レイヤリングの基本
連載「ジャングルブック」では、都市でも自然でも、いざという時の役に立つ“生き抜く力”にまつわる知恵を紹介。今回のテーマは「レイヤリングの基本」。
edit & text: Ryo Ishii illustration: Yoshifumi Takeda 監修・取材協力/伊澤直人(週末冒険会代表)※最新著作『焚き火の教科書』(扶桑社)好評発売中。
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
レイヤリングの基本
アウトドアにおいて、衣服は時に生死を分ける。乾きやすく、動きやすい服でなければ、汗や雨、風に体温を奪われ、最悪の場合には低体温症に陥ってしまうからだ。
それを防ぐには、機能の異なる服を重ね着する「レイヤリング」が重要となる。活動中の体温の変化や、急な天候の変化があったときには、こまめに服を脱ぎ着することで寒暖の調節を図るのだ。
基本的なレイヤリングは3層。①吸汗速乾性のある「ベースレイヤー」、②吸水性と保温性のある「ミドルレイヤー」、③雨風や寒さから守る「アウターレイヤー」。特に重要なのが汗のコントロールで、厚着しすぎて汗をかきすぎないよう、保温性と通気性のちょうどいいバランスを見つけたい。服のフロントジップを開けたり、風通しの良い素材を取り入れたりして、行動中でも汗をかかないのが理想。左の解説を参考に、普段の生活にもレイヤリングを取り入れてみると、快適に過ごせるはずだ。
① 適切な機能を重ね着して「動」と「静」を制する
レイヤリングの最大の目的は、体温を低下させないこと。汗や雨による濡れ、風の吹き付け、気温の低下など、カラダの熱を奪う要素はたくさんあるが、すべてを一着の服でまかなうのは難しい。服ごとの役割分担を理解して、適切なレイヤリングを構築しよう。
ベースレイヤー
肌に直接着用するベースレイヤーには、汗を吸い上げ、素早く乾かす「吸汗速乾性」が求められる。素材は軽量で高機能な化繊、保温性や防臭効果に優れるウールが基本。近年はさらに下にドライインナーなどと呼ばれる4層目を加えて吸汗性を高める工夫も。左図のようにハーフジップになっているものだと、胸元まで開放でき、体温調節がしやすい。
代表例:化繊orウールのTシャツやアンダーウェア(薄手〜厚手)など
ミドルレイヤー
暖かい時期はシャツ、寒い時期にはフリースなど、さまざまなウェアを使い分けるミドルレイヤーは、レイヤリングにおける調整役。ベースレイヤーから汗を受け取り、素早く乾かす速乾性と、保温力、蒸れにくい通気性など求められる機能は多く、快適さを求めるなら、よりテクニカルなウェアが欠かせない。行動着と保温着を分けて用意するのも有効だ。
代表例:ロングシャツ、山シャツ、フリース、化繊orダウンインサレーション
シェル・アウターレイヤー
一番外側に着るウェアで、主な機能は雨を防ぐ防水性と風を遮る防風性。特に標高の高い場所では、雨に濡れて風に吹かれると一気に体温が奪われてしまうので、アウターは必須。また、もう一つ重要なのが透湿性。汗は水蒸気となって衣服内に溜まるため、ゴアテックスをはじめ、効率的に湿気を外に通してくれる高機能素材が使われているものが安心だ。
代表例:ハードシェルジャケット、レインウェア、ダウンジャケットなど
② 末端を守る小物もマスト
人間は寒さを感じると血液をカラダの中心部に集中させ、大切な器官を守ろうとする。そのため、手や頭といった末端は特に冷えやすい。冬場に外で行動するなら、ウール製のグローブや耳当ての付いた帽子など防寒アイテムも忘れずに用意しよう。雪山などでは手袋にもレイヤリングを用いると温かさと作業性を両立できる。
③ 標高・季節に応じたレイヤリングを
天候や気温だけでなく、標高などあらゆる要素を考慮する必要があるレイヤリング。ここでは、登山での一例を紹介する。
低山(〜標高1,000m) | 中・高山(標高1,000m〜) | |
夏 | 速乾Tシャツ+山シャツや接触冷感のアームカバー、下は薄手の長ズボンかショーツ+薄手のタイツで涼しく。 | 速乾インナー+薄手の長袖シャツ。稜線では薄手のウィンドブレーカーや中綿ジャケットが役立つ。 |
春・秋 |
行動着は長袖シャツやベストで調節。稜線ではハードシェルを加え、停滞中は薄手のダウンジャケットで保温。 |
インナーはウール製のものに。行動着として中綿ジャケットやフリースが活躍。パンツもタイツで保温性をアップ。 |
冬(雪山) | 中〜厚手のウール製インナーで暖かく。ミドルレイヤーを行動着と保温着で分け、アウターは厚手のウィンドシェルか雪山では冬用のジャケットが必要。保温&防風小物がマスト。 |