってビクビクしながらね(笑)。でも、その一筋縄じゃいかない感じもある意味音楽家っぽくて、僕にはちょうどいいんです」

VOLKS WAGEN VANAGON

正式名称はトランスポーター3だが、1991年に“ヴァナゴン”名義でヤナセ経由で流通したこの一台はかなり貴重。中古車市場で300万円前後。

ピカピカに輝くホイールキャップは純正。その他もカスタムは一切せずに、田中さんはノーマルスタイルを貫くことを美徳とする。

ツートンブルーの外装と同じく、内装もブルーを基調としたキュートな作り。90年代初頭のドイツ車らしいセンスが漲る。

一口にヴァナゴンと言っても、グレードや年代によってシートも千差万別。なかには新幹線のような対面式シートなどもあるが、こちらは完全固定タイプのオーソドックス型。後ろの2列はフラットシートになって便利。

  • 全長4,600×全幅1,845×全高1,950mm
  • エンジン=2,100cc、水冷水平対向4気筒エンジン
  • 乗車定員=7名
Owner

田中 創(音楽家)
1980年、東京都生まれ。27歳のときに音楽スタジオ兼音楽教室の〈スタジオ サーカス〉をオープン。ジャズバンド〈雨ふらしカルテット〉としても活動中。