失敗しない「自宅ジム」作りのコツを、経験者がホンネで語る
2020年、一躍注目を集めたホームジム。ウィズコロナの時代を生き抜く理想のジムを実現しよう!
取材・文/倉石綾子 イラストレーション/サイトウユウスケ 取材協力/フィットネスショップ原宿店
初出『Tarzan』No.801・2020年12月17日発売
かつて「憧れ」、今「仕方なく」。
2020年4月、多くのジムが一時休館を決め、トレーニーたちは途方に暮れた。そこで注目を集めたのがホームジム。一部の海外セレブのためだけのものだと思われていた「自宅にジム」という選択肢が、突如として現実味を帯びたのである。
〈チームターザン〉メンバーの若林大樹さんもその一人。生きがいだったジム通いができなくなったことから、すぐさま導入を決意した。
「コロナ流行がいつまで続くかわからないうえ、医者という職業柄感染は絶対に避けなくてはならない。それを解決するのがホームジムだった」
もちろん、コロナ禍以前からホームジムを導入している人も。
「仕事の都合上、早朝か深夜にしか時間が取れないのですが、当時は24時間ジムがなかったので、仕方なく自宅をホームジム化しました」と言うのは、トレーナーの白戸拓也さん。ホームジム歴20年のベテランだ。
お笑い芸人・コアラ小嵐さんは、「YouTube用の動画を撮影するのに、一般のジムを借りづらくなってきたから。ホームジムに憧れてというより、主に撮影目的で導入」。
憧れというより、現実的な理由で導入を決めた人も多いようだ。
実際に導入してみたら。
それでは実際に導入してみて、どんな変化があったのか。
「朝いちばんに運動するようになり、生活のリズムも整って心身ともに絶好調。どうしても続けられなかった有酸素運動を取り入れるきっかけになった」(会社社長・森平茂生さん)
「もしホームジムがなかったら、いつになったらトレーニングを再開できるのか不安だったと思う。そういう不安を抱えずにステイホーム期間を過ごせたことはメンタル的によかった」(若林さん)
「ラック待ちがないし、他のトレーニーを気にせずインターバルを取れる。自分のペースでトレーニングに集中できる」(コアラ小嵐さん)
「家でデスクワークが続く時は、少しカラダを動かすだけで気分転換に。リフレッシュすることでいいアイデアが浮かぶことも」(白戸さん)
ホームジム作り、5つのポイント。
① まず手をつけるべきこと。
ホームジムの導入にあたって最初に行うべきことは、綿密なプランニングである。ポイントは、機材にかけられる予算、トレーニングの目的、器具の設置に割けられるスペースの3点。限られた機材を駆使して効率のよいトレーニングを叶えるためにも、導入予定の場所で希望のマシンを使用した場合のシミュレーションを入念に行おう。
ある程度プランが固まったら、いよいよ専門店へ。長く使うことを前提に機材選びを行うなら、ネットで購入するのではなく、実物を触って確かめることが肝心だ。種目の切り替えのスムーズさや動作の感覚といった使い勝手はもちろん、発生する金属音のレベルも確認すること。
また、安心・安全にトレーニングを行うためにも品質面のチェックを抜かりなく。器具の素材は何か、マシンの構造に無理はないか、ラックの場合はベースフレームに補強がなされているか、大きな負荷がかかる部位は高い精度で溶接されているか、鉄板の厚みは十分か、などなど。不安がある場合はスタッフに相談を。
「専門店のスタッフは知識、経験が豊富なので、安全で効果的な器具の選定はもちろん、搬入や設置のレイアウトまで、幅広くアドバイスすることが可能です」(フィットネスショップ原宿店店長・大野益裕さん)
② 確保すべきスペースは?
トレーニングの目的によって必要なスペースは変わってくる。
「バーベルを使う場合、シャフトの基本の長さが180cmなので最低限200×200cmのスペースが必要です。これでもプレートの付け替えはかなり窮屈。さらに高重量のトレーニングを行う場合は220cmのオリンピックバーベルシャフトが必要になるので、よりスペースが求められます」(白戸さん)
ハーフラックやパワーラックを設置する場合は、さらに広いスペースが必要になる。
「ラックの幅は、オリンピックバーベルシャフトの長さに加えてプレートの替えやすさを考慮し、最低でも左右に30cmずつの余裕が欲しいところ。奥行きは、パワーラックの基本的なサイズは130cm程度ですが、ベンチをラックの外に引き出すことを考えると300cmは確保したいですね。うちでは300cm四方を推奨しています」(大野さん)
パワーラック、ベンチ、バーベルプレートを掛けておくプレートツリー、ダンベルなどを一通り揃えると、6〜10畳が必要になる計算だ。
「とはいえ狭小空間でもホームジム化は可能です。たとえばバーベルをやめて半畳にダンベルとマットだけ。これでも十分、ボディメイクは可能ですよ」(白戸さん)
③ 費用はいくらくらい?
