散らかった部屋では睡眠の質が下がる!? 今すぐ実践できる快眠の知恵
パフォーマンスや健康に影響大の睡眠。やっぱり気になるのは今夜の睡眠に役立つ知恵だろう。枕の選び方から羊の数え方まで、今まで常識だと思っていたことが実は間違いなんてこともある。正しく知って、さっそく試そう。
取材・文/石飛カノ、鍵和田啓介(映画) イラストレーション/Akimi Kawakami、佐藤薫 取材協力・監修/三橋美穂(快眠セラピスト)
初出『Tarzan』No.876・2024年3月21日発売
教えてくれた人:三橋美穂さん
みはし・みほ/快眠セラピスト、睡眠環境プランナー。寝具メーカーを経て2003年に独立、1万人以上の睡眠の悩みに対応。快眠グッズのプロデュースなども行う。『眠りのさじ加減 65歳からのやさしい睡眠法』(青志社)など著書多数。
目次
昼寝する大人はダメ人間?
積極的仮眠はむしろ午後の仕事の効率を上げる
「睡眠時間が十分取れないという人に勧めているのがパワーナップで乗り切ろうということです」
と言うのは、快眠セラピストの三橋美穂さん。パワーナップとは午後の時間にとる積極的な仮眠のこと。コーネル大学の社会心理学者による造語で、日中の短い仮眠が集中力や記憶力を高め、パフォーマンスをアップさせる効果が期待できることを証明した。
短い仮眠で得られるのは浅めのノンレム睡眠。この間、脳内の老廃物が洗浄されたり情報過多になった記憶が整理されることで脳のリフレッシュが図れるという話。
「午後2時までに15〜20分の仮眠を毎日同じ時間にとることがお勧めです。ただし、深い睡眠では起きた後にぼーっとしてしまうので横にならないこと。クッションを顔の下に敷いて寝るとランチを食べた後の胃の圧迫も防げます。目を閉じるだけでも休息効果は得られますよ」
また、仮眠する前にコーヒーを飲んでおくと目覚めのタイミングでカフェインが作用するのでよりスッキリ起きられるという。昼寝するのはダメ人間どころかデキるヤツ。忙しいビジネスパーソンは堂々と取り入れてほしい。
こんな昼寝ならOK
- 午後2時までに15〜20分
- 毎日、決まった時間にとる
- 横にならない
- 仮眠の前にカフェインを摂る
- 目を閉じるだけでもいい
食事の仕方で眠りが変わるって本当?
食事の内容はもちろん、1日3食の配分も大事
睡眠と覚醒のコンダクター・体内時計のリセットのために欠かせないのが朝食。太陽の光が体内時計の脳のマスタークロックをリセットするのに対し、全身にある時計をリセットするのが食事だ。
「体内時計をリセットするインスリン分泌を促すために糖質はマスト。さらに体内時計を調節するビタミンB12、メラトニンの材料になるトリプトファンを含むタンパク質を摂りましょう。ごはんに焼き魚に納豆などが理想的です」
ランチは血糖値の乱高下と昼過ぎの眠気に繫がりやすい丼やカレーなどは避け、主食、主菜、副菜が揃った定食を狙う。夜は食物繊維が豊富な鍋などで主食は少量に。
「脂質や糖質が多い夕食を食べると入眠までに時間がかかり、食物繊維を多く摂取すると寝つきがスムーズになることが分かっています。血糖値を無駄に上げないことが入眠を促すコツ。1日3食の量の配分は3:4:3が理想です」
羊を数えるとかえって眠れなくなる?
足すのではなく引けばいつの間にか眠くなる
羊を数えていったらうっかり1万匹を超えてしまい、それでも眠れないので早く寝なきゃと焦りが増す一方。
で、アメリカの催眠療法士が考案したのが「カウントダウン法」。100からスタートして数字をひとつずつ引いていくと、いつの間にか眠りに誘われるという話。
「引き算というのは足し算に比べて少しだけ集中力が必要です。その分、雑念が浮かぶ余地がありません。眠りを妨げる原因は余計な雑念や思考です。いろんな考えが次から次へと頭に浮かんでくるから眠れなくなる。それを別な単調な作業に置き換えるというのがこのカウントダウン法です」
それなりに集中力は必要だけど、単調な状況に追い込まれると、そこから逃れるために人は眠る。退屈な会議で思わず眠気に誘われてしまうように。というわけで、羊を数えるときは1匹からではなく100匹から。
うたた寝、酒、入浴etc…NG習慣はどれ?
