【耳を折り曲げて今すぐチェック!】 なぜ「冷え」はカラダに悪いのか
自分は若いし、鍛えてるから大丈夫、ってことでもない。体温がカラダの機能に及ぼす影響範囲は広いうえに、特に男性は冷えに気づきにくいという話も。まずは正しく知ることから始めよう。
取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 イラストレーション/死後くん 監修/川嶋 朗(東京有明医療大学教授)
初出『Tarzan』No.827・2022年2月10日発売
文明人は冷えている?
上のグラフをご覧のように、約60年前に比べ日本人の平均体温は0.75度下がっている。その最大の原因は「文明」、と言うのは冷えの専門家・川嶋朗教授。
「乗り物が発達して歩く機会が減ったことで昔より確実に筋肉が落ちました。筋肉は熱を放出する組織なので、量が減ればカラダは冷えます。さらに、エアコンの環境下では自力の温度調節システムが働きにくくなっています。また、冷蔵庫の普及で季節に関係なく冷たいものを口にできるようになったことも冷えの原因と考えられます」(川嶋朗教授)
60年前に比べて世の中は格段に便利になった。それと引き換えにカラダが冷えやすい環境になっているということ、まず自覚すべし。
酵素の働きは37度以上で最も高い
健康な人の体温は36.5〜37度だという。これはカラダの表面の温度のこと。カラダの深部に行くほど体温は高くなって、健康な人では37〜38度、腸内では40度程度になる。つまり、現代人の平均体温36.1度では低すぎるということ。
では体温が低い=不健康という根拠は何かというと、答えは「酵素」。
「ヒトのカラダには3000種類以上の酵素が存在し、体内のあらゆる化学反応を促しています。これらの酵素は37〜38度の環境で最も活発に働くことが分かっています」(川嶋朗教授)
表面体温でいえば、36.5〜37度をキープしないと、酵素は活発に働いてくれない。消化吸収や代謝、免疫などの生命活動は酵素の働きなしには維持できない。ゆえに冷えで酵素の働きが鈍れば、さまざまな不調や病気のリスクが高まるのだ。
そのストレスも冷えの元
ヒトは交感神経と副交感神経というふたつの自律神経をバランスよく働かせることで健康を保っている。日中は交感神経が働くことでカラダはアクティブな状態になり、夕方以降は副交感神経が働くことで心身ともに休息モードになる。体温の維持もまた、こうした自律神経の支配下にある。
「ストレスや不規則な生活で交感神経が優位な状態が続くと、アドレナリンやノルアドレナリンなどの緊張ホルモンが分泌され、血管が収縮し血流が悪くなります。熱を運ぶのは血液なので、血流が滞れば当然カラダは冷えます」(川嶋朗教授)
60年前に比べて平均体温が落ちた理由は、当時に比べて社会がより複雑になり、ストレスが過剰になったせいかも?
カラダが冷えると免疫力がガタ落ちに
体内の幾多の酵素反応は、もちろん免疫システムにも関わっている。冷えで酵素がフルに働かないと細菌やウイルスなどに対抗する免疫細胞の働きも低下する。年に何度も風邪をひくという人は一度、カラダの冷えを疑ってみるべき。
「また、カラダが冷えて自律神経の交感神経が優位になると、免疫細胞の顆粒球が増えてリンパ球が減ってしまいます。顆粒球は主に細菌を処理する細胞で、リンパ球は特定のウイルスなどを撃退する抗体を作ります。カラダが冷えてリンパ球が減ってしまうと、現在のようなコロナ禍ではとても不利な状態に」(川嶋朗教授)
ウイルスからカラダを守るために、まずは冷えの改善。これもまた、感染対策のひとつと言えそうだ。
男は冷えに気づきにくい?
冷えの症状を訴える女性は少なくない一方で、男性は冷えに無頓着。ところが、〈養命酒製造〉が行ったアンケートによると、男性ビジネスパーソンの3人に1人は冷えを感じているという結果が。
「男女の脳の根本的な違いは右脳と左脳を繋ぐ脳梁の太さです。女性は男性より脳梁が太いので、左右の脳の情報を繋ぐのが得意。カラダのこと仕事のこと育児のこともいっぺんに考えられます。これに対して、男性はひとつのことを集中的に行うのが得意。仕事が一番で多少の不調は無視する傾向があります」(川嶋朗教授)
男性は女性より筋肉が多いから冷えない? いやそうとは言い切れない。日常には冷えを引き起こす条件が数多く潜んでいる。冷えが深刻化するその前に、生活チェックを。
まずは確認。体温計いらずの冷えチェック
① 朝、ベッドの中でお腹に手を置いてみる
朝起きたら布団の中でまず両腋に左右の手を挟んでみる。次にその手をお腹に直に当て、腋に挟んだときより冷たいかどうかをチェック。冷たいと感じたらカラダが冷えている証拠。
② 耳を折り曲げてみる
時間や場所に関係なく行えるチェック法。自分の耳を手で折り曲げてみる。カラダが冷えている場合、痛みを感じるはず。飛び上がるような痛みがあるなら毛細血管に血液が通っていない。
③ 朝の寝相を確認する
朝、目覚めたとき前日の晩に寝たときの姿勢とほとんど変わっていない場合、カラダが冷えている可能性あり。姿勢を変えると布団が冷たく感じるため、無意識に寝返りを避けているかも。