ダンベルとマットだけなら数万円で始められるホームジムだが、大型の機材を導入するとなると想定以上の予算がかかるかもしれない。
「メーカーやオプションの内容によって値段にばらつきはありますが、ハーフラックで50万円、パワーラックは90万〜100万円の見積もりを出すことが多いですね」(大野さん)
機材とは別にかかるものとして防音・防振対策がある。さらに、意外に見落としがちなのだが、機材搬入や組み立て、引っ越しの際の解体にも別途費用が発生する場合も。
「当店では基本的にご自身での組み立てをお願いしていますが、大型の器具やケーブルなどを使用する複雑な機種は、搬入から組み立て設置までをカバーする有料オプションをお勧めしています」(大野さん)
安全面を考慮すると、組み立ては専門スタッフに任せたいもの。この場合、人員とトラックをチャーターしての搬入となるのでそれなりにかかることを念頭に置いておこう。
④ 機材選びで重視することは?
やはり安全性と使い勝手である。特に一人でトレーニングを行うホームジムでは、品質と安全性にはこだわりたいもの。高重量を扱う機材では耐荷重の表示が気になるが、静止状態の耐荷重と動作をしながらのそれは異なることを理解しておこう。表示されている耐荷重は、あくまでも「静止状態での数字」。「勢いよくバーベルを置いても問題がない」とイコールではない。
「加えて、トレーニング機器の耐荷重については明確な定義がなく、数値の算出方法はメーカーに任されています。おおよその目安にはなるものの、耐荷重はマシンの強度を示すものではありません」(大野さん)
ではどうするか。やはり実物を見て、触って、造りや素材を確認するしかない。さまざまなマシンを見ている専門スタッフに相談するのもいいだろう。つい値段で選びたくなるが、安すぎるものには安価の理由があるということを心に留めておこう。
⑤ 集合住宅の騒音対策、どうする?
トレーニングするスペースにトレーニング用ゴムマットを敷き詰めて防音・防振対策を施そう。
「厚さがいろいろあるので、心配な人は厚めを。ダンベルもラバーコーティングのタイプをチョイスして。畳の部屋では凹み防止も兼ねてマットの下に合板を追加」(白戸さん)
高重量のトレーニングを行う場合は3層構造を採用すると安心だ。いちばん下にクッション性のある中厚のジョイントマットを敷いて防振対策に。続いて、底抜け防止にもなる合板を敷いて圧力を分散させる。その上に防音・防振・滑り止め効果のあるゴムマットを。クッション性がありすぎるものは足元が安定しないので、硬めのものがいいだろう。
さて、木造アパート住まいの人は騒音に加えて床の耐荷重も気になるところ。現在の建築基準法に則っていれば問題はないはずだが、老朽化が気になる場合は不動産屋やオーナーにあらかじめ確認しておこう。
最後に、気をつけたい課題。
日本でのホームジムカルチャーはまだまだ黎明期にある。実際の導入にあたっては課題も多い。
「自分にとっていちばんの問題はモチベーションの維持でした。刺激となる他のトレーニーがいないから。広々とした環境でトレーニングするのが好きなので、狭いスペースで閉塞感を感じたことも」(若林さん)
「自分の家の設備では鍛えづらい部位があり、どうしてもトレーニングが限定的になってしまう。自分には、機材が豊富に揃う一般のジムとの併用が合っていると感じた」(コアラ小嵐さん)
「トレーニングは頻度が重要なので、自分の生活にルーティンを作れるという意味でホームジムは非常に有効だと思う。モチベーションの問題は、全身が映る鏡や好みの音楽など、トレーニング環境を工夫することで乗り越えられると思う」(白戸さん)
経験者のアドバイスを参考に、理想のホームジムを作り上げよう!