専門医が回答。なかなか人に聞けない、抜け毛・薄毛Q＆A

Q1. 治せる薄毛と治しにくい薄毛の違いは?

抜け毛の量が増えた。髪質の変化でセットがしづらい…。加齢とともに髪のお悩みは増えていく。

「薄毛はさまざまな原因で起こります。よく知られた病気には円形脱毛症を含む自己免疫性疾患、大病によって引き起こされた体力低下時に起こる休止期脱毛、甲状腺疾患をはじめとした内分泌疾患、代謝性疾患、髪を結うことで髪が抜け続けて生えてこなくなる牽引性脱毛、外傷性脱毛などがあり、まず専門医による診断と、疾患の治療が最優先となります。

男性型脱毛症のAGAとFAGA（女性男性型脱毛症）は適切な治療を受ければ治ります。ただし自己判断はできないので、医師への相談は必須」（AGAスキンクリニック特別顧問・柳生邦良先生）

Q2. そもそも、AGAとはなに？

「徐々に髪のミニチュア化が進行するのがAGAの脱毛です。誤解されがちなのですが、毛が消えるわけではなく、通常70〜80ミクロンの太さを保つ一本の毛が30ミクロンまで痩せてしまう。うぶ毛と呼ばれるその毛は顕微鏡でないと見えません」

髪を細くする犯人は？

「主な原因は4つです。まずは、活性型男性ホルモン・ジヒドロテストステロン（以下、DHT）。テストステロンよりも10〜30倍ほど活性が高いのが特徴。

テストステロンに代謝酵素の5αリダクターゼⅡ型が作用して生成され、毛乳頭細胞の細胞質内のアンドロゲンレセプターと結合することによって、毛母の働きを弱めます。毛母の活性化が阻害されると髪の成長サイクルは5〜6年から2〜3か月に短縮。育つ前に抜けてしまいます。

2つめはレセプターの感受性。実はテストステロンの血中濃度に個人差はほぼなく、受容体が敏感であればあるほどDHTを受け止めてしまうのです。また、受容体の感受性に関しては、遺伝も主な原因のひとつ。最後は放置期間の長さです。

冒頭で“徐々に”と述べたように、髪は急に痩せ細らない。無自覚で過ごす期間が長いほど頭の上は閑散としてしまうのです」

Q3. なぜ、薄くなる部分とならない場所があるの？

おでこは広がっていくのに、側頭部と後頭部はフサフサのまま。こんなにも差があるのはなぜだろう。

「頭の部位で細胞の成り立ちが違うからです。①前頭部と頭頂部は胚の神経堤の細胞由来で、②側頭部と後頭部は胚の中胚葉由来細胞となります。

ともに代謝酵素の5αリダクターゼが分布しますが、①はAGA発症の原因となるDHTへ変化するⅡ型が多く存在するため、薄毛になりやすいのです」

Q4. 父親がツルツルだと、自分もそうなる？

「父親や父方の祖父の毛髪状態よりも母方の祖父や叔父といった男性親族の頭の状況を確認しましょう」

よく薄毛は隔世遺伝するともいわれているが、メカニズムはいかに？

「主に母から引き継ぐ遺伝子が関係しています。男性の性染色体はXYですが、成り立ちとしては父からはY染色体を、X染色体は母から譲り受けます。このX染色体の長腕に男性ホルモン受容体がX結合しています。

受容体の親和性はDHTとの結合率の高さにつながります。そのため薄毛になるか否かは母方の遺伝子が鍵を握るというわけです。ただし母方の男性親族が20〜30代でAGAを発症していたとしても、自分の薄毛が若い年齢で始まるとは限りません。この点は個人差があります」

Q5. AGAの進行を遅らせる方法はある？

Q2で薄毛はジワリと忍び寄ることが分かった。ストップ・ザ・AGAへのアプローチはあるのか？

「薄毛を自覚したらすぐにでも効果のある育毛剤を使用することですね。AGAはヘアサイクルの乱れによって、70〜80ミクロンあった毛が段階的にサイズダウンしていきます。

30ミクロンになってから始めるのと、80ミクロンの丈夫な状態で取り入れるのとでは得られる効果が違う。そして、太くなった髪を維持するためには治療の継続が重要となります」

Q6. 日常のケアで薄毛を防ぐ方法は？

「食事は一役買います。ただ、かねてよりいわれているワカメや昆布に効果はありません」

立派な一本を育む食材は何!?

