芸術と競技の融合 ブレイキンの魅力

長年、さまざまな競技で取材を続けるスポーツフォトグラファー、岸本勉さん、中村博之さんが写真を通じて、“アスリートの素顔”に迫る。第十七回は中村博之さんが捉えたブレイキン。

撮影・文/中村博之

昨年の11月、26歳の姪っ子に『パリオリンピックでは何を撮ると?』と尋ねられ、僕は『競泳、陸上、男子バスケットボールと、出場が決まっとたら男女のバレーボールやね。

でも、やっぱりオリンピックは雑感写真が大事やけん!』と得意げにオリンピック取材を語っていたら、『いや、Shigekixやろう!絶対撮影をせんといかんよ。金メダルやけん』。

『しげきっくす』……。初めて聞く言葉。博多弁での会話が一瞬止まる。

『もしかして、知らんと?オリンピックに行くちゃろう!やばいよ!』

何も反論もできずに、GoogleにSOS。Shigekix(ダンサーネーム)はパリオリンピックでは新種目として実施されるブレイキンの日本代表半井重幸選手で、開会式では旗手という大役も務める(2024年7月1日発表)。50歳が手に届きそうな中年男性の僕にブレイキンは頭の中に入っておらず、慌てて動画や写真を閲覧!

考える前に『カッコいい』『スタイリッシュ』『楽しい』と直ぐに興味を持つ。パリ出発までにブレイキンを撮影する事が、新たなミッションとなった。

初ブレイキンは、2024年7月7日。20年以上の歴史を誇る、世界レベルの1on1ブレイキンバトルイベント『Red Bull BC One Cypher Japan2024』が二子玉ライズホールで開催された。

まず、午前の部では『Red Bull BC Oneトークセッション』が行われ、パリオリンピック代表のShigekixさんとAmiさん、そして、日本ブレイキン界を長年牽引されている、KATSU OENさんとTaisukeさんが登場。トークのテーマで『スポーツ的側面とカルチャー的側面について』があり、当初はスポーツ競技としての立ち位置になる事で、築き上げてきたカルチャー的側面が失われるのではないかと葛藤もあったようだが、今では上手く融合させながらブレイキンを発展させているようだ。

恥ずかしながらまだまだ勉強不足で、アーバンスポーツの歴史やルール、トリック(技)の種類など、理解していない事が沢山ある。けれども、ファインダー越しに見えるブレイキンに僕は完全に魅了された。ダンサー達の身体能力の高さ、音楽と連動させる芸術性、勝負への本気度、そして、パフォーマンス終了後に勝者と敗者が笑顔で当然のように讃え合う姿が僕は大好きだ。と同時に、MCや DJが会場を盛り上げ、ファンは楽しみながら声援を送り、ダンサーが最高のパフォーマンスで応え、全員で一体感を創り出す。芸術と競技が融合したエンターテーメント性がブレイキンの魅力だ。

1924年パリオリンピック夏季大会(第8回)から100年が経ち、聖火がパリに戻ってくる。歴史にも記憶にも残る大会で、ダンサー達のパフォーマンスは新しいオリンピック史に刻み込まれると思う。

とにかく、僕のパリオリンピックの最初の重要ミッションは日本国旗を掲げる旗手のShigekixを撮影すること。これは絶対に外せない!
(もう1名の旗手はフェンシングの江村美咲選手)

トークショーのイベントに参加した、パリオリンピック日本代表Shigekix/半井重幸選手(右)とAmi/湯浅亜実選手(左)

オープニングでは、ラッパー・鎮座DOPENESSによるゲストライブも行われ、会場を盛り上げた

B-Boy/Top 16, RYOGA 準優勝したharutoに惜しくも敗れたが、今後も期待されるダンサーの一人だ

B-Girl//Top 8, Ayumi パリオリンピック日本代表選手で唯一の出場選手

B-Girl//Top 8, AYANE パリオリンピック代表のAYUMIと対決。Semi-Finalには進出できなかったが、満面の笑顔やバトル後に見せた涙に、ついついシャッターを押したくなった

B-Girl/Top 8, Cocoa 2023年3月に開催されたU15の頂上決戦Next Generations Games 2022で優勝。今大会もSemi-Finalに進み、未来のブレイキンを担う若手ダンサー

B-Boy/Top 8, TENPACHI 数々のタイトルを獲得し、いまでも第一線で活躍。敗退後はお子さんを抱いて仲間を応援する姿が印象的だった

B-Boy/Top 8, ISSEI 10代のころから国際大会で活躍を続け、2016年世界大会「Red Bull BC One」では、日本人初と同時に世界最年少で優勝

B-Boy/Top 8, RA1ON 昨年2023年11月に行われた、ブレイクダンスキッズ日本一を決めるBreakdance Dream Cup 2023で優勝した若手のホープ。年上の対戦相手にも臆しない姿が魅力的に感じた

B-Girl /Semi Final, MiMz 初めてブレイキンを撮影したが、独特の空気感と芸術性に引き込まれてしまった

B-Girl /Semi Final, Ayumi バトル直前、集中力を高めるかのように自分に気合いをいれる

B-Boy/Semi Final, ISSEI(左) vs NORI(右) 準決勝に進むと会場のボルテージも上がり、ダンサー達の対決もヒートアップしてきた

B-Boy/Semi Final,バトル終了後にお互いの健闘を讃え合うNORIとISSEI。ブレイキンではこのような光景がよく見られる

B-Girl /Final, MiMz 優勝インタビューで『息子をブラジル(世界最終予選が12月に開催)に連れていきたいという気持ちだった』という母親としての一面も印象的だった

B-Girl /Final, MiMz(左) vs Ayumi(右) バトル終了後はお互いにリスペクトし、会場もあたたかい拍手で包まれた

B-Boy/Final, haruto 惜しくも準優勝に終わったが、15歳以下の大会から優勝を経験し、今では日本代表として国際大会でも活躍。今後も注目のダンサー

B-Boy/Final, NORI 今大会は最年長が優勝を飾った。他のダンサーと比べても年齢差は感じす、それどころか一番楽しそうだった

B-Boy/Final, haruto(左) vs NORI(右) 決勝も白熱したバトルが行われ、会場は大いに盛り上がりをみせた

緊張の結果発表 左からharuto(B-Boy) , WUTA(ジャッジ) , NORI(B-Boy) , Ayumi(B-Girl) , Ami(ジャッジ) , MiMz(B-Girl)

MiMz(右)がパリオリンピック日本代表のAyumi(左)を抑えて、B-Girlの優勝を飾った

B-Boyを制しチャンピオンの称号を手にしたのはNORI(右)、準優勝はharuto(左)

チャンピオン二人が笑顔で記念撮影。NORI(左)とMiMz(右)。 12月にブラジルで開催される世界最終予選「Red Bull BC One Last Chance Cypher」の出場権を手にした

約3時間に渡り声を張り上げ枯らし、ファンと一緒に会場を盛り上げて選手に鼓舞し続けたCRUDEさん(左)とKENTARAWさん(右)

フォトグラファー・中村博之

中村博之(なかむら・ひろゆき)/1977年生まれ、福岡県出身。1999年スポーツフォトエージェンシー『フォート・キシモト』に入社。2011年フリーランスとして活動を始める。オリンピックは夏季冬季合わせて10大会を取材。世界水泳選手権は2005年モントリオール大会から取材中。2015年FINA世界水泳選手権カザン大会より、世界水泳連盟のオフィシャルフォトグラファーを担当。国際スポーツプレス協会会員(A.I.P.S.)/日本スポーツプレス協会会員(A.J.P.S.)。