サニブラウン、100m日本初のメダル期待
長年、さまざまな競技で取材を続けるスポーツフォトグラファー、岸本勉さん、中村博之さんが写真を通じて、“アスリートの素顔”に迫る。第十六回は岸本勉さんが捉えた短距離走者のサニブラウン。
撮影・文/岸本勉
サニブラウン・アブデル・ハキームはガーナ人の父と日本人の母を両親に持つ日本屈指のスプリンターである。2015年8月、北京で行われた世界陸上において、初の
大舞台で彼は200m準決勝まで駒を進めた。
いま思えばその200m予選において、彼の入場の仕方は怪物を予感させるものだった。どこか楽しそうな表情で、笑みを浮かべながらスタジアムの観客席を眺めながらスタートラインへと向かっていた。16歳という若さで出場したとは思えない余裕がそこにあった。
楽しそうにしているかと思えば、彼はよく気だるそうに首を傾げる。あくびするシーンなども見かける。レース前によくみられるシーンだが、力を抜いているのだろうか。だからこそスタートした瞬間からのダイナミックな走りは圧巻だ。
身長190センチのその走りはファインダーから飛び出てくるほどの迫力がある。いままで撮影してきた日本のスプリンターとは違った意味でのフォトジェニックな選手だ。
2015年の世界陸上北京大会から4年、2017年にサニブラウンは100mで9秒97で日本新記録(当時)を樹立。そのレースはアメリカで行われていたので撮影に行けなかった悔しさはあったが、9秒台で走るのは時間の問題だったし、それほど驚かなかった。
その年、陸上日本選手権を間近に控えた6月中旬、都内のスタジオでサニブラウンを撮影する機会があった。普段スタジアムで撮影する彼よりも、さらに大きく逞しく感じた。筋肉を撮りたくてシャツを脱いでもらった。スタート前の構えをしてもらうと、その腕や背中の筋肉がただただ美しかった。
今年5月、サニブラウンはパリオリンピックの派遣標準記録を突破し代表に内定。残念ながら6月の日本選手権には出場しないようである。幾度となく怪我やスタートの失敗など、さまざまなことを乗り越えてきたサニブラウン。今度こそ、パリという大きな舞台でその怪物ぶりを見せてほしい。
男子100mにおいてファイナリストになるだけでなく、是非とも世界のトップ3となって何色でもいいからメダル獲得を期待したい。
フォトグラファー・岸本勉
岸本勉(きしもと・つとむ)/1969年生まれ、東京都出身。10年余りスタッフフォトグラファーとして国内外の様々なスポーツイベントを撮影。2003年に独立、「PICSPORT(ピクスポルト)」を設立。オリンピックは夏季冬季合わせて14大会、FIFAワールドカップは8大会、ほか国内外問わず様々なスポーツイベントを取材。2015年FINA世界水泳選手権カザン大会より、オフィシャルFINAフォトグラファーを担当。国際スポーツプレス協会会員(A.I.P.S.)/日本スポーツプレス協会会員(A.J.P.S.)
Instagram:@picsport_japan