「白菜、キャベツ、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜です。抗酸化作用を持つイソチオシアネート（ITC）と、DHTの働きを中和するジインドリルメタン（DIM）が含まれています。未然に抑える側面が強いので、AGAの進行が始まる前に取り入れておきましょう。ちなみにこれらはがん予防にも有効です」

Q7. AGAに効果が認められている薬とは?

現時点で薬効が承認されているのは、たったの3種。

男性ホルモンを抑制するフィナステリドとデュタステリド、髪の毛を太くするミノキシジルだ。その違いが知りたい。

「内服薬のフィナステリドとデュタステリドは、5αリダクターゼの作用を阻害してDHTの生成をセーブします。いずれもDHTの生成を60％程度に減らします。フィナステリドはⅡ型のみ、デュタステリドはⅠ・Ⅱ型に働きかけるのが相違点。

両方をブロックする点で後者が強いと思われがちですが、それは誤解です。効果を分けるのは薬との相性によります。

ミノキシジルは、毛包細胞で毛周期のサイクルを長くする効果により、短縮した成長期を長くし、細い毛が太く長く育つ機会を増やします。同剤自体には髪を濃くする効果はなく、毛包の硫酸転移酵素により、活性型の硫酸ミノキシジルに変わって初めて濃くなる効果が発揮。この酵素の活性に個人差があるのです」

Q8. 抜け毛対策にはどんな方法が?

「ドラッグストアなどで購入できる育毛剤にも効果はあります。市販で流通している主成分はミノキシジルで、正常なヘアサイクルに戻して髪を太くします」

本格的な治療ならクリニックへ。

「クリニックではミノキシジルの注射や、上述のフィナステリドやデュタステリドといった内服薬も処方ができます。

さらには、赤色LEDを浴びる方法も。赤色の光は600〜800ナノメートルと波長が長く、頭皮の奥まで到達し、毛包の毛乳頭細胞を刺激して成長因子を放出するため髪の成長が誘発されます。薬での治療が難しい人におすすめです」

もちろん、ウィッグ、パウダーなどでカムフラージュするのもあり。予算や好みで手立てを講じよう。

Q9. 女性の薄毛、脱毛も治療法は同じ？

「FAGA（女性男性型脱毛症）は中央部の分け目から薄毛が広がっていくのが特徴。ただし、生え際は残る場合が多い。なぜなら、前髪周辺は男性ホルモンを女性ホルモンへ転換する酵素（アロマターゼ）が多く、DHTを生成しづらいんです」

抜け方は違っても、処方する薬は同じなのだろうか。

「少し違います。フィナステリドは妊娠初期や妊娠が可能なタイミングで使用できないため、禁忌です。主にミノキシジルで治療することが多いですが、妊娠中や授乳中の使用は胎児や新生児への影響を鑑みて、控えましょう。そもそもこの期間はホルモンバランスの影響で髪が濃くなるので育毛剤は不要となります」

Q10. 確実に毛を増やす植毛が気になる。どんな感じ？

薄毛治療の最後の砦は植毛だ。髪はどこから持ってくるの？

「後頭部です。毛根を一つずつ採取して薄毛部分の頭皮に移します。場所を変えても毛は生え、しかもそれが生涯続くので、薄毛とは決別できます。自己組織なので拒絶反応もありません。ちなみに髭も植毛ドナーに使用できます」

移植の方法は？

「毛根の組織をくりぬくFUE法と、頭皮を切り取って移植するFUT法の2つの手法があります。生涯で採取できる組織の総量はFUE法の方が多いです。ただ、いずれも傷痕は残ります」

「そして、フサフサヘアを実現するには同じ部分に2〜3回植毛する必要があります。さらに、毛根が途中で切断されると移植しても毛は生えない。執刀医の腕による仕上がりの差も大きいのでクリニック選びは慎重に。車1台分の予算を見積もっておきましょう」