副交感神経から整える。生き急がず、ゆるく暮らすアイデア集
情報とタスクに囲まれて忙しない日々を送っていると、交感神経優位になり、自律神経が乱れてしまう。では、どうしたらいいのだろう。副交感神経優位を導き、リラックスした日々を過ごすための方法「ゆる活」を学んでみよう。
取材・文/神津文人 撮影/小川朋央 ヘア&メイク/大谷亮治 イラストレーション/室木おすし 編集/堀越和幸
初出『Tarzan』No.858・2023年6月8日発売
教えてくれた人
福永伴子先生(ふくなが・ともことも)/クリニック浜松町院長。医学博士。日本精神神経学会認定専門医。日本医師会認定産業医。さまざまな医療機関で精神科医として従事し、2011年に女性が安心して相談できるメンタルクリニックとして、〈ともクリニック浜松町〉を開院。
忙しい毎日を送っていると、どうしても交感神経優位の時間が長くなる。ストレス過多、睡眠が不足気味なうえ、さらに寝る間を惜しんでハードなトレーニングをしていては、自律神経は疲弊するばかり。
普段、時間に追われていることが多い人ほど、副交感神経にスイッチを入れるために「ゆるく」生活することが大切だという。
「自分に適した副交感神経を優位にする方法を知っておくと、自律神経の乱れを予防できます」と、〈ともクリニック浜松町〉の福永伴子先生。
さあ「ゆる活」を始めてみよう!
倍速視聴をやめる
効率的に多くの動画を鑑賞するために、倍速で視聴する人が増えている。もちろん時短にはなるのだが、倍速視聴は情報が過多になり、前頭葉が情報を処理しきれないことも。好きな動画を見てリラックスタイムを過ごそうとしても、倍速で見続けると、交感神経が優位となり、カラダは緊張状態になってしまうのだ。
タイパを見直す
“タイパ”とはタイムパフォーマンスの略。自律神経を疲弊させないために、常にアクセルを踏むのではなく、緩む時間を積極的に設けたい。移動時間や隙間時間でのスマホ仕事、予定の詰め込み、マルチタスクなどが過度になっていないか、一度見直してみよう。
「Niksen(ニクセン)」
オランダ生まれのストレス解消法、ニクセン。その方法は、予定や義務感から自らを解放するために、目的を持たずに時間を過ごすというもの。芝生に寝そべる、ソファに座って好きな音楽に身を任せる、窓の外をぼーっと眺めるなど、“何もしない”時間を過ごすことで、副交感神経が優位になり、心身が休まるという。オランダでは、燃え尽き症候群に陥ってしまった人へのセラピーとしても、ニクセンが活用されている。
火をボーッと見つめる
炎のゆらぎを眺める行為にはリラックス効果があるとされている。また、蛍光灯やスマホのブルーライトは交感神経を優位にするが、キャンドルの灯りは副交感神経を優位にする。自然の中での焚き火は自律神経の調整に効果的といえる。
プチ・リトリート
リトリートとは、日常生活から離れてリフレッシュすることを目的とした時間の過ごし方のこと。避難所や隠れ家を意味するリトリートメントがその語源。少しの時間(プチ)でもいいので、喧騒から離れ、自然が豊かな場所でのんびりと過ごすことで副交感神経にスイッチが入り、自律神経が整うことに繫がる。
食事はいつもの倍の時間をかける
咀嚼を意識してゆっくりと食事をすると、副交感神経が優位になるだけでなく、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌も高める。しっかりと嚙んで食べれば胃腸への負担は軽減されるし、咀嚼には頭部への血流促進効果もある。忙しい人こそ、十分な食事時間を確保したい。
太極拳を取り入れる
運動中は心拍数が上がり交感神経が優位になるもの。しかし、スローな動きでカラダを緊張させずに行う太極拳は、交感神経を優位にすることなく行えるだけでなく、呼吸数が減少し、副交感神経が優位になる稀有な運動。
好きな香水をつける
ストレスを抑制する方法の一つとしてアロマテラピーが存在するように、香りがヒトに与える影響は大きい。好きな香りを嗅いでリラックスしたり、リフレッシュした経験は誰にでもあるはず。好みの香りを身にまとうことは、副交感神経を優位にすることに繫がるのだ。
水族館でクラゲを見る
近年、水族館の目玉的存在にもなっているクラゲ。その人気の理由は、クラゲが持つ癒やし効果にあるといわれている。水中を漂うクラゲをぼーっと眺めるのは、焚き火やニクセンと同様、副交感神経を優位にする働きがあるようで、クラゲの映像を鑑賞するとストレス値が下がるという研究報告もある。
マンダラ塗り絵をする
マンダラ(曼荼羅)とは仏の眼から見た世界の構造を表す図柄。密教で悟りを開くために生まれ、僧侶たちは修行として曼荼羅を描いていた。そして精神科医で心理学者のカール・ユングは、患者の治療にマンダラを活用していたといわれている。塗り絵には自律神経を整える効果があるとされているので、マンダラ塗り絵ならより効果が期待できそうだ。
“涙活”にチャレンジしてみる
涙活とは涙活事務局代表の寺井宏樹氏が考案・提唱している、能動的に涙を流すことによる心のデトックス法。映画鑑賞や読書などを通じて感動して涙を流すと、副交感神経にスイッチが入り、ストレスが解消し、心の乱れもおさまるという。「最近泣いた記憶がない」という人こそ、涙活に挑戦してみてほしい。