痩せたいなら「タンパク質を増やすべき」6つの理由
タンパク質=筋トレ好きが摂るべき栄養素というのは誤解。粗食で我慢してタンパク質が足りないと太りやすくなる。つまり、ダイエッターもタンパク質をリッチにするべきなのだ。リッチ・タンパク質で、お腹いっぱい食べても痩せる理由を解説。
取材・文/井上健二 撮影/藤本和典 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/岩崎真宏(日本栄養コンシェルジュ協会代表理事、管理栄養士)
初出『Tarzan』No.841・2022年9月8日発売
目次
理由① 体重1kg当たり1.2~1.6gのタンパク質で筋肉減少を防ぐ
タンパク質を増やしてリッチにするいちばんのメリットは、筋肉がラクにキープできること。筋肉は、水分を除くと、ほぼタンパク質。筋肉のタンパク質は、分解と合成を繰り返しており、タンパク質が減ると分解が合成を上回り、筋肉が削れる。
筋肉(正確には除脂肪体重)が1kg減ると、代謝が1日約28.5キロカロリー下がる。机上の計算だが、それだけで1年に1.4kgも太るのだ。
では、どの程度摂ればいいのか。筋肉量は体重に比例するので、筋肉を落とさないためのタンパク質の1日の摂取目安量は、体重1kg当たりで考えることが多い。
「安静時なら、筋肉の維持には、タンパク質は体重1kg当たり最低0.6gでOK。でも、活発に活動して筋肉を使う働き盛り世代は、上乗せして体重1kg当たり1.2~1.6gを目指しましょう」(管理栄養士の岩崎真宏さん)
具体的には、標準体型の男性なら1日75~100g、同じく女性なら67~90gが基準となる。
大事なのは、タンパク質は一度にまとめて摂らず、3食+間食で分割して摂ること。一度に40g以上のタンパク質を摂っても、筋肉などに代謝されにくい。1食25~30gを目標に摂るのがお薦めだ。
理由② タンパク質はDITがもっとも高い
「DIT」という言葉を知っていたら、なかなかのダイエット通。
DIT(Diet Induced Thermogenesis)は、日本語で「食事誘発性熱産生」。食事をするだけで、エネルギー代謝量が増える現象だ。
日本人が1日に消費しているエネルギーのうち、DITは約10%を占める。通勤や家事といった生活活動によるエネルギー代謝は全体の約30%だから、その3分の1に匹敵するのである。
ただ、DITという言葉は知っていても、それが糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素で異なると分かっている人は少数派かも。
3大栄養素では消化吸収のプロセスが異なるため、DITにも違いがある。いちばん低いのは脂質で約4%。次に高いのは糖質で約6%。そしてDITがもっとも高いのはタンパク質であり、その割合は30%にも達する。
つまり、摂ったタンパク質は、70%しかカロリーに変わらないのである。DITが約10%とされるのは、日本人が糖質でカロリーの60%前後、脂質で25%ほどを摂っており、タンパク質からの摂取は15%程度に留まっているからである。
タンパク質の摂取を増やすほど、食事全体のDITはアップ。エネルギー代謝が上がり、痩せやすい。
理由③ 消化管ホルモンで食欲を抑えてくれる
肉類や魚介類のように、タンパク質がリッチな食事をすると腹持ちがよく、過食が未然に防げる。その背景にあるのは、摂った栄養素に応じて小腸などから分泌される消化管ホルモン。
タンパク質が分解されたアミノ酸に反応するのは、小腸下部にあるL細胞。L細胞が分泌するPYYは、食欲を抑える作用がある。そしてPYYは自律神経の一種である迷走神経を介し、脳に「タンパク質(アミノ酸)が摂れた!」というシグナルを伝えている。
肉類や魚介類のようなタンパク源には、脂質も含まれる。脂質を構成する脂肪酸に反応するのは、小腸上部にあるI細胞。脂肪酸のなかでも、とくに肉や魚に多い長鎖脂肪酸で強く刺激される。I細胞が分泌するCCKも、食欲を抑制すると同時に、「脂質が摂れた!」という情報を脳に伝達する。
