vol. 20中長期の避難生活
連載「ジャングルブック」では、都市でも自然でも、いざという時の役に立つ“生き抜く力”にまつわる知恵を紹介。今回のテーマは「中長期の避難生活」。
edit & text: Ryo Ishii illustration: Yoshifumi Takeda 監修・取材協力/伊澤直人(週末冒険会代表)※最新著作『焚き火の教科書』(扶桑社)好評発売中。
初出『Tarzan』No.872・2024年1月25日発売
避難所の収容人数不足は深刻だ。推計によれば、東京都区内では約60万人分も不足することが想定されている。避難所に入れず、在宅避難もできない―最悪のケースを考え、長期のテント生活に備えることは十分に現実的だ。
東日本大震災では、仮設住宅への入居開始は震災から約2か月後。物資を揃える際には、それだけの期間を視野に入れておく必要がある。
水や食料などは3〜7日程度で配給が始まることを考えると、備蓄品の他に個人で充実させられるのは住環境だ。ポイントは2つ。まずは「立地」。広い公園や競技場、大型施設の駐車場などは、人が集まり、情報収集がしやすいだけでなく、ボランティアによる支援の手が届く確率も高い。そして、「居住空間」。長期ともなると、調理や着替えをしたり、荷物を保管したりと寝床以外のプライベートなスペースが必要となる。広いテントにイスやテーブルなどがあると、快適性が向上する。
ここで大切なのは、復興に向けて体力・精神力を回復していくことができるだけの生活レベルが、長期の避難生活には求められるということ。過度な備えは必要ないが、自分にとって最低限必要な要素を熟考したうえで備えるべし。
プライバシーを保てるスペースを確保する
災害や紛争の被災者に対する人道支援活動のために策定された国際基準「スフィア基準」によれば、人としての尊厳を保つために必要な最低限の居住スペースは、1人当たり3.5㎡(約2畳)とされている。日本の環境でこれを確保するのは難しい場合も多いが、災害対策も込みでテントを揃えるなら、最低でも収容人数+1〜2人を目安に選ぶといいだろう。ただし、テントは大型になるとデメリットも多いため、4人用程度を目安に複数に分けるのが望ましい。
自立するドーム型のテントが快適
テントは、自立するものが好ましい。砂利やコンクリートなど、ペグが刺さらないような硬い地面でも、重りを使うなどして臨機応変に設営できるからだ。なかでも理想的なのは、耐風性に優れるドーム型テントで、2か所以上の出入り口があるもの。雨による水没などがあってもすぐにテントごと移動することができ、突発的な問題にもすぐに対処できる。
正方形や長方形のタープが対応力◎
テントが寝室なら、タープ下はリビングやキッチン。長期間の生活には欠かせない居住空間を作り出してくれるタープの形状は、オーソドックスな正方形や長方形が便利だ。頭上に張れば雨や照りつける太陽から身を守れるのはもちろん、壁のように張れば他者の視線を遮ったり、風を防いだりと、状況に応じてアレンジできるのが最大の強みだ。
小物を充実させて平時の生活に近づける
避難生活では硬く冷たい地べたに長時間座り続けることで、腰痛や肩こりに悩まされる人も多い。イスやテーブルなど小物を充実させることは、単に快適さを向上させるだけでなく、健康面のトラブルの予防という観点からも重視されるべきポイントだ。どれだけ平時の生活環境に近づけられるかが、長期間の避難生活の明暗を分けると言っても過言ではない。