長時間の試合・レース前に。エネルギーを備蓄する「カーボローディング」の正しいやり方
連載「コンディショニングのひみつ」。今回からは複数回にわたり、試合やレースのための“短期的”な「食と栄養」の戦略を解説。本記事では、カラダにグリコーゲンを備蓄する「カーボローディング」を紹介する。
取材・文/オカモトノブコ 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売
「消化」を考えた試合・レース前の食べ方
運動時にカラダのベストなコンディションを引き出すには、その前に摂取した食事と栄養の状態が大きく影響する。そこで今回の本連載では、当日のパフォーマンスに直結する「何を・どう食べるか」という短期的な視点に基づく戦略を、具体的な例とともに解説していこう。
ここでまず、重要なキーワードとなるのが「消化」。
大切な試合やレースの最中に、便やガスがお腹に溜まって集中の妨げになるのは避けたいところだ。消化に時間がかかり、便意も催しやすい食物繊維たっぷりの食べ物、お腹をこわす可能性がある刺し身などの生ものも、前日から控えておくことが望ましい。
さて、「消化」のうえで重要なポイントになるのが“スタート時間から逆算して食べ物を選ぶ”こと。ちなみに脂肪が胃を通過する時間は7~8時間、タンパク質で4~5時間といわれている。消化が不十分で胃がタプタプしたり、胃もたれしたままではベストなパフォーマンスが得られないのは言うまでもないだろう。
一方、レースや試合前では特に必要、かつ不可欠な栄養素が「糖質」つまり炭水化物だ。
グリコーゲンを備蓄する「カーボローディング」のやり方
糖質は、筋肉や脳にとっては唯一のエネルギー源となるもの。
加えてマラソンなど長時間の運動でエネルギー源となるのが、普段の食事で使い切れずに余った糖質から変換され、おもに筋肉に蓄えられる「グリコーゲン」だ。これが枯渇すると、スタミナ切れによるフラつきや疲労感を招く原因となる。
そのため本番前は、糖質を多く摂取し、グリコーゲンの備蓄を“満タン”にしておくのがマストだ。その手段が「カーボローディング」という食事法で、近年では当日の2~3日前から高糖質食を摂取する方法が一般的。毎食の糖質を普段食べている主食の2倍程度、総カロリーでは70~80%という比率にすることで、筋肉のグリコーゲンが通常に比べて2倍近く蓄えられるとされている。
当日の朝食は、いわばカーボローディングの最終局面。食べ物が胃で消化される時間から逆算し、遅くともスタートの3時間前には食事を済ませたい。
本番前ではエネルギーをしっかり補給できる最後のタイミングのため、推奨されるのは米やパン、麺類といった糖質の合わせ技。スイーツ好きなら、大福やどら焼きなどのあんこ製品もおすすめだ。運動時に特化した「スポーツようかん」などのアイテムを利用する手もある。
このタイミングで食事が十分に摂れなかった、小腹が空いてしまったという場合は、本番の1時間前にバナナやエネルギーゼリーなど、消化がよく高糖質の食品を。
さらに30分前には水分補給に加え、スポーツドリンクやタブレットで糖質を摂るのもいいだろう。これらは、長距離のマラソンなどで10kmおきに糖質補給をする際の手助けにもなる。
ただしスタート直前の糖質補給はインスリン濃度が急上昇し、反動で血糖値が急降下する「インスリンショック」でパフォーマンスの低下を招く可能性があるため要注意。
戦略的な栄養補給によるベストな体調で、最高のパフォーマンスを発揮しよう。
試合・レース当日の食事スケジュール例
消化の時間から逆算すると、食事は本番の遅くとも3時間前までに終えること。米やパン、麺類といった糖質の合わせ技のほか、あんこ系の菓子もおすすめだ。1時間前には消化のより早いものを選び、糖質補給はスタートの30分前までに。
復習クイズ
答え:グリコーゲン