山でも都市部でも。“現実的な”水の確保5つのテクニック
連載「ジャングルブック」では、都市でも自然でも、いざという時の役に立つ“生き抜く力”にまつわる知恵を紹介。今回のテーマは「“現実的な”水の確保の方法」。
edit & text: Ryo Ishii illustration: Yoshifumi Takeda 監修・取材協力/伊澤直人(週末冒険会代表)※最新著作『焚き火の教科書』(扶桑社)好評発売中。
初出『Tarzan』No.836・2022年6月23日発売
山ではまず谷を探す
人間、水がなければ3日と生きられない。
危機を生き抜きたいなら、水の確保は必修科目だ。世界中には多種多様な方法が存在するが、いざ試してみると意外と実用性がないものも多い。日本の自然環境に適した現実的な方法を実践するべきだ。
そもそも日本は、森林面積が国土の67%を占める森林大国。降水量も多いため、森はダムのように水を溜め込んでいる。水は低い方へと流れるから、山ではまず谷を探す。沢があればそこから採取すればいい。なくても岩場の陰から湧き出ていることも多い。
ただし、どちらもそのまま飲むのは黄色信号。動物の糞尿などによって汚染されている可能性があるからだ。
念のために煮沸消毒を施すと安心して飲むことができる。
源流:どんな大河も、遡ればたった1滴から始まる。その最初の水の流れは基本的にキレイだが、取水地点より上流に動物の糞や死骸があれば、病原菌が含まれていることもある。煮沸するのがベターだ。
渓流:源流に比べて水量が増し、大きな岩や砂利が増える。人が住むエリアを流れている場合もあるため、生活排水による汚染も気にすべき。上流に集落があるかどうかもチェックしたい。
本流:いくつかの支流が合流し、川幅も広く、水深も深くなる。一般的に市街地を流れる川では、重金属などの有害物質が含まれている可能性もあるので、基本的に飲まない方がいい。
問題は都市部で孤立したとき。
川の水は、頼りにできないと思っておいた方がいい。法律で規制されているとはいえ、産業・生活排水による水質汚染の可能性があるし、特に災害時ともなれば、川に転落した車から油が漏れ出しているとも限らない。
都市部では雨水を集めたり、穴を掘って蒸留する方法が有効だ。
水を確保する5つのテクニック
ここで紹介する5つのテクニックは、そうしたことを踏まえた現実的な水の確保術。自分の体力の消耗具合やケガの有無、周りの環境などに合わせて使い分け、なるべく手間と時間をかけずに安全な水を手に入れよう。
テクニック① 谷を探す
森は緑のダムといわれるように、山はたっぷりの水を抱えている。その水は山と山の間の窪地を目掛けて流れ、集まり、やがて川となる。谷を探せば、自然と水に行き着くというわけだ。
標高1000mに満たない低山であっても、谷になっている場所にはちょろちょろと水が湧き出ていることも多い。ただし、谷には危険もたくさんある。滑落して身動きが取れなくなってしまう可能性もあるため、川の音が聞こえるからといって、急斜面を無理に下るのはNGだ。
テクニック② 雨水を溜め
雨は体温を奪い、足元も悪くするなど、サバイバル環境においては歓迎されたものではない。しかし、喉が渇いているなら話は別。降っている雨を容器で集めよう。
タープのガイラインに細引きの紐を結び付け、その下に容器を置くだけ。
雨水が紐を伝って効率良く集めることができる。降り始めは空気中の汚れを含んでいるので、特に都会であれば10〜15分経ってから集めるといい。濾過などは必要なく、そのまま飲んで大丈夫だ。
テクニック③ 川の水を濾過する
サバイバル術として有名な水の濾過装置といえば、小石や砂、綿などをペットボトルなどに詰める方法。しかし、素材を集めるのにそれなりの手間がかかる。むしろ、ある程度キレイな水が手に入れば、もっと簡単な装置でも十分に役割を果たしてくれる。
大きめの容器に手ぬぐいや布切れを被せ、中には洗った消し炭を入れる。これで大きな不純物は取り除けるし、炭の吸着効果で微細な汚れやごみも取れ、クリアな飲み水になる。
テクニック④ 太陽の力で蒸留する
水場がどうしても見つからないときには、太陽の力を借りた「ソーラースティル」という蒸留方法が効果的。
まず、地面に円形の穴を掘り、中心に容器を置く。その周りには水分を含んだ瑞々しい葉(生木から採取したものが理想)を散らし、ビニールシートで蓋をする。
小石を真ん中に置いて窪ませれば、中が結露し水滴が容器に溜められる。土が十分に湿っていれば葉は必要なく、小便を飲み水にリサイクルすることだって可能。
テクニック⑤ 焚き火で蒸留する
都市部では、やかんやコップが容易に手に入る。それらを使えば、シンプルながら効果の高い蒸留システムを作ることが可能だ。
方法は簡単。やかんの注ぎ口にコップ(できれば金属製)を被せて火に掛けるだけ。すると、注ぎ口から出てきた蒸気がコップ内で冷やされ、水に戻る。
あとはそれを容器で受け止めてやる、という仕組みだ。これなら、海水や不純物の多い泥水などにも応用可能。しかも、一度に多量の飲み水を確保できる。