目次
- ① ヒトのカラダは10万種類のタンパク質で構成されている。
- ② カラダは日々生まれ変わる。だから毎日、材料を補給せよ。
- ③ 免疫の要の抗体もタンパク質でできている。
- ④ 朝食でタンパク質を抜くと筋肉はどんどん減っていく。
- ⑤ 筋肉1kgを合成するには1食分のエネルギーが必要。
- ⑥ タンパク質は多めに摂っても脂肪に変換されにくい。
- ⑦ 「運動後30分以内のタンパク質」今ではこれ、都市伝説。
- ⑧ 分岐鎖アミノ酸、ロイシンが筋肥大のカギを握っている。
- ⑨ 筋肥大に最も効果的な摂取量は体重1kg当たり1.6ℊ。
- ⑩ 動物性タンパク質一辺倒?いや、植物性にも御利益あり。
- ⑪ カラダだけではない。ココロにもタンパク質が必須。
① ヒトのカラダは10万種類のタンパク質で構成されている。
インドア生活でも元気いっぱいのターザンのカラダの多くを構成しているのは、ほかならぬタンパク質。
張りのある肌、ふさふさの髪、丈夫な骨、健やかな内臓、そして強靱な筋肉はタンパク質が材料だし、目には見えないけれど生体機能を調節するホルモンや酵素もタンパク質なしには作ることができない。健全なカラダに備わっているタンパク質の総重量は、体重の30〜40%にものぼると考えられている。
こうした血肉となるタンパク質の補給源は肉や魚などの食品だ。口から消化管に取り込まれたタンパク質は消化酵素によって、いったんアミノ酸に分解される。このアミノ酸が血液を介して全身に運ばれ、各組織で遺伝子による設計図に従って再びタンパク質として合成されるという仕組み。
タンパク質を構成する最小単位であるアミノ酸の種類はわずか20種類。これら20種類のアミノ酸の配列を変えることによって、出来上がったタンパク質はふさふさの髪にもなれば強靱な筋肉にもなる。
こうして人体を構成するタンパク質は実に10万種類。気の遠くなるような順列組み合わせによってターザン、そしてあなたのカラダは出来上がっているわけだ。
② カラダは日々生まれ変わる。だから毎日、材料を補給せよ。
カラダの諸器官としては毛髪、皮膚、爪、歯、骨、筋肉、内臓、血管など。生命活動を支える代謝物質としては酵素やホルモン、各種神経伝達物質などなど。あれもこれもタンパク質でできている。
そう考えると、ものすごくたくさんのタンパク質が必要なのでは?と不安になる人もいるだろう。ある意味ではまっとうな反応だけれど、心配ご無用。
確かに体内で一度合成されたタンパク質は、構造や機能を維持するために新しく作り替える必要がある。もし1日で全部の器官を総入れ替えするのであれば、かなり大量のタンパク質を補給しなければ追いつかないが、各器官の寿命はそれぞれ異なるので焦らずともよし。
最も頻繁に入れ替わるのは内臓、とくに小腸の上皮細胞。小腸から吸収されて体内に入ってくるアミノ酸は食物に含まれるものの約半分。上皮細胞再生のために消化吸収の時点で消費されてしまうからだ。
で、残りの半分を各部位で山分けする。ちなみに筋肉に到達するのは全体の1割程度。過分な量を取り込む必要はないが、それぞれの寿命に応じてアミノ酸をうまく配分するために、日々適正なタンパク質補給を怠らないことが重要だ。
③ 免疫の要の抗体もタンパク質でできている。
ステイホーム生活でもしっかり必要なタンパク質を食らっているターザンは、もう長いこと風邪などの感染症に罹っていないというウワサ。考えられる理由は、免疫の主役である抗体もまた、タンパク質を材料にして作られるから。
免疫システムについて、ざっくりとおさらいをしてみよう。ウイルスや細菌などの外敵が体内に侵入すると、まず口や鼻、腸管などの粘膜組織が外敵を排除するよう働く。ここまではいってみれば病気の予防。
この粘膜の防衛線を突破して、外敵が体内に侵入すると、今度はマクロファージなどの白血球が手当たり次第に外敵を攻撃。
