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恵まれない環境から這い上がった元UFC世界王者マックス・ホロウェイ。エリート集団・灘校生を前に語ったこと

マックス・ホロウェイ

世界最大の総合格闘技団体UFCのフェザー級元世界王者、マックス・ホロウェイ。先日来日し、日本有数の進学校「灘校」での講演会に登壇した。ハワイの貧しい家庭から世界王者に這い上がったホロウェイは、将来日本を背負って立つエリートの卵たちを前に何を語ったのか? その講演会の様子をレポートする。最後には単独インタビューも!

今や世界中で人気となっているUFCで、数々の記録を持つマックス・ホロウェイ。ハワイの貧しい家庭に育ち、今もハワイを拠点に活動中の彼が、神戸にある日本有数の進学校、私立灘中学・高校(灘校)で講演を行った。総合格闘技の世界チャンピオンと、進学校として有名な灘校という思わぬ組み合わせだ。

実は灘校の創立者は、柔道の開祖で、初代日本オリンピック委員会(JOC)委員長でもある嘉納治五郎(かのう・じごろう)。その影響もあって、今も体育の授業とは別に柔道が熱心に行われている。

そしてホロウェイは『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『東京リベンジャーズ』など大の日本アニメ好きとしても知られ、コロナ期間からはプロゲーマーとしての活動も開始するなどポップカルチャーにも造詣の深い人物。

そんなホロウェイは、灘校生たちを前に何を語ったのだろう?

ホロウェイは家族と『鬼滅の刃』のコスプレも。

灘校とUFCはルーツが同じだった!?

まずは講演前に、マックス・ホロウェイの友人でハワイ在住の井谷武(いたに・たけし)氏に、「灘校とUFCにどんなつながりが?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「灘校の創立者でもある嘉納治五郎先生は、約150年前に柔道団体『講道館』を作りました。その講道館の弟子の一人に前田光世(リングネーム:コンデ・コマ)がいて、彼は100年前にブラジルに渡り、現地のグレイシー家とともにグレイシー柔術を創始したんです。今のUFCは、そのグレイシー家がもとになって作られているんですよ」

つまり灘校とUFCは、どちらも1世紀前に「嘉納治五郎」というルーツを同じくしていたのだ。

嘉納治五郎の銅像

灘校の入口には柔道の開祖で日本スポーツの父、嘉納治五郎の銅像が立てられている。

やりたいことを周囲から反対されたとき、みんなはどうする?

講演会の様子

講演会は、ホロウェイの生い立ちの紹介から始まった。ハワイのワイアナエという、貧しく治安も良くない町に育った彼は、K-1でも活躍したムエタイファイター、ブアカーオに憧れ、もともとK-1の選手になりたいと思っていた。

しかし練習環境も整っていない町だったため「世界一のファイターになりたい」と言っても、周囲に笑われるばかりだったという。

この講演会は少し変わった趣向が凝らされていた。ホロウェイが話すだけでなく、会場の灘校生たちへさまざまな質問をしていたのだ。まずホロウェイは、自身とは対称的に恵まれた環境にいる灘校生たちに「みんなは周囲から反対されたことある?」と問いかけた。

講演会の様子

ここで口火を切ったのは、ヒップホップアーティストを志しているという灘校生。東大に行くのではなくヒップホップをやるというので、当然ながら周囲から反対を受けているのだそう。

「逆境で自分のやりたいことをやっていくためにどういうステップを踏む?」という問いに対して、ホロウェイの答えは「まずは自分を信じること。今はSNSなどでスーパーネガティブな声を見かけて、影響を受けてしまうと思う。そういう状況では大切な仲間を作ることが一番の力になる」とアドバイス。

さらにホロウェイはこう語る。「自分にとって家族やトレーナーたちはとても大切な存在。僕は今も故郷ワイアナエに住みながら、ホノルルの町道場でトレーニングしていて、地域のコミュニティにも支えられ続けている。早くゴールにたどり着くには一人でやればいいけど、遠くまでたどり着くには仲間が絶対に必要だ」。

周囲から反対されるようなことにチャレンジするなら、孤独に頑張るのではなく仲間をつくり、お互いに支え合う関係を作ること。一見シンプルなことに思えるが、ホロウェイの言葉には世界王者ならではの説得力がある。

