脚の血管がボコボコと膨らむ下肢静脈瘤
若い時は目立たなかった脚の血管が、年とともに青く透けて見え始めたり、ボコボコと膨らんで蛇行したり。中高年の脚にしばしば見られるこうした異常が下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)。
下肢静脈瘤の脚に起きていること
見た目で不安をかき立てられるが、急いで対応を迫られるほどの痛み、不快を伴うことが少ないため、つい放置されがちになる。
自分の脚をじっくりと見る機会は意外と少なく、外見の変化に気付かないままにだるい、疲れやすいなど脚の軽い不調から始まっている場合もある。下記のセルフチェックを行ってみよう。
こんな変化があったら要注意
- 夕方になると脚が疲れ、重だるくなる
- 脚がむくんでいる
- 寝ているときに脚がつることがよくある
- 脚がほてる
- 脚に湿疹やかゆみがあり、
- なかなか治らない
- 脚にしみや色素沈着が目立つ
- 脚の皮膚が硬くなっている
- 脚の血管が浮き出している
- 脚にクモの巣状に細い血管が見える
- 近親者に下肢静脈瘤の人がいる
上記のような自覚症状が2個以上あれば下肢静脈瘤の可能性がある。4個以上の人は血管外科(または心臓血管外科)を受診するのがお勧めだ。
いったんできた下肢静脈瘤は自然治癒することはなく、高齢化も影響して、昨今、患者はじりじりと増え続けている。
50代以降は6割が下肢静脈瘤あり
下肢静脈瘤が疑われる人の性年代構成比
加齢の影響で静脈に何が起こる?
血管といえば、何度となく至言「人は血管とともに老いる」を耳にしてきたことだろう。だが、これは一般的に動脈硬化への警鐘。静脈は動脈のように加齢に伴って硬化はしない。
では、加齢に伴い静脈に何が起こるのか?
心臓の拍動によって力強く押し出される動脈血とは異なり、静脈血は勢いが穏やかで、静脈圧は動脈圧よりもずっと低い。
心臓の駆動力はほとんど及ばず、重力に逆らって静脈血が足先から心臓に戻るには、脚の筋肉が収縮して血管を圧迫し、押し上げたり、呼吸による胸郭内の圧変化などの助けもいる。
また、静脈内部には逆流を防ぐ弁がある。こうした仕組みと働きがあればこそ、静脈血は心臓に戻れるのだ。
ところが、立ち仕事や座ったままの作業、あるいは運動不足が続くと脚の筋肉が働く機会が減り、静脈血の還流が悪くなる。脚の静脈に血液が溜まりがちになると、やがて逆流防止弁が壊れる。
動脈と違い、静脈には逆流防止弁がある
1か所弁が壊れると、逆流してくる静脈血によって下の弁に負担がかかり、連鎖反応的に下に向かって弁が壊れていく。
脚の静脈は深いところを通る深部静脈と、皮膚の下の浅いところを通る表在静脈からなる。このうち表在静脈にトラブルが起こったのが下肢静脈瘤。浅いところに起こるので、まず見た目の変化が目立ち、その後に不快な症状が顔を出す。
症状が似た危険な病気に注意
血管の病気と聞くと、血栓が脳や心臓、肺に飛んだり、突然死を招くのでは?と恐れたり、治療が遅れると下肢切断になるのでは?などの不安を訴える人がいる。
だが、血栓や下肢切断は他の血管の病気の話であり、下肢静脈瘤にそのような恐れはない。
ただし、症状がよく似た病気は多数ある。たとえば脚のむくみは下肢静脈瘤だけでなく心臓や腎臓の病気でも起こるし、こむら返りは脊柱管狭窄症や加齢でも起こる。症状が急に出た場合は、早めに医療機関を受診した方がいいだろう。
下肢静脈瘤と似た症状の病気はこんなに!
症状が苦痛なら手術も選択肢に
下肢静脈瘤と診断がつき、軽症~中等症なら、まずは弾性ストッキングや運動療法などの保存的治療で一定の効果が期待できる。
弾性ストッキングは脚を締めつけ、静脈血の還流を助ける設計となっている。市販品と医療用があり、効果の高い医療用は医療機関でしか扱っていない。担当医と相談して、症状に合うものを選ぼう。
こうした保存的治療では十分に症状が改善しなかったり、弾性ストッキングを一日中ずっと穿くのはつらい場合に、初めて手術が選択肢となる。つまり、すべての下肢静脈瘤の患者に、手術が第一選択肢“ではない”のだ。
受診の際に、手術ありきで治療方針の説明を受けたら、その場で受け入れてしまうことなく、他の専門医によるセカンドオピニオンも受けておくといいだろう。
現在、手術は大きく分けて①ストリッピング手術、②血管内焼灼治療、③接着材による血管内塞栓治療の3種類がある。どの手術でも逆流していた血流はなくなり、静脈血の運搬は他の正常な静脈に任せることになる。それだけの余裕が、下肢の静脈にはある。
いずれの手術も保険診療で日帰り手術が可能だが、患者のカラダへの負担は①から③の順番で軽くなっていく。現在の標準的な治療は、患部の静脈をレーザーや高周波で焼いて塞ぐ血管内焼灼治療だ。
保険適用後、レーザーや高周波による血管内焼灼治療に人気が集中
現代人の脚に下肢静脈瘤が増えている背後には、明らかに運動不足があるだろう。
保存的治療で推奨されるような運動は症状の改善のみならず、健康の維持にも役に立つ。まずは立ったまま、座ったままの生活習慣を見直し、日々せっせと四肢を動かそう。
午後~夕方に悪化する下肢のむくみ予防にも
軽度~中程度の静脈瘤はセルフケアにより改善し、習慣化すれば予防にもつながる。淀みがちな静脈血を心臓に戻すには逆立ちが手っ取り早いが、できる場面は限られる。
着席しての仕事中なら、背を椅子に預け、左右の足で交互に逆回転エアペダリングがお勧め。膝を胸元まで上げたら、踵からゆっくり着地。左右5回ずつを3セット。膝などに痛みがあるときはNG。
人目を気にしなくて済む環境なら、仰向けメニューは血液が心臓に帰りやすい。両手足を天井に垂直に突き出し、緩めた手先、足先をぷるぷる揺する。60秒を1日3回。