消化管ホルモンを巧みに調整。コミュ強「十二指腸」の活動

普段は気に留めることのない臓器の数々。けれど我々のカラダでは、こうした“マイナー”な存在の臓器たちが地下アイドルのごとく地道な活動を続け、日々の健康を支えてくれている。今回は消化における交通の要所で、消化器ユニットのリーダー格「十二指腸」にフォーカスし、その驚くべき機能や働きをフィーチャー。

取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/室木おすし

初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売

十二指腸
教えてくれた人

山本健人さん(やまもと・たけひと)/京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter「外科医けいゆう」で情報発信。16万部ベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)ほか著書多数。

日々の健康を支えるマイナー臓器達

若さと元気があれば、普段は気に留めることのない臓器の数々。けれど我々のカラダでは、こうした“マイナー”な存在の臓器たちが地下アイドルのごとく地道な活動を続け、日々の健康を支えてくれている。

今回は、胃と腸をつなぐ「十二指腸」のキャラにフォーカスし、その驚くべき機能や働きをフィーチャー。加齢や病気にも負けないアイドルでいるため、気をつけたいポイントにも迫る。

消化における交通の要所で消化器ユニットのリーダー格「十二指腸」

十二指腸

基本情報
  • 長さ約25cm(名前は指12本を横に並べた長さに由来)
  • C字の形で胃と小腸をつないでいる

活動エリア:日々の健康を支えるマイナー臓器の場所。十二指腸は胆嚢と膵臓に挟まれ、胆管と膵管が接続する。

十二指腸は、胃の出口からつながる消化器系アイドル。後輩の空腸・回腸とまとめて小腸と呼ばれる器官の一部だが、十二指腸ひとりが頭ひとつ抜きん出た存在だ。

十二指腸がそのタレント性をいかんなく発揮するのは、消化という名のステージ。膵臓、胆囊とともにユニット“消化3人娘”を結成し、リーダーとして胃で消化された食べ物をさらに消化する役割を担う。

その中間あたりに膵臓からつながる膵管、胆囊からつながる胆管が集合する部分があり、消化における交通の要所として働くのだ。

十二指腸

ちなみに膵管と胆管が十二指腸に接続する開口部はファーター膨大部と呼ばれ、この開け閉めは平滑筋(=横紋のない筋肉)であるオッディ括約筋が担っている。

通過する食べ物を素早く察知してこの働きをコントロールする十二指腸は、実に頼りがいのある消化器ユニットのリーダーなのだ。

センサーで3大栄養素を識別。必要なホルモンの分泌を促す

“消化3人娘”のリーダー・十二指腸は、そのときどきの状況を敏感に察知し、ふさわしい立ち回りができる気遣いの達人だ。十二指腸が消化におけるステージで披露するのは、複数の消化管ホルモン。これによってユニットメンバーとの見事な連携プレーが実現する。

その筆頭が、胃液で酸性になった食べ物が入ってくることで、十二指腸の粘膜からリリースされるセクレチン。これに触発された膵臓がアルカリ性である膵液の分泌を促し、炭水化物・タンパク質・脂質の3大栄養素を消化へと導くのだ。

さらにセクレチンは、やはり十二指腸から分泌されるホルモン・胃抑制ペプチドとともに、トゥーマッチになると粘膜の刺激にもなる胃液の分泌を抑えるように働きかける役割も持つ。

また、脂質が多い食べ物が入ってくると登場するのがコレシストキニン。これが胆囊や膵臓にエールを送ることで、両者による消化液(胆汁や膵液)のリリースが実現するのだ。

こうした十二指腸の働きは、表面の粘膜に入ってきた食べ物の情報を認識できるセンサーが存在するため。

この情報はまず全身の司令塔である脳に伝達され、続いて脳から「消化管ホルモンを分泌せよ」という指令が出されるのだ。こうしたコミュ力の高さも、十二指腸が消化ユニットを牽引するリーダーとして認められるゆえんだろう。

十二指腸潰瘍は、とっても痛い。けれど患者の数はこの30年で半数以下に

十二指腸の名を広く世に知らしめたスキャンダルといえば、十二指腸潰瘍。みぞおちの痛みや胃もたれ、胸やけ、吐き気などが代表的な症状だ。

責任感の強いそのキャラのせいか、消化というミッションから外れた空腹時、特に早朝や夜間に痛みが起きやすく、食べ物が入ってくると症状が落ち着くという。

十二指腸潰瘍を引き起こす原因と考えられるのが、先輩の消化器アイドル・胃からリリースされる胃酸。優れたセンサー機能を持つ十二指腸の粘膜だが、実はとっても薄くて繊細。

そこへ食事や生活習慣の乱れ、ストレスなどの影響が重なると、粘膜を守るバリア機能が低下する。すると強酸性の胃酸が十二指腸の壁を溶かしてしまうのだ。

そんな先輩のあおりを食らう苦労人の十二指腸だが、近年、胃潰瘍も含めた消化性潰瘍が急減中という朗報も。理由のひとつに考えられるのが、非ステロイド系消炎鎮痛薬の常用によって起きる粘膜障害のリスクに対して理解が進んだこと。

さらに、胃から十二指腸につながる出口付近の幽門部に棲息するピロリ菌の除菌が一般化したこともある。十二指腸潰瘍の原因の大部分はピロリ菌感染にあるともいわれ、これは胃がんを引き起こす最大のリスクでもある。

成人がピロリ菌検査で陽性であれば、迷うことなく除菌を。消化器系アイドルの健康を守る、近年の新しいトレンドだ。