入浴のナゾ(後編)
睡眠の質を高めるとされる入浴だが、実は知らないことだらけだ。湯温は何度がベスト? 温泉の泉質って何? 湯上がりの牛乳はなぜうまい? 大小さまざまなナゾをこの機会にひもとこう。
取材・文/山梨幸輝 イラストレーション/ビオレッティ・アレッサンドロ
初出『Tarzan』No.876・2024年3月21日発売
朝風呂のナゾ
体質次第では朝風呂も有効利用の余地あり
睡眠の質を高める入浴方法は、“就寝90分前に40〜41度のぬる湯で10〜15分程度”が通説。そこで気になるのは、「朝風呂にもメリットはある?」ということ。答えは人によってYES。低血圧気味の人なら、42度程度の熱めのお湯に5分入れば交感神経が優位になりシャキッと目覚めることができる。ただし血圧高めの人は脳卒中などのリスクがあるので絶対NG!
一番風呂のナゾ
“二番風呂”のほうが肌にはマイルド
“お風呂は一家の大黒柱から”。そんな昭和の風習から一番風呂はいいものと思いがちだが、スキンケア目線ではむしろ避けたい。水道水に含まれる塩素が、肌の弱い人にとっては刺激となるのだ。2人目以降に入るお風呂であれば垢などの不純物と塩素が結合することで湯当たりが良くなる。ちなみに、一番風呂を避けられない一人暮らしは入浴剤を入れるだけでもOK。
浴室のナゾ
湯温だけでなく、浴室の温度も重要!
先述の通り、ぐっすり寝るなら湯温は40〜41度がおすすめ。しかし、一つ注意したいのが浴室の冷え。湯船の温度も一緒に低下するため、「41度でもカラダが温まらない」なんてこともあり得る。特に心臓が弱い人はヒートショックを起こす危険性も。冬は湯温を高めるか、入浴時間を延ばそう。加えて、温かいシャワーを浴室の床に当て、室温を高めておくとさらに安心。
発汗のナゾ
お風呂で汗をかいたら、水分補給もマスト!
肩まで浸かって10〜15分ほど経つと、じんわり汗ばんでくる。これが適切に入浴できているサイン。しかし、脱水症状には気をつけたい。41度で15分間入浴した際に失われる水分は800mL。その分、血液の濃度が高まりやすく、脳梗塞などのリスクも生まれる。つまり、入浴と水分補給はセット。おすすめの飲み物は、ミネラルも補給できる麦茶。もちろん、牛乳もアリ。
水圧のナゾ
お風呂で尿意を感じるのは気のせいじゃない!
“血行が良くなる”“トイレに行きたくなる”。そんなお風呂あるあるは、入浴時に全身にかかる水圧の仕業。血液が押し出されるようにして下半身から上半身を巡り、血行が良くなるのだ。その後、心臓にたくさんの血液が流れ込むと、脳が“血液が増えた”と勘違いし、排泄により体液量のバランスを整えようとする。これがお風呂でトイレに行きたくなるメカニズム。
保湿のナゾ
お風呂上がりは乾燥との戦いでもある!
お風呂上がりの天敵は乾燥。肌の角層細胞に含まれる保湿成分・セラミドが入浴中に溶け出してしまうからだ。肌の水分量は入浴の10分後に入浴前と同じ状態になり、30分経つとむしろ失われてしまう。つまり、少なくとも入浴後10分以内には化粧水やクリームなどを塗るべきということ。スキンケアは時間との勝負。髪を乾かす、服を着るよりもまずは保湿を徹底すべし。
檜風呂のナゾ
ヒノキはお風呂ととことん相性良し!
“いい温泉の浴槽”といえばヒノキ。樹脂や人工大理石などの選択肢もあるなか、今も根強く人気な理由は?
「浴槽の素材に向いているんです。泉質の影響を受けにくく、幹などから分泌される成分のフィトンチッドはカビや虫を寄せ付けない効果がありますから」
そう語るのは、浴槽や寿司桶などを手がける〈志水木材〉の代表・志水弘樹さん。お手入れのしやすさだけでなく、代名詞ともいえる“あの匂い”もポイントだという。
「入浴時の脳波を測定したところ、ヒノキ独特の香りには鎮静作用があることが分かったんです。入浴のリラックス効果をより高められる素材ともいえますね」
ヒノキが古くから日本人の心を摑む理由、それはお風呂との運命的な相性の良さかもしれない。
壺風呂のナゾ
壺風呂には職人のプライドが詰まっている!
