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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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大人になってから急に発症する人も多いというアトピーと喘息。治療法は日々アップデートされているから、あきらめるのはまだ早い!押さえておきたい治療の基本から最前線までを、アトピーと喘息それぞれの先生に教えてもらおう。今回は、アトピーについて。悪化のメカニズム、誤解されがちなステロイドの塗り薬に関する正しい知識、新薬まで丁寧に解説。
おおつか・あつし/近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。アレルギー専門医、がん治療認定医。アレルギーの薬剤開発研究にも携わり複数の特許を持つ。患者に寄り添った医療情報の発信にも尽力し、著書に『アトピーの治し方』など。医学博士。
目次
「アトピーの原因については近年、急激に研究が進んでいます」と話すのは、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司さん。特に肌がカサカサ乾燥すると、アトピーが発症しやすくなるのはどうして?
「表皮でフィラグリンというタンパク質が不足すると、角質の水分量が減少し、バリア機能が低下。2006年には、アトピーの要因のひとつにフィラグリンの遺伝子異常があることも発見されています」
さらに問題は、アトピーを悪化させる免疫システムの反応なのだそう。
「炎症が起きると、免疫細胞のTh2が血管から皮膚に侵入してタンパク質の一種であるサイトカインをばらまきます。これが末梢神経に作用して直接かゆみを引き起こしたり、フィラグリンの産生を低下させてドライスキンが悪化。またTh2を増やしてアレルギー反応がさらに進み、炎症がどんどん悪化するループを生むことも分かっています」
アトピーの大きな原因のひとつが乾燥肌(=ドライスキン)。表皮のタンパク質であるフィラグリンが不足し、水分保持とバリア機能が低下する。さらに免疫細胞のTh2が放出したサイトカインは、アレルギー反応を引き起こす好酸球を皮膚に呼び寄せるほか、末梢神経にくっついてかゆみを引き起こしたり、ドライスキンを悪化させる要因にも。
ステロイドを塗っても、症状がすぐぶり返して改善しない…そんな経験のあるアトピー持ちは多いはず。
「ステロイド外用剤への誤解は多いのですが、実際のところ現在でも最もエビデンスレベルが高く、効果が実証されている治療法です。近年は再発を抑える“プロアクティブ療法”が推奨され、症状があるうちは毎日、落ち着いたら2日に1回、続いて週2回、それぞれ1か月ほど塗り続けます。
もし途中で悪化したら、前のステップへ戻って続ければOK。週2回の使用であれば、皮膚を薄くし赤くなる副作用が起きづらいことも分かっていて、確実に治ったら保湿のみにして再発を防ぎます」
症状が悪化したときだけ対症療法としてステロイドを塗る「リアクティブ療法」では、炎症が再燃して症状がダラダラ続きやすい。
対する「プロアクティブ療法」は、症状が落ち着いても一定間隔で塗り続けることで、最終的に炎症が起きない状態へ導くことが可能に。
さらにステロイドの塗り方について、見落としがちだったポイントが。
「多くの人がこわごわ、少量しか塗れていないのですが、実は効果が得られる正しい用量は意外なほど多いもの。人差し指の第1関節に乗る量の約0・5gを手のひら2枚分の範囲に塗るのが適量ですが、分かりづらい場合はティッシュペーパーで確認する方法もおすすめしています」
軟膏を塗った部分にティッシュペーパーを1枚貼り付け、ペタッとくっついて落ちないくらいが最低限、塗るべき量の目安。実際にやってみると、思っていた以上にたっぷり塗る必要があることが分かるはず。
ツラいかゆみで皮膚をかき壊し、症状が悪化するケースは多いもの。
