過去に罹った水ぼうそうが原因
ある日、微かな痛みが皮膚に出現し、数日後にはそこに疱疹(水ぶくれ)ができ、ずきずき、ピリピリと痛み始める。よく見ると疱疹は帯状に広がり始めている。皮膚科を受診すると、下された病名は帯状疱疹。見たままの病名である。これがいま増えている。
犯人はわかっていて、過去に罹った水痘(水ぼうそう)のウイルスだ。このウイルスは神経細胞に対する親和性が強く、一度水痘に罹るといろいろな部位の神経細胞中に潜んで生活する。
宿主の免疫が正常に働いていれば常時これらを監視し、増殖を抑えているが、長い時を経て加齢による免疫の低下、疲労、抗がん剤や免疫抑制剤による治療などを契機に神経線維内で増殖すると、帯状疱疹として発症する。
下記の図で示したように、神経は体内に広く分布する。神経に感染したウイルスは、その神経が支配する(体幹だと帯状に)領域内の皮膚に疱疹を作る。通常、疱疹はカラダの左右どちらかにだけ現れるのが特徴だ。
水痘は約80%の小児が罹っている
この水痘は5歳までに約80%の小児が罹る。本人に記憶がなくても、検査を受ければ抗体が確認でき、感染していたことがわかる。成人になると抗体保有率は優に90%を超える。
つまり、帯状疱疹の原因ウイルスをほとんどの人はカラダのどこかに持っている。だから、いつ誰が発症しても不思議ではない!
発症箇所は皮膚だけとは限らない。視神経に感染すれば視力障害を起こしかねないし、聴覚の神経が侵されれば難聴、耳鳴り、めまいの呼び水にもなる。運が悪いと髄膜炎や脳炎さえ惹き起こす。
皮膚に疱疹が見えたら迷うことなく受診しよう。
再活性化したウイルスは急激に数を増やす。神経細胞から血中、表皮にさまよい出たウイルスは抗ウイルス薬で攻撃できるが、治療開始が遅れれば薬効も十分には及ばなくなる可能性がある。その場合、投薬治療が長期化することもある。
このように発疹が出たら3日以内に皮膚科へ!
三叉神経の支配下にある瞼、頰、顎は好発部位。額から瞼の発疹が悪化すると、目を開けられなくなることも。上記の他にも喉の痛みや頭痛、下腹では便秘や尿閉から始まることもあるし、腕、臀部、太腿に初期症状が出ることもある
治ってもつらい後遺症、帯状疱疹後神経痛
そして、受診を急ぐべき理由がもう一つ。治療開始が遅れると、回復後にしつこい痛みが残る帯状疱疹後神経痛を抱え込む可能性が高くなるのだ。帯状疱疹のウイルスは神経を破壊しながら増殖するから、皮膚の症状が消えた後も、障害された神経は痛みの信号を発し続けてしまう。
しかも、それがなかなかの長期間であるうえ、治療開始が遅れるほど疼痛を訴える患者の減りが鈍くなっていく。長患いに苦しむ人が結構いるということだ。
帯状疱疹は50代から急増するが、50歳以上の患者の50%以上が帯状疱疹後神経痛に罹るというデータもある。中高年には危険で恐ろしい病気の一つだ。
社会の高齢化が患者数増の原因か?
ここで最初のグラフを再度見てほしい。
実は日本では2014年10月、生後12~36か月の小児を対象に水痘ワクチンを定期接種化した。その結果、接種を受けた小児の感染は減ったが、子育て世代にあたる20~40代では少し増えてしまっている。
これは感染した小児の世話をする機会が減り、大人たち自身が持つ水痘ウイルスに対する免疫を刺激されにくくなり、ブースター効果が減って感染が増えたと考える研究者もいる。
ただし、これは抗体価だけで感染しやすさを評価する考え方。抗体の他にも各種リンパ球やNK細胞などの免疫細胞も大いに関与している。
まして、グラフを見る限り、どちらかといえばより大きく増えているのは60代以降だ。社会全体の極度の高齢化と加齢による免疫力全体の低下の方が、より多くの患者の説明になりうるだろう。
帯状疱疹予防のワクチンは?
いつの日か水痘はワクチンで克服できるかもしれない。
では、帯状疱疹は? 可能性はあるだろう。いままでも帯状疱疹予防のために生ワクチンを使用することもあった。それは小児が水痘の予防に打つ生ワクチンと同じで、弱毒化した水痘ウイルス自体を免疫原として使ったもの。ただしこれは効果と持続期間に難があった。
その不満の解消を目指したのが、ウイルスの一部を抗原として使いつつ、免疫を賦活化する成分を加えた不活化ワクチンで、効果は格段によい。生ワクチンとは異なり、ウイルスそのものではなく、ウイルスの一部のみを免疫原とするため、安全性は高い。こちらを選んだ人は間隔を2か月空けて、2回打つことになる。
帯状疱疹予防ワクチンは主に2種類
ワクチンの種類 | 水痘ワクチン(生ワクチン) | シングリックス®(不活化ワクチン) |
---|---|---|
摂取回数 | 1回 | 2回(2か月後に2回目) |
摂取方法 | 皮下注射 | 筋肉注射 |
効果の持続期間 | 3~11年程度 | 9年以上 |
接種時の痛み | 中くらい | 強め |
副反応 | 軽い疼痛など | 発赤腫脹、筋肉痛、 疲労感など |
有効性 | 発症51.3%減少 | 発症97.2%減少 |
帯状疱疹後 | 神経痛 発症66.5%減少 | 発症88.8%減少 |
禁忌 | 妊婦、免疫不全患者への接種不可 | |
費用 | 1万円程度 | 2回で計4~5万円程度 |
ワクチン接種を受けておけば、約10年は効果が続き、万一発症した場合でも帯状疱疹後神経痛になりにくいことが知られている。発症の急増する50歳以降の読者は早めにかかりつけ医に相談を!