血流のためにいま「肺活」が必要なワケ
「私たちが無意識で行うのは、瞬きと呼吸だけ。無意識だから、これまで見過ごされてきましたが、呼吸こそは、血流にも血液にも大きな影響を与えているのです」(順天堂大学医学部の小林弘幸教授)
血流や血液でまず目が向くのは心臓だが、心臓が送り出した血液をリフレッシュするのは、隣接する肺。吸い込んだ酸素を血液に取り込み、不要な二酸化炭素を排出するガス交換を絶え間なく行う。
ガス交換の現場は、肺の内部を満たしている肺胞というブドウ状の組織。肺胞は多くの毛細血管で包まれており、肺胞と毛細血管の薄い壁を通し、酸素と二酸化炭素をスイッチしているのだ。
だが、加齢により機能不全に陥る肺胞が増えてくるため、ガス交換の効率は年々悪くなる。そのまま放ったらかしだと、フレッシュな酸素を含む質の高い血液をスムーズに巡らせるのは難しくなる。
そこで小林先生が提案するのが、肺の機能を高める「肺活」。無意識ゆえに、軽視されてきた呼吸にスポットを当てて、その司令塔となる肺を元気にしてやろうという話。令和は、肺活の時代なのだ。
超肺活で呼吸筋群を鍛えて、1回換気量をアップさせる
肺活の狙いは、1回の呼吸で出入りする空気の量(1回換気量)を増やすこと。1回換気量は、ペットボトル1本分の500mL前後。そのうち約150mLは、肺胞が利用できない死腔。酸素と二酸化炭素のガス交換に直接関わらない。
深呼吸をしても、死腔は減らせない。呼吸の効率化には1回換気量を増やすことが先決だ。仮に1回換気量を1000mLに倍増できたとしたら、死腔分を差し引いても1度に850mLの換気が行えるようになり、ガス交換はスムーズに進む。
1回換気量の増量に役立つのは、胸郭の活性化。胸郭は肋骨などからなり、肺を鳥かごのように覆うフレーム。肺は自ら膨らんだり、縮んだりできない。胸郭が広がると肺の容積も広がって空気が入り、胸郭が狭まると肺の容積も減って空気が出ていく。
だから、胸郭の可動域を広げてやると、1回換気量がボリュームアップ。呼吸の効率も上げられる。
「それには、胸郭を動かし呼吸を助ける13種ほどの呼吸筋群へのアプローチが有効。現代人は猫背で胸郭が閉じ気味なので、呼吸筋群が硬くなって胸郭の動きが悪くなり、1回換気量が減っているのです」
呼吸筋群を刺激して胸郭をしなやかに動かすには、下で紹介する動的ストレッチが効果的だ。
1対2の呼吸で自律神経を整えて、副交感神経で血流をアップさせる
血管と血流をコントロールしているのは、交感神経と副交感神経からなる自律神経。呼吸もまた自律神経で制御されており、肺活を行うことで自律神経が整ってくる。
「交感神経は血管を収縮、副交感神経は拡張させます。男性では30代、女性では40代から副交感神経の働きが落ちて、血管が拡張しにくくなり、全身の血流が悪くなります。私たちの研究では、息を吸った時間の2倍の時間で吐く1対2のリズムで深い呼吸を続けると、低下した副交感神経の機能が上がることがわかっています」
“1対2の原則”で肺活を行い、副交感神経を刺激して血流が良くなると、呼吸を司る肺にもプラスだ。
まず、肺胞を取り囲む毛細血管の血流量が増えるため、酸素と二酸化炭素のガス交換が効率化。血液の質はさらに良くなるのだ。
次に、胸郭まわりの呼吸筋群の血流も促されるので、これらの筋肉が働きやすくなり、1回換気量がより増大される。
また、副交感神経が優位になってくると、免疫を担う血液中のリンパ球が増えるため、免疫力が上がることも期待できそうだ。
基本の肺活トレーニング3種目
肺活の基本となる動的ストレッチはたった3つ。鼻から吸い、口から吐く呼吸を1対2の原則で行い、3カウントで吸い、6カウントで吐くようにしたい。タイミングを決め、1日2〜3セットやってみよう。
① 胸郭の動的ストレッチ(前後5往復・左右5往復)
両足を肩幅に開いてまっすぐ立つ。両腕をまっすぐ頭上に伸ばし、手首をクロスさせて、左右の手のひらを合わせる(こうすると胸郭が開いて呼吸筋群がより伸びやすい)。
鼻からゆっくり息を吸いながら、さらに腕を天井へ伸ばす。口から息を吐きながら、上体をゆっくり前に倒し、鼻から息を吸いながら元に戻る。同様に上体をゆっくり後ろに倒す。
続いて、同じように呼吸に合わせて上体を左右にゆっくり倒す。
② 肩甲骨の動的ストレッチ(10回)
両足を肩幅に開いてまっすぐ立つ。鼻からゆっくり息を吸いながら、肘を曲げて前腕を外向きに回し、手のひらを外側へ向けて両腕を広げ、背すじを伸ばして胸を開く。前腕を床と垂直、上腕を床と平行に。
口からゆっくり息を吐きながら、前腕を内向きに回して前腕の内側と手の甲を胸の前で合わせる。鼻から息を吸いながら元に戻る。
③ 肋骨まわりの動的ストレッチ(10回)
両足を肩幅に開いてまっすぐ立つ。胸の下の肋骨を左右から両手でつかむ(力を入れすぎないように注意する)。やや上体を反らしながら、鼻からゆっくり息を吸う。
両手で肋骨をつかんだまま、少し前屈みになりながら、口からゆっくり息を吐き切る。鼻から息を吸いながら元に戻る。