いまある危機と光明。日本の魚食、一体どうなる!?

日本人の食事が欧米化しているといわれて久しい。ご存じの通り、魚介類の消費量は右肩下がりだ。かつては漁業大国といわれていた日本だが、近年は生産量も低下中。では、未来はどうなる?

取材・文/神津文人 イラストレーション/藤田 翔 取材協力/上田勝彦(ウエカツ水産代表)

初出『Tarzan』No.873・2024年2月8日発売

今ある日本の魚食の危機
教えてくれた人:上田勝彦さん

うえだ・かつひこ/(株)ウエカツ水産代表取締役。東京海洋大学客員教授。長崎大学水産学部在学中に漁師として活動し水産庁に入庁。2015年に退職後、日本の食卓と漁業の現場を繫ぐ活動を展開。

右肩下がりの日本の漁獲類消費量

「日本では戦後しばらくまでは米と魚が中心の食生活でしたが、高度経済成長期に洋食や中華料理が食べられるようになり、食卓に並ぶものが魚から肉、米から小麦の割合が増えていったのです」と、魚の伝道師と呼ばれる元水産庁職員の上田勝彦さん。

国民1人1年当たりの魚介類の消費量は2001年度をピークに下がり続け、2011年にはついに肉類の消費量が上回り、その差は開く一方だ。

魚介類と肉類の1人1年当たりの消費量の推移
魚介類と肉類の1人1年当たりの消費量の推移

出典/農林水産省「食料需給表」

しかし、日本が小さな島国である以上、魚と上手く付き合っていくべきだと上田さんは言う。

「肉食を中心にするということは、他国に依存することにもなりますし、肉の生産を増やそうとしても限界があります。魚は島国日本の伝統食であり、食文化でもあります。常に身近に魚がある。そんな状態が合理的ではないかと思います」

日本人の魚離れは食い止めることができるのか。魚食の今を改めて見つめ直したい。

魚屋が減り大型スーパー中心に。食卓からの魚離れが進む

魚屋が減り大型スーパー中心に。食卓からの魚離れが進む

鮮魚小売業の店舗数は2014年の段階で約1万4000店。2007年と比較して約30%少なくなり、現在でも減少傾向は続く。消費者の魚の購入先は魚屋から大型スーパーへと移行した。スーパーの品揃えの特徴は一定価格、一定量、一定品質、一定規格のいわゆる“4定”。

「いつでも同じ魚を同じ価格で同じ量買えるというのは消費者のメリットのように思えますが、いいことばかりというわけではありません。食卓に並ぶ魚種は少なくなり、価格を抑えるためにクオリティが犠牲になることもあります」(上田さん)

魚屋での購入に比べれば“魚のことを知る、話す”機会も減る。豊かな魚食体験の減少が、長い目で見ると魚離れに繫がってしまうのだ。

海水温の上昇で魚が北上? 海洋酸性化で海の生産力も低下

海水温の上昇で魚が北上?海洋酸性化で海の生産力も低下

2022年までの100年で日本近海の海面水温は、平均で1.24度上昇。その結果、魚の棲み処が北上しているという。

「九州や山陰が主産地だったブリは北海道でも獲れるようになり、フグの漁獲量の全国1位は福岡県でしたが、現在では北海道になっています」

温かい水温を好み千葉県や三重県で多く漁獲される伊勢エビは三陸でも獲れるようになった。このまま海水温の上昇が続けば、この現象は加速するはず。また、人間の活動によって排出される二酸化炭素を海が吸収することで起きている、もう一つの問題が海洋酸性化。既にウニ、サンゴ、甲殻類、貝類、プランクトンなどの繁殖、成長に影響が出ている。海の生産力も弱まってしまっているのが現状だ。

日本の漁業生産量はジリジリと減少中。ピーク時の3分の1程度に

日本の漁業生産量はジリジリと減少中。ピーク時の3分の1程度に

「日本の漁業は戦後、沿岸から沖合、沖合から遠洋へと発展しました。しかし1973年の第一次オイルショックによる燃料費の高騰や排他的経済水域の設定の影響を受けて、遠洋漁業は衰退していったのです」

日本の漁業生産量は1984年にピークを迎えるが(1282万トンで世界1位)、1990年代以降、右肩下がりで減少していく。2022年の漁業生産量は、386万トン。前年比で31万トン減少し、1956年の現行調査開始以降、初めて400万トンを下回った。

漁業で働く人の数もハイペースで減少中。90年代には30万人以上いたのだが、現在は15万人程度。また、2018年には、高齢化率(65歳以上の割合)が38.3%という状況だ。

コロナ禍で魚の消費量が拡大。やっぱり日本人は魚が好き!?

コロナ禍で魚の消費量が拡大。やっぱり日本人は魚が好き!?

肉に日本の食卓の主役の座を奪われてしまった魚だが、再び主役に返り咲く可能性もゼロではないかもしれない。

「というのも、コロナ禍に見舞われた2022年度、魚介類の消費量が前年度から4%アップしたんです」

外食機会が減少し家庭での食事機会が増えたことで、家庭向けの魚介類製品の需要が伸び、それに伴ってスーパーでの品揃えも豊富になったことが要因だと考えられている。

その後、再び魚介類の消費量は減ってしまったが、自宅で料理をする時間、家族が食卓に揃う時間が増えれば、少々料理に手間がかかったとしても魚を選ぶ人がいるということなのだ。

魚離れを食い止めるには、リモートワークの推進などを進めることも有効なのかもしれない。

注目を浴びつつある低・未利用魚。一体どんなもの?

注目を浴びつつある低・未利用魚。一体どんなもの?

魚体のサイズが不揃い、漁獲量が少なくロットがまとまらない、傷がついている、加工に手間がかかる、調理方法が普及していないといった理由からほぼ市場に出回らない魚は、低利用魚、未利用魚と呼ばれる。

飼料になったり、場合によっては廃棄されることもある低・未利用魚だが、決して味が悪いわけでなく、地魚として地元民に愛されている魚も多い。漁業生産量の改善、SDGsへの貢献、食文化の維持・創成に繫がるといった理由から、少しずつだが注目を浴びるようになってきている。

「低・未利用魚を扱っている地元の魚屋に出向き、魚を知る。そんな小さな一歩が日本の魚食の未来を明るくするはずです」