日本でも増加傾向が続く「乾癬」
湿疹、かぶれだと思って放っていたら、皮膚の赤みは治るどころか徐々に広がる。腫れ気味の患部は少し盛り上がり始め、痛みはないものの、患者の半数がかゆみを訴える謎の多い慢性皮膚疾患が乾癬(かんせん)だ。
表皮に現れた変化=皮疹を、やがてかさぶたのようなものが覆い、ぼろぼろと剝がれ落ちる。この患部で何が起こっているのか、いまでは大体わかっている。
正常な表皮細胞の新陳代謝は、約4~6週間で古い細胞と入れ替わる。これに対し乾癬患者の表皮では、免疫異常により、わずか4~5日で角化が進むのだ。
日本人には少ない病気であり、白人に顕著に多いとされてきた。確かにこの病気の発症には偏りがある(下記の地図参照)。
日本では昭和40年ごろから患者が増え始め、現在では推定50~60万人に上り、増加傾向が続いているという。データを見る限り発症には性差も見られ、中高年男性は明らかに分が悪い。
乾癬は腸内細菌と関連するか…?
増加の時期は奇しくも日本で食の欧米化が急速に進んだ時期にほぼ一致し、この時期に炎症性腸疾患も増加し始めたことを思うと、何らかの関連を疑いたくなる。
実際にそれを裏付けるような報告は既にあり、乾癬と炎症性腸疾患では、片方に罹るともう一方にも罹りやすくなることが知られていて、両疾患の腸内細菌叢は健常者とは著しく異なるという。
どちらの疾患でも抗炎症作用を持つ(同一の)菌が減少し、大腸菌が増えているという。互いに離れた臓器でありながら、皮膚と腸には“皮膚―腸相関”とも呼ぶべき関係があるらしい。
いくつかに分類される乾癬の症状
さて、乾癬は症状によって分類される。そのうち約90%と多数が尋常性乾癬。これは皮疹を生じ、炎症を伴った未熟な角質が次々と剝がれ落ちる病態だ。
かゆさから正常な皮膚もかきむしると、そこにも皮疹を生じ(ケブネル現象という)痛々しい姿になるが接触で感染はしない。これは白血球(の一つ、好中球)の機能異常によると考えられるからだ。
全身の関節に炎症が広がるのが乾癬性関節炎(関節症性乾癬とも)。関節に痛みや腫れ、やがて変形も招く点で関節リウマチに似ているが、血液検査でリウマチとの鑑別は可能だ。関節リウマチと同じく放置は関節の変形を招き治療が困難になることもある。関節に違和感が続くなら受診を急ごう。
皮膚の赤変が全身に広がるのが乾癬性紅皮症。乾癬患者のせいぜい1%ほどだが、紅斑(赤変した部分)が皮膚の8~9割を超し、体温調節など皮膚の機能を損なうと、生命を危険にさらすことにも。
他にも溶連菌感染症後に小さな皮疹が全身に現れる滴状乾癬や、皮疹に膿の溜まる膿疱性乾癬なども知られているが、乾癬性紅皮症と同じく数は少ない。
乾癬の治療法にはどんなものがある?
外来での治療では炎症を抑えるためステロイド外用薬が昔から多く処方されてきた。近年は副作用を軽減する目的でビタミンD₃との合剤を使うことも多い。
過剰な免疫反応を抑え、症状の緩和に役立つ紫外線は、光線療法に使用されてきた。免疫抑制薬も広く使われてきたが、最近は副作用の少ないPDE4阻害薬(内服)を採用する場面が増えている。
生物学的製剤には皮疹が体表の10%以上に及ぶなどの適用基準があるほか、基本的に使用は日本皮膚科学会が承認した病院やクリニックに限られる(一部、在宅での自己注射も)。詳しくは日本皮膚科学会ホームページで確認を。
治療の選択肢は症状次第で
病気が病気を連れてくる悪循環
乾癬に対する治療法は、このように選択肢が広がり、格段の進歩を遂げた。だが、乾癬患者の約40%が肥満・過体重で、約25%がメタボリックシンドロームだという報告もある。
肥大した脂肪組織が炎症性サイトカイン(生理活性物質)を分泌しているのは知られた事実。これが既に炎症を起こしている皮疹の症状を悪化させ、皮疹からの炎症性サイトカインのさらなる分泌増を招き、出口のない悪循環に陥っている患者は少なくない。
最終的には致命的な心疾患さえ招きかねないこの負の連鎖を専門医、研究者たちは“乾癬マーチ”と呼び、警戒している。
数々の危険な合併症を抱え込みがちな患者の予後を左右するカギは、やはり食事だ。ともすれば動物性飽和脂肪酸過多に傾きがちな高脂肪食を問題視する指摘は根強い。脂質異常症の放置が乾癬の悪化を招くことは早くから知られてきたからだ。
その一因となりうる高脂肪食は脳への刺激が強く、依存性の強いことも報告されている。もう一度、前述の世界地図を見て、きょうの食卓に思いをはせよう。