そのタスクにワクワクしなくなったら?:楽しくてやめられないクセ化への道④
タナカカツキさんと広岡ジョーキさんとともに、タスクメソッドの真髄に迫る短期連載 全4回/第4回目。最終回は、クセ化を成功させるためのコツとよくあるトラブルシューティング。
取材・文/山本加奈 撮影/幸喜ひかり マンガ/タナカカツキ 編集/金井タオル
タナカカツキさん
教えてくれた人
1966年、⼤阪府⽣まれ。1985年マンガ家デビュー。⽇本サウナ・スパ協会公認サウナ⼤使。サウナ愛好者のバイブル『サ道』の原作者。
広岡ジョーキさん
教えてくれた人
リトルプレスの企画編集、執筆、デザイン、翻訳、クリエイティブコーディングなど、領域を横断しながらタスクメソッドで活動中。
やる気なんて存在しない
――我ながら完璧なタスクを書き上げたのですが、どうにもやる気が出ません。何かいい方法はありませんか?
タナカカツキさん(以下、カツキ):タスクメソッドでは、やる気の力を使いませんし、そもそもやる気なんてものは存在しないと思っています。もし存在するとすれば、それは何かをやり始めてからやっと出てくるもの。
脳の側坐核というところには、「作業興奮」を発動させる仕組みがあります。作業を始めることで脳が興奮する、いわゆるやる気が立ち上がります。
心当たり、ありませんか?「掃除、面倒だ〜」と重い腰を上げてしぶしぶ始めたら、興にのって、押入れの整理までしちゃったとか。
――あります! それで収拾がつかなくなって、余計に散らかってしまったり。
カツキ:なぜタスク化するのかと言うと、そうやって感情で行動することを避けるためなんです。
広岡ジョーキさん(以下、広岡):感情に振り回されないように、事前にプログラムを組むイメージですね。
――初回で言っていた“無意識系”ですね。これまでは、感情や意志の力を原動力として習慣化しようとしていたから続かなかったのか…。
カツキ:「やりたい気分になったらスクワットをやろう」を言い換えると、気分が乗らないとやらないわけですよね。
脳は負荷のかかる“決定”を嫌う臓器です。だから、毎回「やる、やらない」の決定をしていたのでは、クセ化の道は遠のくまま。脳が疲労するから、精神的なしんどさもつきまといます。
――どうすればいいんでしょう?
カツキ:「朝9時からスクワット(20分)」とやる時間を決めてしまうんです。9時になったら自動的に、淡々とスクワットを始める。そして、20分経ったら気持ちが盛り上がっても終える。そこには、感情もやる気も必要ありません。
広岡:「タスクメソッド」には“やる気スイッチ”はなくて、あるのは“時間スイッチ”だけ。だからこそ、無意識系のススメなのです。
――なるほど!
カツキ:もっと言うと「時間スイッチ」さえも、要らないかもしれません。なぜならば、スイッチには押すという「決定」を伴うから。あるのは、ただ始めと終わりの時間だけという状況に自分を置いてみる。
「タスクメソッド」は、モチベーションを上げるといった感情管理ではなく、時間管理のテクニックなんです。「朝9時に、いつもココでスクワットをしている」という状態を2、3週間続けると、自分の行動が自動化されていることに気づきます。
広岡:『TASK NOTE』は、その原理に沿って作っているので、タスクメソッドに初めて挑戦する人でも感覚をつかみやすいと思います。
――どうやって使うんですか?
広岡:ノートの縦軸には時間軸に沿ってタスクを並べ、横軸は毎日「やった」「やらなかった」の印をつけていきます。
タスクリストは2~4週間に一度、左端の欄に書き出すだけ。自動で発動するプログラムみたいなもので、 指令を書くのと毎日の実行を分けていると思ってください。
カツキ:普段の生活でも、なんだかんだ言って時間が決まっていることしかやっていないんですよね。会社も出社時間が決まっているから、その時間に行くわけですし。
起床から8時間が勝負
――実行する時間を決める際に、スケジュールは日々変わるし、バラツキが生まれるのはどうすればいいですか?
カツキ:起床時間を固定化するのがブレ防止には有効です。1日のスタートである起床時間が日によってブレていると、あとに続くすべてのタスクがブレブレになっちゃいますからね。
――おふたりは朝4時に起床して、タスクを開始しているんですよね。
カツキ:起床時間に正解があるわけではありません。ただ、自分のやりたいことを実現させるためには、他者や社会からの影響を受けすぎない必要があるので。
周りが活動を始める時間になってしまうと、子どもの世話や仕事のやり取りが始まってタスクが遮られる可能性がありますよね。理想的な状況は、世の中が動き出す前に活動を始め、皆がのんびり夜更かししている時間に休息を取る。
周りが夜な夜なNetflixでゾンビ映画を楽しんでいるかわりに、自分はベッドに潜り込み、そこでゾンビ映画よりもスリリングな悪夢の世界へと旅立つのです。
――夜型なので「朝早く起きる」というタスクが一番難しそうだし、あまりワクワクしません…。
カツキ:別に夜にやっていてもいいんです。繰り返しになりますが、義務になったら脳はやりませんから。ただ知っておいてほしいのが、夜の脳の正体です。夜の脳は、日中の活動で意思決定力を消耗してしまって、何をするにしてもダラダラする傾向があるんです。
そして、とても感情的。脳が疲労すると、心は脳の支配から解放されるため、感情の赴くままに振る舞い始めます。嫌なことはもっとネガティブに、いいことは溺れるように。夜は、感情に振り回される時間でもあるのです。
広岡:僕も昔、夜型でした。ただ、夜は食事や飲み会といった付き合いも発生して予定がブレるし、疲れているからタスクの実行率はかなり低かったです。
それが、朝にタスクをもってきただけでクセ化の成功確率がぐんと上がった。どうやって朝型に切り替えたかと言うと、朝一番のタスクを工夫したんです。
――具体的には何を?