マックス・ホロウェイ

さらにホロウェイは会場に向けて「みんなは過酷な受験戦争をどうやって勝ち抜いたんだ?」と問いかけた。

ここで発言したのは灘校OBの医大生。「自分は成績が良くなく志望校を下げたほうがいいと言われていたが、『俺は絶対に受かる』の一心で勉強を続け、阪大医学部の合格を勝ち取った」と言う。

このエピソードに対しホロウェイの感想は、まず「Awesome!(最高だぜ!)」の一言。受験に関しても「ゴールを設定して、叩きのめすのが一番だと思う」と、格闘家らしい表現でレスポンスしていた。

近年はプロゲーマーとしても活躍し始めたホロウェイ。コロナで試合ができなくなったことを機にネット対戦を始め、そこから瞬く間にプロゲーマーにまでなった。その際には、格闘で鍛えた「闘争心」が非常に役に立ったという。今も毎日、トレーニングとともにゲームプレイにも打ち込んでいる。

僕はパートタイムのファイターで、フルタイムのゲーマーだよ(笑)」と茶目っ気たっぷりに語っていた。

「出る杭を打つ日本社会」でどう闘う!?

マックス・ホロウェイ

続いて、ホロウェイは「みんなは何になりたい?」と問いかける。

灘校生の一人からはこんな発言が。「僕は有名な家に生まれ育ちました。だけど家の名前を背負うのではなく、自分の名前を作り上げていきたい」。まだ10代ながら、非常に勇敢な発言だ。

ホロウェイは「日本では、他人からこうなれと言われることが多いと聞いた」。まさにその通りだが、そんなときどうすればいいかというと、「自分の人生がハッピーになることが一番大切だから、いいチームを組んで、自分の好きなことをやるのがいい」というアドバイス。

そしてホロウェイは、「世界で活躍するための3つの原則」を教えてくれた。

  1. 強いマインド
  2. 強い(健康的な)肉体
  3. セルフディフェンス(世界は治安が悪い)

講演会の様子

「今はSNSなどで、見えないところからアタックしてくる人が多い。だから強いマインドがあることが一番大事だと思う。もちろん強いカラダも大事だから、家にずっといるんじゃなくて、外に行って草を触ったり、歩いたり走ったりしよう。それと、日本はアメリカと違って治安がいいけれど、自分を守ること、そのためのマインドと肉体の強さが必要だよね

残念ながら、自分は姿を見せないままSNS上で他人のチャレンジに口を挟むユーザーは決して少なくない。(自分のことを真剣に考えてくれる人を除き)外野からの声に惑わされないためには、強いマインド、強い身体が必要だと説く。

強くなければ、自分も仲間も守れない。ココロと一緒に、カラダも強くしていかなきゃいけない。

好きなことを仕事にする秘訣は?

マックス・ホロウェイ

講演の後半では「好きなことを仕事にする秘訣は?」というテーマに突入。ホロウェイの答えは、「チャレンジしないと負け犬だ、チャレンジしたらその時点で勝ち組だと、自分のなかでマインドセットしよう」。

チャレンジしたあとの結果が成功か失敗かなんて、誰にもわからない。「チャレンジした時点で自分はOKだ」と考えるようにしてみると、チャレンジしやすい心理状態が作れるという。チャレンジしたあとの「他人からジャッジされる結果」ではなく、まず「チャレンジしたかどうか」に基準を置こう。

そして会場からの最後の質問は、「目標の立て方で意識していることは?」という問いだった。

ホロウェイは「ショート・タームでゴールを積み重ねていくことだ」と語る。いきなり高い目標を掲げるのではなく、まずは無理のない範囲で小さな達成を積み重ねていき、ロング・タームでの目標を達成していく。

筋トレでもランニングでも同じかもしれない。いきなり大きな目標を掲げるのではなく、まずは無理せずに達成できる目標をスモールステップで達成していく。そのうちに大きな目標に至ることができる。

講演会の様子

講演の最後にはプロサーファーである奥様も登場(左から2人目)。ホロウェイや仲間たちも一緒にサーフィンを楽しみ、自然のなかでアクティビティをしているという。家族、ハワイのカルチャー、コミュニティを大事にしている姿勢もクールだ!

