優先すべきはフロス&歯間ブラシ。オーラルフレイルを防ぐ口腔メンテナンス法
40代、50代になり、老眼、聞こえにくさ、声の出しづらさ、虫歯の増加といった悩みが出てきたという人もいるのではないだろうか。人生100年時代と考えれば、折り返しに差し掛かったばかり。機能を長く維持するためにも、衰えが激しくなる前に、正しいメンテナンス習慣を身につけたい! 今回は口の健康を保つためのメンテナンス法を紹介。
取材・文/神津文人 撮影/森山将人 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾
初出『Tarzan』No.880・2024年5月23日発売
教えてくれた人:照山裕子先生
てるやま・ゆうこ/歯学博士。東京医科歯科大学非常勤講師。歯科クリニックで診療を続ける傍ら、口腔ケアの伝道師としてメディアにも出演。近著に『“食べる力”を落とさない! 新しい「歯」のトリセツ』。
目次
優先すべきは、フロス&歯間ブラシ
「今日からすぐに自分の口内環境を劇的に改善しようと思うなら、デンタルフロスか歯間ブラシを買って、隙間ケアをしてください。歯磨きの主役は歯ブラシではなく、フロスと歯間ブラシです」と歯学博士の照山裕子先生が言い切るほど、隙間ケアは重要だ。
虫歯や歯周病の原因の多くは、歯と歯の間の汚れにある。いくら歯ブラシで丹念に磨いても、隙間ケアができていなければ、虫歯や歯周病を予防するには不十分。
フロス後に歯ブラシを使った方が、歯垢が減少し、歯間に歯磨き粉内のフッ化物(虫歯予防に効果がある)が行き届くという研究データもあるので、歯磨きは隙間ケアからスタートしよう。
一番重要な時間帯。夜に集中ケアする
「活動中は口や舌も動いていれば、唾液も分泌し、水も飲む。寝ている間はそうもいかないので菌が繁殖しやすい。それゆえ寝る前の歯磨きは一日の中で最も重要となる。
「食べかすを放置すると、増えた細菌がバイオフィルムを形成。時間の経過とともに厚みが増し、やがて歯石となります。こうなると自分では除去できなくなってしまうのですが、そうなるまでは猶予もあります。
朝きちんと磨いていれば、昼食後に磨かなくても、夜で挽回することが可能です。漫然と一日3度磨くよりは、夜と朝のケアを丁寧に!」
タイミング別の推奨ケア
- 朝:歯磨きのみ
- 昼:気になる場合は磨く
- 就寝前:フロスor歯間ブラシ(→歯磨き)
起床後にまず口をゆすぎ、朝食後は歯ブラシで歯磨き。夜は隙間ケアを行った後、一本一本丁寧にブラッシングをする。
歯磨きは歯のキワをブラッシング
ブラシでのブラッシングで大切なのは、歯の根元と歯茎の間、つまり“キワ”の部分。歯の表面や咬合面ばかりをゴシゴシと磨きがちだが、優先順位は高くない。
「基本的に歯と歯がしっかりと嚙み合っている部分には、それほど汚れが残りません。汚れが残りやすいのは、歯のキワの部分。
歯の根元と歯茎の間を磨くときは、歯ブラシを45度ほどに傾けましょう。歯周病対策のために、毛先が歯周ポケットの内部まで届くような意識で磨いてください。
力強く磨いても汚れが取れるわけではありません。歯茎を痛める原因にもなるので、歯ブラシは鉛筆を持つときと同じペングリップで握り、やさしく丁寧に磨いてください」
歯磨きは、極めてキワが重要なのだ。
オーラルフレイル予防に3・3・7拍子嚙み
オーラルフレイルとは、口腔機能が低下し弱ってしまっている状態のこと。40代後半から兆候が出始め、60代後半以降に顕著になる。
咀嚼力、舌圧といった口腔機能を維持するために、照山先生が推奨しているのが、グミを使った3・3・7拍子嚙みトレーニング。
「まず、舌と上顎でグミを挟んで10秒キープ。次に、そのグミを左側の歯で3・3・7拍子のリズムで嚙みます。その次は右側の歯で3・3・7拍子のリズムで嚙んでください。グミがなくなるくらいまで、左右で嚙むのを繰り返します」
日本歯科医師会が発表しているオーラルフレイルのチェックリスト。4点以上は危険ゾーン。3・3・7拍子嚙みトレーニングを習慣化して、咀嚼力、舌の力を取り戻そう。
破折を防ぐ「マウスピース」を着用する
「中高年のカラダを鍛えている人に注意していただきたいのが、トレーニング中の食いしばり。歯を割ってクリニックに来られる方が多いんです!」
歯が割れてしまうと、抜歯して義歯を入れるインプラント治療が必要になる。食いしばりによる破折予防に有効なのがマウスピース。保険適用外にはなるが、スポーツ用のマウスピースも、歯科医院で2万円程度で作ることができる。
「市販されている自分で型を取るタイプのマウスピースは、厚さが均一にならないので、力を分散させる効果があまりありません。破折を防ぐためにも、歯科医院で作る方がおすすめです。
また、就寝時の歯軋りや食いしばり予防のための夜間用のマウスピースは保険が適用されるので、悩みがある方は早めに歯科医に相談しましょう」
マウスピースは、アスリートだけのものではないのだ。
機能を低下させるかも?やりがちNG行動
口腔洗浄器を使って徹底的に長時間ケア
強力な水圧と水流を利用して、歯ブラシでは取り切れない汚れを取り除く口腔洗浄器。歯間に挟まった食べかすなどを取る能力はあるのだが、使い方には注意が必要。
強い水圧を歯茎に当て続けると、歯茎が弾力を失って縮み、硬くなってしまう。いわゆる“歯茎下がり”の状態になり、知覚過敏の原因になるほか、見た目も老けた印象になってしまうのだ。
毛先が開いたら歯ブラシを替えている
不要な雑菌の繁殖を防ぐためにも、歯ブラシは1か月に1回を目安に交換するのが理想的。
毛先が開くと、磨きたい部分に届かなくなるので交換するべきではあるが、そもそも毛先が開いてしまうような磨き方は力を入れ過ぎている。1か月のうちに毛先が開いてしまうようなら、磨き方を見直そう。
炭酸水を飲んでそのまま就寝
酸性の食品や飲料は歯のエナメル質を溶かす原因に。フレーバー入り炭酸飲料、スポーツドリンク、柑橘類、黒酢飲料など酸性度の高いものを摂取したら、長時間放置せずに、口をゆすいでおこう。