酔っても家に帰れるのはなぜ? 酒にまつわる素朴な疑問 part2
巷に溢れる都市伝説や、知っているようで知らないアルコールとカラダの関係など、酒にまつわるあんな疑問、こんな疑問に答えます。Part2では、酒席の小噺にももってこいの飲み方、酔い方にまつわる雑学、豆知識をご紹介。
取材・文/門上奈央 取材協力/吉本尚(筑波大学准教授)、葉石かおり(酒ジャーナリスト) 参考文献/『名医が教える飲酒の科学』
初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売
目次
① 飲み過ぎた後、悪酔いを防ぐには?
「残念ながら体内に入った後にどうにかするのは難しいです」とは、筑波大学の吉本尚先生。
「よくサウナなどで汗をかいて抜くといわれますが、脱水状態で入るのは危険。結局アルコールを分解し終えるまで待つのみです。
たまに“寝ると酔いが覚める”という人もいますが、実際は起きている方が肝臓の分解速度は速い。翌日に差し支えるのでおすすめはできませんが」
やはり大事なのは基本。
「お酒と一緒に水を飲むこと。冷えが気になるなら氷抜きにし、外飲みで水のおかわりを頼むのは気が引けるなら、水を持参して店員さんに“チェイサー置いててもいいですか?”と確認すれば、断られることは少ないはず」(酒ジャーナリストの葉石かおりさん)
② 笑い上戸や泣き上戸など、酔い方のクセは遺伝?
酔っぱらった時の表現はそれぞれだが、その人お決まりのパターンがあるような。
「親子で違うケースも散見されるので遺伝ではないかと」(吉本先生)
結局、その人の内なる感情が昂った結果にすぎない。
「ただ感情の起伏には、多くの人に共通する傾向があります。飲み始めてしばらくは交感神経が優位で“元気”になりますが、ある段階まで来ると徐々に働きが鈍り、グチが出たり泣いたり寝たりする。その出方はおそらく個性です」
③ 依存症かどうかの見極めは?
「お酒が好き」、この想いが健全かどうか分からなくなることも。
「例えば家のお酒のストックが切れたとしましょう。その時に、お酒がなくて夜をどう過ごせばいいか分からない…と途方に暮れるだけならば特に問題はないレベル。
しかし前から休肝日と決めていたのに我慢できなくて飲んだり、ストックがないのが不安でどうしようもなくなって買いに行ってしまうレベルだと、アルコール外来では“依存しつつある”と判断します」(吉本先生)
④ 酒の力を借りて寝るのはよくない?
寝付けない夜、お酒の力を借りて意識を失うように眠る。これが寝酒。
「“ナイトキャップ”と英語圏では呼ばれますが、睡眠手段としてお酒を活用するケースの多さは他国にはなく、日本特有の傾向といえます。
睡眠薬に比べれば自分でコントロールしやすいという考えがあるかもしれませんが、実際、飲酒は睡眠の質を下げる行為なのでやはり推奨できません」(吉本先生)
⑤ アルコールを主食とする部族がいる?
お酒を主食とする稀有な民族がいる。
エチオピア南部のデラシェだ。『醸造協会誌』によれば、彼らの主食「パルショータ」はモロコシとトウモロコシの粉末にモリンガなどの葉の乾燥粉末を加えて乳酸発酵させた醸造酒。
彼らは朝と夜に穀物粉「ハラワタ」の茹で団子を食べる以外はパルショータで栄養補給。度数が低いこともあり毎日3~5時間、一家揃って飲むそうだ。
⑥ 酔っていても家に帰れる理由は?
飲み明かした翌日、どんな会話をしたか、ちゃんと会計したかの記憶は曖昧なのに、なぜか家には無事帰れている。
「記憶には短期記憶と長期記憶の2種類あり、家の所在地は長期記憶として脳に長く留まっているので、酔っぱらっていても帰宅できるのです」(葉石さん)。
短期記憶が長期記憶になるには、インプットとアウトプットの反復が必要になる。
「あるいは家に帰る時点ではそれほどアルコールが回っておらず、帰宅後に酔いが回り、どうやって帰宅したかを思い出せないだけという可能性もあります」(吉本先生)
旅先や出張先では、宿泊先は長期記憶として定着していない可能性も高いので、路頭に迷いかねない。見知らぬ地での飲み過ぎに注意。
⑦ グラスを合わせて「乾杯!」いつから?
そもそも乾杯の起源は古代エジプトの宗教的な儀式に由来。日本での普及は諸説あるが、幕末の1854年、日英和親条約の締結のためイギリスから派遣されたエルギン伯爵が伝えたという。
明治には軍隊などに浸透したが、当時は「バンザイ!」と言ったそう。
グラスを合わせて音を立てることの起源についても諸説あるが、杯の中に注がれた液体に毒が混入していないことを確認するため、互いの酒が混じり合うくらい勢いよくぶつけたという。
⑧ 世界で最も度数が高いお酒は?
ポーランドのウォッカ《スピリタス》は96度超えで世界一。
コロナになって間もない頃に水で薄めて消毒液代わりに使うのがネットで話題になったのも記憶に新しい。さて、シングル1杯(30mL)で純アルコール量は約23gと驚異の強さ。
2位はアメリカの《エバークリア》95度、3位はイタリアの《ゴッチェ・インペリアル》92度。ちなみに国内で最も度数が高いのは与那国島の泡盛《どなん花酒60度》。かつて琉球王朝に献上された銘酒。