アミノ酸にも、長鎖脂肪酸にも、合成できない必須アミノ酸、必須脂肪酸がある。PYYやCCKは、合成できない栄養素が無事に摂れたことを脳に伝え、摂食量と栄養バランスを整えているのだ。
タンパク質も脂質も足りない食事だと、PYYもCCKも十分に分泌されないため、「まだまだ栄養が足りない!」と脳が満足できず、食べすぎる恐れがある。
理由④ 大豆タンパク質に減量効果がアリ
かつて、肉類などの動物性タンパク質と比べて、大豆のような植物性タンパク質の栄養価は低いと誤解されていた。でも現在では、植物性タンパク質の代表格である大豆は、体内で合成できない必須アミノ酸をバランスよく含み、その栄養的な価値は動物性タンパク質と同じだとわかっている。
そのうえ大豆タンパクには、動物性タンパク質にないメリットがある。それは大きく2点。
第一に、大豆タンパクの約20%を占めるβ-コングリシニンは、お腹の内臓脂肪や血中の中性脂肪を減らしたりする。β-コングリシニンを摂ると、ホルモンのように働くFGF21という物質が増加。体脂肪の分解や代謝促進などの効果を発揮するのだ。
2つ目は、動物性食品には含まれていない食物繊維が摂れること。とくに皮ごと食べる蒸し大豆には、水に溶ける水溶性食物繊維も、水に溶けない不溶性食物繊維も豊富。また、豆類全般は、腸内で善玉のビフィズス菌が発酵しやすいレジスタントスターチを多く含む。
豆類から食物繊維を多く摂ると、ビフィズス菌などの善玉菌が短鎖脂肪酸という代謝物を作る。この短鎖脂肪酸は、交感神経に働きかけて代謝を上げるなどして、痩せやすい環境を演出してくれるのだ。
理由⑤ 機能性ペプチドで脂質代謝が改善する
タンパク質は、小腸でアミノ酸に分解されて体内に吸収される。だが、摂ったタンパク質のすべてが、完全にアミノ酸まで分解されるわけではない。
一部は、アミノ酸がいくつか集まったペプチドという形で、体内に入ることがわかっている。アミノ酸で1個ずつ吸収するより、ペプチドでまとめて吸収した方がスピーディなのだ。
「このペプチドに多彩な機能性があり、カラダにポジティブな影響を与えることがわかっています」
機能性ペプチドには、気になる血中のコレステロールの代謝を改善するものが多い。牛乳・乳製品から摂れるラクトスタチン、大豆食品から摂れるソイスタチン、卵白由来のオボコレスチンといったペプチドである。
減量に関わるペプチドもある。大豆のβ-コングリシニンの減量作用も、β-コングリシニン由来のペプチドが一枚嚙み、脂質代謝を促していると考えられる。
また、魚に由来するイソロイシルアルギニン、アルギニルイソロイシンという魚肉ペプチドは、一時的な疲労感をセーブする。
足りないタンパク質をプロテインで補うのは手軽だが、機能性ペプチドの恩恵を受けるためには、タンパク質はできるだけ食品から摂るべきなのである。
理由⑥ 過剰なタンパク質は脂肪になりにくい
カロリーになる3大栄養素のうち、糖質や脂質とタンパク質には大きな違いがある。タンパク質の重要な役割は、筋肉や骨などを作ること。ゆえに、摂ったタンパク質はまずカラダを作るために優先的に活用される。それでも余ったアミノ酸は、エネルギーになりやすい。
深掘りすると、アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基という2つのパーツからなる。このうちアミノ基は、糖質や脂質にない「窒素(N)」を含む。アミノ基からは真っ先に窒素が切り離されてアンモニアになり、アンモニアは尿素に転換されてから排泄される。
「窒素を切り離された残りは、細胞内のミトコンドリアで代謝されてエネルギーに変わります。その際、糖質や脂質よりも、率先してエネルギーに変換されるため、タンパク質の摂りすぎが直接肥満につながる可能性は低いのです」
摂りすぎを気にせず、肉でも魚でも美味しく食べよう。