これも突破されると、本格的な免疫システムによる攻撃が展開される。樹状細胞という白血球が敵の情報を免疫の司令塔であるヘルパーT細胞に伝え、B細胞に特定の敵を攻撃する抗体を作らせるのだ。
抗体は外敵にくっついて機能不全にさせる。しかもこうした抗体の記憶は保存されるので、一度罹った感染症に再び罹ることはないという見事なシステム。
異物排除の抗体もタンパク質なしには作れない。ターザン風邪ひかない説は、タンパク質の十分な摂取に下支えされているのだ。
④ 朝食でタンパク質を抜くと筋肉はどんどん減っていく。
タンパク質はカラダの材料になるだけでなく、ときにアミノ酸に分解されエネルギーとしても利用される。こうして筋肉がエネルギーに変わるために分解されることを「カタボリック」、逆に筋肉が合成されることを「アナボリック」という。
筋肉は一見、揺るぎなくそこに存在しているように感じるが、一日の中でも分解と合成を頻繁に繰り返している。そのときのエネルギーの出納状態でどちらが優位になるかが決まるのだ。
簡単に言うと、空腹時は筋肉を壊して血糖値を維持しようとするのでカタボリックが優位になり、食事をして血糖値が上昇すればアミノ酸が余るのでアナボリックが優位になるという具合。それほどまでにカラダは血糖値維持に必死なのだ。
とくに夜間は長時間の絶食状態になるのでカタボリックに傾きやすい。その後さらに朝食を抜いてしまうとカタボリックは進む一方で、筋肉がどんどん減ってしまうことになる。ランチでがっつり食べるから大丈夫、という理屈は通用しないのだ。
二の腕の筋肉をむにゅっとつまんでみてほしい。そして、腹具合を探ってみてほしい。お腹がグーと鳴っている? なら筋肉は今、容赦なく分解されているかも。ヤバし。
⑤ 筋肉1kgを合成するには1食分のエネルギーが必要。
ターザンみたいな隆々の筋肉いらないし、なんて思っているそこのあなた。即、考えを改めるべし。
1日通常7,000歩歩いているところを2,000歩に減らした研究では、2〜3週間で下半身の筋肉量が約4%減ることが分かっている。これ、3か月くらい頑張ってやっと養える筋肉量。自粛生活で歩く機会が少なくなるだけで、これほどまでに筋肉は減ってしまうのだ。
また、筋肉1kgを合成するためには約540キロカロリーのエネルギーが必要。これは基礎代謝に含まれるエネルギーだ。筋肉量が少ないと作り替えられる量も少ないから基礎代謝も落ちてしまう。
筋肉が減っていき、同時に基礎代謝が落ちる。その先に待っているのは、もうお分かりの通り「自粛太り」という悲しい結末。
⑥ タンパク質は多めに摂っても脂肪に変換されにくい。
活動量が減ってるからタンパク質も当然減らさなきゃ、と一見正論ぽいことを考えているそこのあなた。やはり即、考えを改めるべし。
糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素は摂りすぎれば蓄積されるか排出される。糖質と脂質はどちらかといえば体脂肪として蓄積され、タンパク質は余った分、尿中に排出される。タンパク質もごく一部は体脂肪に変換されるが、そのプロセスはとても複雑。脂肪合成の前にいったん肝臓で糖質に変換する手間がかかるので、脂肪変換の優先順位は糖質よりずっと低い。
しかも、BCAAというアミノ酸グループは胃腸内に働きかけ、食欲を抑制するコレシストキニンというホルモンの分泌を高めることが分かっている。となれば、むしろ積極的に取り入れた方が食欲も抑えられるし、筋肉の維持にも繫がる。
手持ち無沙汰でつい手が伸びるスナック菓子は減らしても、タンパク質は減らすべからず。むしろタンパク質が豊富な食事をモリモリと。
⑦ 「運動後30分以内のタンパク質」今ではこれ、都市伝説。
ジムに行けないなら自宅トレがあるさ。ターザンに倣ってダンベルトレでガシガシ追い込み、気持ちよくフィニッシュ。実に前向き!
