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「歩く速度で周りを見ると、景色が自分に馴染む」内澤旬子さんが歩いた小豆島お遍路
ウォーキングをする理由は十人十色。ダイエットや運動不足だけが目的じゃない。なぜ歩くのか? 歩くことに何かを見出しているという人たちにその理由や歩き方を聞いてみた。奥深さや楽しみを知れば、もっと長く、もっと頻繁にウォーキングに出かけたくなるはず。今回は作家・イラストレーターの内澤旬子さんが歩いた「小豆島お遍路」について。
一回歩いてそれで終わりではなく、少しずつでも関わっていきたい
白衣に輪袈裟、菅笠に念珠に金剛杖。遍路装備一式を身につけたイラストは、内澤旬子さんご本人。移住先の小豆島のお遍路を回ってみようと思い立ったのが2017年のこと。

内澤旬子(うちざわ・じゅんこ)/講談社エッセイ賞を受賞した『身体のいいなり』他、著書多数。2014年に小豆島に移住。小豆島遍路の顚末は『内澤旬子の島へんろの記』(光文社)に詳しい。
「小豆島のお遍路は知られてないですよね。四国遍路を踏破された方が宿泊先で小豆島にも遍路があるらしいと聞いて、もうちょっと歩きたいからと挑戦するみたいです。
でも、小豆島の方が多分全然楽。四国に比べてコンパクトなので頑張れば8日とか10日で踏破できると思います」

小豆島の海の青さは素晴らしい。水平線に見える島影も見飽きることがない。でもこの鎖場はちょっと怖い。

岩と岩の隙間のようなところにある岩窟寺院。
コンパクトとはいえ、総距離150km。なかなかの道のりだ。
それでも内澤さんが選んだのは、気軽なバスツアーでもなく一日体験でもなく、ひとりぼっちの歩き遍路。一気に札所を巡る“通し打ち”ではなく、時間をかけて巡る“区切り打ち”だ。
「車と違って歩く速度で周りを見ると景色が自分に馴染むというか。グループでおしゃべりしながら歩くお遍路もあるんですけど、一人で頑張りたい、それもコツコツやりたいという思いがありました。一人の方が歩くリズムが摑みやすいですし」
ただ残念ながら自他ともに認める方向音痴。スマホの位置情報を見ず、もう少し歩いたら標識が出てくると歩くうち深みにハマって迷いまくり。
「ある程度自分の能力で歩きたいというか、一度スマホを見るとずっと見っぱなしになるじゃないですか。それではつまらないし景色も楽しめない。
だからスマホを確認する頻度を決めるのが難しかったです。でも集落では迷っても山中は案内札が多くて迷うことはなかったですね」

中には驚くほど案内札が多い。これも先達の心遣い。
雨に降り込められたり帰りのバスを逃したりひと山越えた後の急坂に心が折れそうになりながらも、2年の月日をかけて結願を成し遂げた。
「達成感…はなかったですね。今でも時間があるときは“チョキチョキ遍路”という遍路道の掃除をする行事に参加しています。一回歩いてそれで終わりではなく少しずつでも関わっていきたいと思っています」
取材・文/石飛カノ イラストレーション・写真提供/内澤旬子
初出『Tarzan』No.866・2023年10月5日発売