広岡:朝4時に起きたら、まず「大好きなコーヒーを淹れる」というタスクを入れました。毎日、香り豊かな、めちゃくちゃうまいコーヒーが飲めるぞ、と。それを楽しみにすることで起きられるようになりました。
カツキ:朝は五感が立ち上がって、心身の疲労が最も回復している快楽度100%の時間帯ですからね。無条件に気持ちがいいから、一刻も早くそのタスクをやりたいと思って飛び起きてしまいますよね。
――遠足の朝のような気分で迎えられるわけですね。
カツキ: そういうことです。「朝は使い物にならない」というのも、もしかすると大いなる勘違いかもしれません。子どもの頃に怒られながら起こされて、しぶしぶ登校する。起きた瞬間から「しなければいけない」の連続で、だから「朝は嫌い」と脳に書き込れているだけかもしれませんよね。
他者の目線バイアスに気をつけて
――ところで、理想をイメージして20分の作業に細分化してタスクを作ったものの、いくつかのタスクにワクワクしないんですよね。理想のイメージにはワクワクするんですが。
カツキ:これまでの過程で自分が何を求めているのか、よりはっきりと知覚できるようになっているはずですが、気をつけたいのが「他者の目線バイアス」です。
――他者の目線バイアス、ですか?
カツキ:あなたのその願望は「周りに良く思われたいから」になっていませんか? ということです。
「自分の生き方を親に認められたい」「モテたい」「リスペクトされたい」。これらは他者ありきの願望で、本当に自分がやりたいことかどうか疑わしいじゃないですか。
なぜそう思っているのか。どこからその考えはやってきたのか、今一度考えてみるといいのではないでしょうか。それらは、ただの思い込みや単なる社会通念かもしれないですから。
タスクメソッドは習慣化の方法ですが、自分の人生を歩むのか、周りに流されて毎日を生きるのかを問うチャンスでもあるんです。
他者と調和して社会生活をおくることはもちろん大事ですが、それだけでは社会に振り回されるだけの生き方になってしまう可能性もあります。「タスクメソッド」を実践していくと、こういったこともクリアになってくるんです。
ブレたときの戻り方
――イメージがブレてしまったときの戻り方も知りたいです。
カツキ:やはり、「振り返って書き出すこと」ですね。挫折する理由って色々あると思うんですが、それに気づくには書き出すしかありません。その情報が頭の中にあるままだと、脳が上手く処理できないんです。
タスクにワクワクしなくなったとき、または1か月などタイミングを決めて、タスクのメンテナンスをするのが大事です。
筋トレが続かないのなら、思い当たる理由を細かく、箇条書きで書き出してみる。その行為もはじめはスムーズにいかないかもしれませんが、慣れてくるので心配ありません。
時間を掛けて、次の日も書き出しましょう。タスクが上手くいっていない答えはそのリストの中にあるはずです。もしかしたら「ジムが遠かった」ことが理由かもしれません。
広岡: 筋トレのハードルが高かった、自分に合わないやり方を選んでいた、タスクの時間帯が間違っていた、いろんな可能性が考えられますよね。
カツキ:そこまでしてあげないと、原因はぼんやりしたまま、勘違いを引きずったまま、という可能性が高くなりがちです。
――そうした振り返りにも『TASK NOTE』が役立つわけですね。
広岡:あとは、『バイポーラーワークブック』という認知行動療法の本が、タスクのメンテナンスを考える上で参考になります。
たとえば“毎年、冬に鬱になる”ケースが本当に季節変動の影響なのか、それともクリスマスに家族が集まる席で「いつ結婚するんだ」と言われたりするストレスの影響なのかを認識して“備える”計画を立てる話が出てきます。
――自分の状況を正確に認識するには、書き出して記録を取り、掘り下げる必要があると。
カツキ:定期的にメンテナンスをしながら、ぜひ自分を知る楽しさを存分に味わってください。
広岡:補足で、参考書籍もいくつか紹介しておきます。こちらもぜひ、参考にしてみてください。
広岡さんおすすめ書籍
『独学大全』読書猿(著)2020年ダイヤモンド社刊:「特定のタスクをやらない日が続いた場合、やり方が合っていないことが多いです。この本は、何かを学ぶ際の方法論の宝庫です」
『ぼくたちは習慣で、できている』佐々木典士(著)2018年ワニブックス刊:「習慣に関する数々の理論を学んだ著者が、そこから抽出したエッセンスをまとめた本です。「クセ化」を実践しながら読むと共感できる部分が多いです」
『バイポーラーワークブック[第2版]』モニカ・ラミレツ・バスコ(著)/野村総一郎(訳)2016年星和書店刊:「認知行動療法で感情の波をモニタリングするためのワークブックです。無理なく「クセ化」して気持ちよく実践し続けるための参考になります」
『今日はそんな日』
朝4時起床、昼までのタスクは静かに淡々と。自分に甘く、どこまでも快適を求めた著者が辿り着いたスーパールーティンの生活。時間に支配されることで成果をもたらした創作メソッド。
『TASK NOTE』
固定タスクを時系列で並べ、次に何をやるか悩まず「時間が来たらやる」ためのノート。2週間・1カ月単位のタスク設計を想定し、どちらの場合もしっかり1年間記録が可能。巻末には実例サンプル、タスク生活の助けになるリファレンス集を収録。1,100円。販売ページ