でも筋トレ後、ことさら慌ててプロテインをシェイクしなくても大丈夫。確かにちょっと前までは運動後にプロテインを摂るなら30分以内が鉄則で、じゃないと筋肉合成の効率が悪くなるといわれていた。
ところが最近では、プロテインは運動前に飲んでもいいし運動後に飲んでもいい、そして必ずしも運動後30分以内じゃなきゃダメというわけではないというのが常識になりつつある。
重要なのはタイミングではなく、筋トレとタンパク質摂取をセットで考えること。筋トレ後、24〜48時間は筋合成が高まっている状態が続く。だから筋トレする日もしない日もタンパク質をしっかり摂取することが重要だ。
筋トレ後30分以内にプロテインを飲んだだけで、あとは知らんぷり。これではせっかく材料を欲しがっている筋肉にアミノ酸が行き届かず、せっかくのトレーニングが水の泡になってしまう。
運動後に胸いっぱいでタンパク質が摂れない人は、運動前、運動1時間後の補給でも全然OK。
⑧ 分岐鎖アミノ酸、ロイシンが筋肥大のカギを握っている。
ヒトのカラダを構成するタンパク質の材料となるのは、20種類のアミノ酸であることはすでに述べた。このうち、家トレでせっせと筋肉を養いたいという場合、とくに注目したいのがBCAAというアミノ酸グループ、日本語名は分岐鎖アミノ酸。バリン、ロイシン、イソロイシンという3つのアミノ酸の総称だ。
BCAAは他のアミノ酸と比べて筋肉の合成を促す働きが強く、しかも筋肉の分解をも抑えてくれる。なかでも筋肉の合成に重要な働きをするのがロイシンだ。
筋肉内には細胞の遺伝子に筋肉を合成せよという指令を出すエムトールという物質が存在する。このエムトールを活性化させ筋肉合成を促す因子のひとつは運動。もうひとつはロイシンである。ロイシンはエムトールを活性化させて筋肉合成をより促すことが分かっている。ごく最近では、セストリンという酵素が筋肉の細胞内で発見され、ロイシンがセストリンに働きかけて普段は抑制されているエムトール経路のロックを外すことが分かってきたという。
ちなみにロイシンを多く含む食品はクロマグロ、ホッケ、カツオ、鶏胸肉、高野豆腐など。これらの食材に加え、ロイシンが効率的に摂れるプロテインを活用するのも一つの手。
⑨ 筋肥大に最も効果的な摂取量は体重1kg当たり1.6ℊ。
トレーニングをする人はもちろん、とくにしない人にとってもタンパク質は不可欠ということが、もうお分かりだと思う。ならば、1日にどれくらいの量が必要なのかを知りたいところ。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によれば、男性なら1日60g、女性なら50gとなっている。とはいえ、この数値はあくまで平均値。体格や活動量によって当然、必要量は変わってくるので、一般的には体重当たりで必要なタンパク質量を割り出すのが妥当なところ。
主にデスクワークで特別な運動はしないという人の場合は体重1kg当たり0.9gのタンパク質が必須。体重60kgなら1日54g、1回の食事で20gのタンパク質が摂れればクリアできる。掌に乗るポーションの肉や魚に含まれるタンパク質が20g。1度の食事でこれらの主菜をきっちり摂ればOKだ。
家トレをする人の場合は体重1kgにつき1.6gのタンパク質補給が効率よく結果を出せる目安。肉や魚の主菜に牛乳や卵、大豆製品をプラスしてクリアしよう。
⑩ 動物性タンパク質一辺倒?いや、植物性にも御利益あり。
タンパク質というと肉に魚に卵に牛乳、とかく動物性食品がその補給源と考えられがち。じゃあ大豆製品などの植物性タンパク質は摂っても大して役に立たない? むろんそんなことはない。
ひとつに植物性タンパク質は動物性タンパク質に比べてカロリーが低いものが多い。タンパク質はもともと脂肪になりにくいが、植物性食品ならさらに太りにくい。
また、大豆に含まれるアルギニンというアミノ酸は血管を柔らかくする一酸化窒素(NO)の生成を促し、さらに脂肪の分解に関わるホルモンの分泌を高めることが分かっている。血液サラサラかつ脂肪メラメラという恩恵が得られるのだ。
また、アミノ酸組成は食材によって異なる。同じタンパク質を摂るにしろ、多様な食材から取り入れることが健やかなカラダを維持する最大のコツだ。
豆腐3分の1丁には6〜7g、納豆1パックには約8gのタンパク質が含まれている。動物性タンパク質食材と組み合わせていただきたい。
⑪ カラダだけではない。ココロにもタンパク質が必須。
タンパク質はカラダを作る材料になるだけでなく、身体機能を調節するホルモンの材料にもなることはすでに述べた通り。
各種ホルモンの中には、メンタルに重要な影響を及ぼすものもある。その代表的なものが脳で生成されるセロトニン。
ストレス対処に役立つホルモンで、自律神経のバランスを整え緊張や不安を促すノルアドレナリンなどのホルモンを抑制し、メンタルを鎮静化させるという役割を果たす。
セロトニンの材料となるのは必須アミノ酸のトリプトファン。日中にはトリプトファンからセロトニンが作られ、夜間になるとセロトニンがメラトニンという睡眠に関わるホルモンに変換される。
つまり、緊張や不安を解消し、質のいい睡眠をとるためにはトリプトファンが不可欠ということ。トリプトファンを豊富に含む乳製品や大豆製品などのタンパク質食品は、今この時期だからこそ積極的に摂りたいもの。カラダだけでなくココロにもタンパク質の支えが必須である。