講演終了後、格闘技には詳しくないが今日の講演会に来てみたという生徒に感想を聞くと、「ホロウェイ選手は自信を持って努力を続けてきたことがオーラから溢れ出ていて、本当にカッコいいなと思いました。自分は恵まれた環境で育っていますけど、その環境を生かした上で仲間を頼り、お互いを刺激し合いながら、自分なりの夢を叶えていきたいです」と語ってくれた。

さらに自分でもキックボクシングをやっているという別の灘校生は、「勉強だけを頑張るのではなく、自分の好きなことに正直に、自分が本当は何をしたいのかを考えて、それを一つひとつ頑張る人生を送りたい」と感想を語った。ホロウェイの言葉や存在感に、大いに刺激を受けていたようだ。

講演会の様子

最後は灘校生だけでなく、運営に携わった灘校OB、そして地域住民の方や格闘技ファンも交えて記念撮影。灘校は男子校だけど、こういうときは当然男女なんて関係ない。格闘技という激しい競技がテーマでありつつ、会場には終始ピースフルな雰囲気が流れていた。

ホロウェイ選手にインタビュー。「自信を持つ」とはどういうことか?

マックス・ホロウェイ

——灘校という日本のトップエリート校で講演をしようと思ったのはなぜでしょう?

僕のような貧しい家庭出身の格闘家と、灘校の生徒たちは真逆の環境かもしれない。でも、みんな戦っているものは一緒。違う道を歩んでいる人たちをインスパイアできたらいいし、自分も学べて、みんなにも学んでもらえればと思ったんだ。

——灘校生とコミュニケーションを取ってみてどう感じましたか?

ヒップホップを志しているという彼には「周囲に反対されてもやる勇気」を感じたよ。それと、「家の名前を自分の名前で上回りたい」と語った彼にも、すごくインスパイアされた。

僕の故郷であるワイアナエは、ハワイでは治安が悪いってことで有名なんだ。でもその評判を、自分の名前で塗り替えていきたいと改めて思ったよ。

——マックス・ホロウェイはハワイから出ずに世界王者になりました。地元の町道場でトレーニングを続けていたりと、ローカルのコミュニティをとても大切にしています。

ワイアナエは悪いことをしてきたコミュニティなんだけど、いいヤツもちゃんといて、そういう人たちをフックアップしていくことを、スモールステップでやっていきたいと思ってるよ。

——嘉納治五郎先生が作った言葉で、灘校の校是であり講道館柔道の指針でもある「精力善用、自他共栄(精神と身体の力を最大限に高め有効活用し、自分だけでなく誰かのためになることをしよう)」と、ホロウェイさんの語った「世界で活躍するための3つの原則」には、とても響き合うものを感じました。

灘校道場

講演が行われた灘校道場には、嘉納治五郎直筆の「精力善用」「自他共栄」の書が飾られている。

精神と身体は同じように作動しなきゃいけないと思う。ただ、僕は精神=マインドの方が大事だと思うんだ。ストロング・マインド(強い精神)がフィジカルにつながっていく。

人間のカラダ全体に張り巡らされているのが神経で、脳から神経に電気信号が送られて、カラダを動かしているわけだよね。神経=マインドだから、まずはマインドが一番大事だね。

——今日の講演では「自信を持つこと」の重要性を何度も強調していました。これは世間でよく言われていることではありますが、実は自分も含め多くの人間は、その本当の意味を理解していないのかもしれないな?と感じました。

僕のニックネームは「ブレスト(Blessed=神の祝福を受けた、という意味)」。リングに上ったら「ブレストになりきる」ってことがめちゃくちゃ大事だと思ってる。だけど、みんなは「なりきる」ってことに、どこかで中途半端になっちゃってると思うんだ。

――かなり強いマインドセットが必要なんですね。「強い意志を持って自信を持つ」と。

そうだね。自信を持つということには、ストロング・マインドが絶対に必要だよ!


最後にマックス・ホロウェイは、我々取材陣にも笑顔で握手を求めてくれた。「一緒にがんばっていこう!」という勇気づけのメッセージが込められていたように思う。「ストロング・マインドで、自信を持つ」。同語反復のようでいて、とても大事なことだと感じる。

格闘技という激しい競技を経験してきたからこそ伝えられる強さと優しさ。仲間、家族、地元のコミュニティやカルチャーを大切に思う「自他共栄」の精神…。格闘技という文化ならではのエネルギーを感じた講演会だった。

取材・文/中野慧 撮影/吉村規子

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