小さな傷の応急手当て。
連載「ジャングルブック」では、都市でも自然でも、いざという時の役に立つ“生き抜く力”にまつわる知恵を紹介。今回のテーマは「小さな傷の応急手当て」。
edit & text: Ryo Ishii illustration: Yoshifumi Takeda 監修・取材協力/伊澤直人(週末冒険会代表)※最新著作『焚き火の教科書』(扶桑社)好評発売中。
初出『Tarzan』No.864・2023年9月7日発売
小さな傷の応急手当て
汗や雨に濡れた服は着替えられず、手足は土や泥で汚れ、清潔な水も乏しい。そんな不衛生な状況で怪我を負ってしまうと、たとえ小さな傷であっても命取りになりかねない。特に怖いのが感染症だ。
代表的な例は、やはり破傷風。症例は少なくなっているとはいえ、現代でも年間約100人が発病し、5〜9人は破傷風が原因で死亡しているという(国立感染症研究所調べ)。ワクチンの効果は約10年であるため、よくアウトドアに出掛けるという30代以降の人であれば、定期的な接種を心掛けたい。
破傷風でなくとも、細菌によって患部が化膿すると、赤く腫れ、熱を持ち、放っておけばまともに動けなくなってしまうことだってある。
もちろん、滑落などによる骨折や大出血も致命傷だが、作業中にナイフで指を切ったとか、素手で枝を摑んだらトゲが刺さったとか、少しの怪我でも野外では油断すべきではない。小さな傷もすぐに応急処置を。これが鉄則だ。
小さな傷も疎かにしない
どんな傷でも処置をするうえで大切なのは、感染の予防と止血だ。きれいな水が豊富にあれば傷口を洗い流し、なければ消毒液を使って患部を清潔に保つことが第一。
その後、手や布で傷口を押さえて止血し、絆創膏を貼る。近年、傷の手当てとして主流になっている「湿潤療法」があるが、これは衛生管理がしっかりと行えることが大前提。土や泥、その他の汚れが付着した状態で患部やその周りに触れる可能性が高い野外では、逆効果になる可能性もあるので注意。
きれいな水がなければ、消毒液は有効
傷口が化膿する原因は、感染源となる異物や壊死した皮膚組織などが傷口に残ってしまうことにある。
流水でしっかりと洗い流し、ゴミを取り除けば感染・化膿は起こらないということから、基本、消毒液は使わないというのが近年の定説だ。しかし、地震で水道が止まってしまっていたらどうだろう。山の中で飲み水が底をついていたら? そういった状況では、消毒液で患部の洗浄をするのも有効だ。また、手の消毒用などに個包装の除菌パッドを持っておくといい。
トゲは放置せず、すぐ抜くべし
表面の傷と違い、奥まで深く刺さってしまうトゲは、化膿の原因となる雑菌も奥まで入り込み、患部を洗浄するのもひと苦労。
また、トゲが刺さるのは指先が多く、作業するたびに痛むとストレスにもなるので、細かいトゲでも抜ける、精度の高いトゲ抜き(毛抜き)を必ず携行するようにしよう。
皮膚の下に入ってしまったものは、安全ピンの針先で掘って薄皮をめくり、トゲを取り出す。その際、安全ピンは火で炙るかアルコールなどで消毒すること。
エイドキットに追加したいアイテム。
外傷=軟膏、抗生物質
化膿してしまった傷や、感染のおそれがあるときには、傷用の軟膏で患部を保護するのが効果的。消毒後に抗生物質が配合された皮膚用薬、もしくは抗生物質の内服薬を用意しておくと、いざというときに安心だ。
火傷=ウォータージェルパック
アウトドアでは軽度の火傷は起こりやすいもの。すぐに冷却するのが鉄則だが、氷が手に入らない野外では、ウォータージェルパックが役に立つ。患部に塗ると火傷内部の熱を吸収することによって冷却してくれる。
傷口の確認=ミラー、ルーペ
頭部や肩、背中といった見えない部位の傷を確認するためには、ミラーが有効だ。遭難したときにも役立つシグナルミラーだと一石二鳥。また、見えづらいトゲを抜くためにはルーペがあると便利だ。