よき眠りを得たいならば、まず生活習慣の見直しから
満足のいく睡眠がとれていないという人、新しい睡眠グッズを試してみる前に、いま一度自分の生活習慣を見直してみよう。
「何かを足していくよりも眠りを妨げる習慣をまず減らすことが大事だからです」
やっちゃいけない習慣とは下に示したリストのようなこと。
寝る前のNG行動リスト
- 夕方以降のうたた寝
- 夕方以降のカフェイン
- 寝酒
- 就寝前の喫煙
- 就寝前のスマホ
- 就寝直前の入浴
- 夜食
夕方以降のうたた寝やカフェインは、睡眠圧の因子のひとつ、アデノシンに代表される睡眠物質の働きを抑制してしまう。起きている間じゅう、アデノシンが脳内に蓄積されて眠気が促される。ところが、うたた寝はアデノシンの量を減らし、カフェインはアデノシンの働きを阻害するのだ。
寝酒は眠りの質を低下させて夜中の覚醒に繫がりやすく、夜食は寝つきを悪くし、就寝前の喫煙は交感神経を優位にして眠りとは逆方向にカラダを導く。就寝直前に入浴すると体温が高くなり寝つけない。入浴するなら寝る1時間前にして、一度体温を上げてから下げていくのが正解。そして就寝前のスマホがメラトニンを減らしてしまうのはもうご存じの通り。
さて、いくつ当てはまった?
整理整頓上手な人はよく眠れる?
散らかった部屋では脳は睡眠に集中できなくなる
意外にも、いらないものを処分することが快眠を得る条件のひとつになるという。
「足の踏み場もないほど床が物で散らかっていたりする環境では、それを目にするたびに自己肯定感や幸福感が下がります。片付けられない自分のダメさ加減を見せつけられているようなもので、そうした自分の内側に湧き上がってくるネガティブな感情は眠りの大敵になります」
家の中をすっきりとした空間に保つことはもちろん、寝室に睡眠と関係のないものを持ち込まないというのも大事なこと。
「寝室=眠る場所」と脳が理解すると、その環境に入った瞬間に脳は睡眠モードにシフトするという。ところが、読みかけの本、やりかけのゲーム、食べかけのスナック菓子、脱ぎっぱなしの服、こうしたものが目に入ることで脳は睡眠に集中できなくなる。
散らかっている部屋でもしっかり眠れるという人は、もしかするともう1段階快適な睡眠を得るチャンスを取り逃している可能性がある。整理整頓した寝室で寝てみれば熟睡レベルが変わるかも。
枕なしの方が快眠できる人もいる?
やっぱり枕は必要。プロに聞くのが理想的
「枕なしの方が楽という人は、大体枕が高すぎて不快に感じている人。そういう人に折り畳んだバスタオルを枕にして寝てみてもらい、枕なしとどっちが楽ですか?と聞くと、バスタオルがあった方が楽と答える場合がほとんどです」
枕の役割は立っているときの姿勢を寝ているときにも保てるようにすること、マットレスと頭から首にかけてできる隙間を埋めることだという。
「仰向けで寝たとき、枕が高くて顎が下がると肩こりや首のシワ、ストレートネックなどの原因になります。また、枕が低いと頭が下がり、顔がむくんだり口呼吸などを引き起こすことに。顎がうつむくでもなく仰向くでもなく、首がスッと伸びて呼吸がしやすい状態を保てるのが理想の枕です」
頭の形や体型によって最適な枕はそれぞれ異なる。プロのアドバイスを聞くのが最も手っ取り早いが、自分で選ぶなら高さが変えられるタイプの枕で各自調整を。