「かゆみは、炎症が燃え広がる前に抑えるのが治療の基本。けれどステロイドなどの塗り薬には、かゆみを直接的に抑える作用はありません」
そこで身近にできて即効性のある対策や、かゆみコントロールに効く治療法を教わった。合う合わないに個人差はあれど、ぜひ試してみたい。
現時点で、最も安全かつ効果的だと考えられる方法。保冷剤をタオルなどで包み、患部にしばらく当てるとかゆみは治まってくる。ただし、なかには逆にかゆみが増すケースもなくはないので、まずやってみて合わなければ以下の方法も試してみよう。
かゆみと痛み、皮膚の清涼感を感知するのは末梢神経の同じ部分と考えられている。保険適用外かつ処方できる医療機関も限られるが、トウガラシの成分・カプサイシンを配合した軟膏はヒリヒリした刺激によってかゆみの刺激を逆に抑制できるのだ。より手軽なのはハッカ油などのメントール成分。原液だと刺激が強すぎることもあり、手持ちの保湿剤100g当たり5㏄を混ぜて使うといい。スースーした清涼感が非常に気持ちよく、かゆみが同時に引いていく。
2008年より保険適用された「ナローバンドUVB」は波長を絞った紫外線が皮膚の末梢神経に作用すると考えられ、かゆみ対策に有望な治療法のひとつ。全身型と局所型があり、実施する開業医も増えている。ただし週1~2回の通院が必要で、肌が日焼けのように黒っぽくなる場合も。
2018年に登場した新薬デュピクセント(一般名・デュピルマブ)。
「アトピー治療を劇的に変えたともいわれる生物学的製剤の注射薬です。アトピーの炎症を引き起こす悪役のボス的な存在で、バランスを崩したTh2の反応を抑制。アトピーのさまざまな原因となるサイトカインのIL(インターロイキン)-4、IL-13の働きを根本から抑え、湿疹はもちろん、かゆみや乾燥肌も改善します。
ただし現在のところ、ステロイドで半年以上しっかり治療しても改善が見られない中程度から重症の患者さんが対象。薬価が高いのもネックですが、ほかにも現在さまざまな新薬が登場しているので、皮膚専門医に相談してみてください」
デュピクセントはTh2細胞が産生するサイトカインのIL-4とIL-13が結合する受容体をブロック。炎症やかゆみ、皮膚のバリア機能低下を防ぐほか、IL-4によるTh2の産生も防ぐ。2022年には、IL-13だけを狙った「アドトラーザ(一般名・トラロキヌマブ)」、かゆみの原因になるサイトカインのIL-3RAを抑える「ミチーガ(一般名・ネモリズマブ)」も登場。
「ステロイド以外の外用薬では、プロトピック軟膏(一般名・タクロリムス)以来およそ20年ぶりに新薬が登場。まず2020年にはJAK阻害薬のコレクチム軟膏(一般名・デルゴシチニブ)、21年にはPDE4阻害薬のモイゼルト軟膏(一般名・ジファミラスト)が相次いで発売されました。
作用する箇所は異なりますが、いずれも免疫細胞内のシグナルをブロックするもの。長期の使用では皮膚が薄くなったりするステロイドのような副作用や、プロトピック軟膏を塗った後のようなヒリヒリ感もありません。ただ効き目もマイルドなので、症状がひどい場合はまずステロイドで炎症を抑えてから切り替えるのがいいでしょう」
サイトカインがTh2細胞にくっつくと、その刺激をTh2細胞内に伝達する酵素がJAK(ヤヌスキナーゼ)。JAK阻害薬はこのシグナルをブロックすることでさらなるサイトカインの産生をストップし、炎症やかゆみを引き起こす原因を防ぐ。2020~21年には、同じJAK阻害薬として広範囲のサイトカインに働く経口の飲み薬3種も相次いで登場。
免疫細胞にある酵素のPDE(ホスホジエステラーゼ)4は炎症を抑えるシグナルを分解して炎症性サイトカインの産生を増やし、アトピー患者の細胞内ではこのPDE4が増加している状態にある。PDE4阻害薬はこの働きを防ぐことで炎症抑制シグナルを上昇させ、抗炎症性サイトカインを増加させることで炎症やかゆみを改善する。
編集・取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/石山好宏
初出『Tarzan』No.8745・2024年3月7日発売