陶器に包まれる特別感に浸れる壺風呂。日本で最初に手がけたという信楽焼メーカー〈陶彩〉の村木浩之社長は、誕生秘話を語る。
「きっかけはバブル時代に“イケイケ”だった先代社長の思い付き。それまでは信楽焼の壺などが中心だったのですが、突然、湯船を作ってみたいと(笑)。スーパー銭湯が増加している最中だったからでしょう」
アイデアだけでなく製造工程も規格外だ。一つの壺風呂が完成するまでの日数は約40日。製造法が確立されるまでに試行錯誤もあったが、その分職人のこだわりが詰まった逸品となった。
「温かみある肌触りは不純物の少ない信楽焼ならではです。それに、土鍋のように遠赤外線効果でカラダを芯から温めてくれる。次に壺風呂に入る時はそんな魅力も感じてみてください」
ホーロー風呂のナゾ
ホーロー浴槽は家風呂の最高峰だった!
「ホーローは最高だよ」
自宅の風呂に一家言ある人はみなそう語るが、何が違う? 100年以上ホーロー製品を手がける〈タカラスタンダード〉開発部の黒川將平さんに聞いた。
「弊社が手がける鋳物ホーローの湯船は分厚い鉄を成型し、その上から薄くガラスを吹き付けて作ります。鉄の蓄熱効果でカラダが温まりやすく、重厚なので座った時の安定感も段違い。さらに表面がガラスなので汚れがつきにくく、大抵はシャワーで洗い流せます」
〈タカラスタンダード〉では湯船だけでなく壁面までホーロー素材でオーダー可能。温度が下がりにくく、冬場にありがちな“浴室寒い”問題とも無縁だ。金額こそ一生モノだが、極上のバスタイムが手に入ると考えれば“お風呂投資”も大いにアリ!
画像は代表製品の《プレデンシア》シリーズと一般的な浴槽に入った時の温度比較。鋳物ホーロー素材の方がカラダを芯まで温め、湯冷めもしにくいことが分かる。
マインド“フロ”ネスのナゾ
マインドフロネスは心とカラダにいいことずくめ!
ストレス多き現代に試したいのがマインド“フロ”ネス。入浴中にできるリラックス法だ。考案者の早坂先生はこう語る。
「基本的には湯船に浸かりながらゆっくり呼吸すればOK。温浴効果と浮力によってカラダが休まりやすく、湯気で鼻や喉を湿らせることで免疫力も高まります」
湯船に花を散らしたり、照明を暗くしたりと、アレンジの仕方も工夫次第で無限大。ここでは早坂先生が教えてくれたいくつかの方法を紹介。今夜はレッツマインドフロネス!
マインドフロネスのやり方
- ぬるめのお湯に浸かる:リラックスするには交感神経が優位になりにくい40度くらいのぬるま湯が最適。15分間じっくり入浴すれば、カラダに負荷をかけることなく温熱効果も得られる。
- 照明を暗くする:余分な情報をシャットアウトし、呼吸に集中するために、照明は暗めにしよう。ぼんやりとした明かりの暖色系の防水ライトか、脱衣所から漏れ出るわずかな光がベスト。
- 「呼吸」に意識を集中:呼吸だけに意識を集中することで雑念が生まれにくい状況を作ることができる。さらに、お湯の水圧によって負荷がかかることで呼吸筋を鍛えられるというメリットも。
- 防水スピーカーで音楽を流す:リラックスするには雰囲気作りも肝心。ヒーリングミュージックやYouTubeで豊富に見つかる川のせせらぎや雨などの環境音を防水スピーカーから流すのもアリ。
- 蛇口から水滴を落とす:雨の日などに水がポタポタとしたたる音を聞くと落ち着く人も多いはず。お風呂でも桶や浴槽に蛇口から少しだけ水滴を垂らすことで擬似的に再現することができる。
- 湯船に花を浮かべる:お風呂の温かさと浴室の湿度の高さは匂いが引き立ちやすく、アロマテラピーにぴったりな条件が揃っている。湯船に生花を浮かべたときの濃厚な香りにきっと驚くはず。
露天風呂のナゾ
露天風呂の気持ちよさは脳と深い関係がある!
温泉で気分が高まるエリアといえば、露天風呂。家風呂にはない開放感と、肌が外気に触れる心地よさなど、病みつきになる理由は十人十色だが、科学的根拠もある。
「“頭寒足熱”という言葉があるように、脳の温度を高めすぎないことはパフォーマンスを保つうえで重要なんです。脳に繫がる頭や顔の血管を外気で冷やしつつ、お湯で深部体温も高められる露天風呂が心地よく感じるのはそんな理由からでしょう」(早坂先生)
熱が出たときに冷却シートをおでこに貼る気持ちよさに近いと聞くと、より納得できるお話。睡眠だけでなく思考の質も高めるべく、露天風呂には積極的に入りたい。