摘出すると免疫力が下がる。縁の下の力持ち「脾臓」の活動
普段は気に留めることのない臓器の数々。けれど我々のカラダでは、こうした“マイナー”な存在の臓器たちが地下アイドルのごとく地道な活動を続け、日々の健康を支えてくれている。そこで、今回は赤組と白組に分かれて赤血球の処理と免疫の働きを担う「脾臓」にフォーカスし、その驚くべき機能や働きをフィーチャー。
取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/室木おすし
初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売
教えてくれた人
山本健人さん(やまもと・たけひと)/京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter「外科医けいゆう」で情報発信。16万部ベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)ほか著書多数。
目次
日々の健康を支えるマイナー臓器達
若さと元気があれば、普段は気に留めることのない臓器の数々。けれど我々のカラダでは、こうした“マイナー”な存在の臓器たちが地下アイドルのごとく地道な活動を続け、日々の健康を支えてくれている。
今回は、消化に関わる「膵臓」のキャラにフォーカスし、その驚くべき機能や働きをフィーチャー。加齢や病気にも負けないアイドルでいるため、気をつけたいポイントにも迫る。
赤組と白組に分かれて赤血球の処理と免疫の働きを担う、縁の下の力持ち「脾臓」
基本情報
- 長さ約12cm
- 幅約7cm
- 厚さ約4cm
- 重さ100~130g
- 膵臓の先に接する
腹の左側上部で、やや背中寄りにスタンバイするのが脾臓。
薄い握りこぶしのようなサイズ感で、膵臓の先端(膵尾)に帽子のようにくっついている。ただし機能的にはまったくの別物で、脾臓は独自路線をマイペースに突き進むアイドルなのである。
その売りは、赤組(赤脾髄)と白組(白脾髄)に分かれたファンクショナルな構造。血液が絶えずたっぷりと流れ、古い赤血球を壊す血液の処理工場として、また免疫の場としてリンパ球の抗体づくりを促すなど、八面六臂の活躍を見せている。
血液を溜めて古い赤血球を処理する、地道な戦略家
紅白グループに分かれる脾臓の組織のなかでも、大半を占めるのが「赤脾髄」という部分。血液を濾過することで、不要な物質を取り除く役割を持つ。
赤組のなかでも特に大きなミッションが、古くなったり、傷ついたりして正常に機能しなくなった赤血球を処理すること。血液が赤脾髄内の細い動脈を通過する際に赤血球の状態をチェックし、不要なものを壊したり、白血球の一種であるマクロファージを使って処分したりする。
しかも赤脾髄は、断捨離後の連携プレーもぬかりない。処理した赤血球をその後、門脈を経由して肝臓に送り、これが肝臓内でビリルビンに合成されて、胆汁の色素成分に変身するのだ。
摘出しても生きてはいけるが免疫力はダダ下がりに
脾髄のもう一角をなす白組の正体は、リンパ組織で構成される白脾髄という組織。ヒトの免疫機能に欠かせないリンパ球が常駐し、病原体に関わる情報を伝えるマクロファージや樹状細胞の働きにより、ウイルスなどの外敵に抵抗するリンパ球の抗体づくりを促すのだ。
脾臓はそのほか緊急時の造血や運動時などの酸素供給を行うこともあるが、それもあくまでリリーフ的な役割。
脾臓を摘出してもヒトは生きてはいけるのだが、長期的には免疫力が低下するため、その場合は肺炎球菌ワクチンの接種が必要となる。失ってみてそのありがたみが分かる、縁の下の力持ち的なアイドルが脾臓なのだ。