健康診断の検査結果は、この11の数値を見ろ!
三井記念病院総合健診センター長・石坂裕子先生に、素人でも把握しやすく、かつさまざまな疾患の元凶が潜んでいる11の検査項目をピックアップしてもらいました。
取材・文/黒田創 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/石坂裕子(三井記念病院総合健診センター長)
初出『Tarzan』No.784・2020年3月26日発売
健康診断の結果は、言わば年に一度受け取るカラダの通信簿。しかしそこにあるのは無機質な数字の羅列。専門家ではないわれわれには、少々わかりづらいのが現実である。
すべての検査項目が生活習慣病のリスクを示すサインであることは重々承知しているけど、もう少しポイントを絞ればより数字に対して親近感が湧き、その意味をグッと嚙み締められるのではないか。
カラダの状態を端的に表す体重、心臓の機能を示す血圧、血糖の状態がわかる血糖値にHbA1c。そして腎臓の働きを示す尿素窒素にクレアチニン、尿酸値。脂肪および脂質の基準となるコレステロール値に中性脂肪、さらには肝臓の状態がわかるγ-GTPやAST、ALTまで。
まずは各項目が何を示しているか、基準値はどの程度かを知り、自分のおおよその健康状態を把握しよう。
①体重
BMI値が適正でも増加傾向の有無を確認。
体重の目安はBMI値で判定でき、その計算式は【体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)】。この値が18.5~25未満であれば適正と判定される。
しかしBMIが適正値でも油断は禁物。現在30代後半~40代の人が20代の頃よりも10kg以上体重が増加していたら、カロリーを過剰摂取している傾向が考えられる(病気に伴う体重増加もある)。
体重増加に伴って血圧や血糖値、尿酸値、脂質代謝の値も高くなっていないか確認する必要があるのだ。体重はカラダの状態をわかりやすく示す指標。毎年計測することが大事。
②血圧
最高130mmHg未満、最低85mmHg未満が基準値。
血液が血管の中を流れる時の圧力で、血液を送り出すために心臓が最大限に収縮した時に最も高くなる。
体内を巡った血液が心臓に戻ると、心臓は拡張して血液を受け入れ、血圧は最も低くなる。塩分を摂りすぎると血液の浸透圧を一定に保つべく血液中の水分が増えるため、結果的に循環する血液量を増やす。そこで心臓が新たに血液を押し出すべく、より高い血圧が必要になるのだ。
また、強いストレスに見舞われるとアドレナリンなどの物質が出て血圧が上昇する。加齢や肥満、運動不足なども高血圧の要因。
③血糖
健診では空腹時の血糖値を計測する。
血液中のブドウ糖の値で、エネルギー源となるため濃度が下がると脳やカラダの動きが悪くなる。
しかし血糖値が高いのも問題で、高血糖状態が続くと血液はドロドロになり、ひどい場合は血液中の過剰なブドウ糖が血管を詰まらせてしまう。
高血糖状態はまた糖尿病のリスクも高めてしまうため、血糖値の上昇には要注意。炭水化物の摂取量を減らすなどして減量し、血糖値が基準値の範囲内になるよう調整する必要がある。基準値は空腹時(10時間以上絶食時)で80mg/dL~99mg/dLとなっている。
④HbA1c
糖尿病の判断基準となる糖代謝の大事な検査項目。
ヘモグロビン・エーワンシーの略。血液に含まれる重要な成分の一つで、主に鉄でできているヘムと、タンパク質でできているグロビンが結合している。そのうちブドウ糖と結びついたものをHbA1cと呼ぶ。
この値は過去2ヶ月前の血糖値といわれていて、血糖値と異なり当日の食事や運動などの影響を受けて変動することがないため、計測日前後の血糖の平均値の目安となるのだ。
この値は5.6%未満だと普段の血糖値が正常範囲内とみなされ、6.0~6.4%だと糖尿病予備群、6.5%以上は糖尿病となる。
⑤尿素窒素
腎臓の働きを示す数値。 筋トレ好きは要注意。
タンパク質が体内で分解されるとアンモニアが作られるが、そのままだとカラダに悪い。安全にカラダの外に出すために肝臓で尿素へと合成され、尿として排泄される。その尿素に窒素が含まれていることから、健診では窒素を測定して値を導き出すのだ。
水分の摂取量が少なかったり、筋トレなどで激しい運動をした後や、外傷、消化器出血、発熱などがあって腎機能が低下していると、血液中の値が上昇する。単位はmg/dLで、基準値は8~21mg/dLとなる。高すぎる場合は腎炎や腎不全などの疑いも。
⑥総コレステロール、HDL、LDL
一定量が必要。善玉と悪玉のバランスも大事。
脂質の一種で、細胞の働きの調節や栄養素吸収などに関わり、全身の細胞膜の成分となる。
HDLは善玉、LDLは悪玉コレステロールを示し、LDLが全身にコレステロールを運び、HDLが余分なコレステロールを回収するため総量およびLH比と呼ばれるバランスが大事。
LH比が1.5以下なら健康、2.0以上だと動脈硬化が疑われ、2.5以上だと血栓ができている可能性が高く、心筋梗塞や脳梗塞のリスクもある。総コレステロールは140~199、HDLコレステロールは40以上、LDLコレステロールは60~119が基準。
⑦γ-GTP
肝機能を見る指標。51U/L以上だと問題。
肝臓や腎臓などで作られる酵素で、肝臓では通常肝細胞や胆管細胞に存在し、胆汁中にも存在する。
タンパク質を分解・合成する働きを持つが、お酒の飲み過ぎや肥満によってたくさん作られると肝細胞や胆管細胞が壊れ、血中に出てきてしまう。そのため肝機能を見る大事な指標となっている。アルコールの摂取量と密接に関係している。
50U/L以下が基準値だが、51U/L以上は肝機能異常の疑いがある。放っておくとアルコール性肝炎、ひどい場合は肝硬変へと進行するリスクがあるため要注意。
⑧クレアチニン
筋肉の老廃物。高いと腎機能低下の可能性大。
筋肉に含まれるタンパク質の老廃物で、筋肉を動かすことで発生する。本来は尿素窒素と同じく腎臓で濾過され尿として排泄されるが、腎機能が低下すると排泄量が減少し、血液中にクレアチニンが溜まってしまう。つまり血中のクレアチニンの値で腎機能を測れるというわけ。
男性で1.0mg/dL以下、女性で0.7mg/dL以下が基準値。
⑨中性脂肪
基準値は30~149mg/dl。増えすぎは動脈硬化の元。
脂肪の一種。食事中の脂肪が腸で吸収されて血液中に取り入れられた「外因性トリグリセリド」と、一度肝臓に取り込まれた脂肪が再び血液中に分泌された「内因性トリグリセリド」の2種類がある。
体内にエネルギーを貯蔵する役割を担い、主なエネルギー源であるブドウ糖の不足を補う形で使われる。増えすぎると動脈硬化の元凶となる。
⑩AST、 ALT
基準値を超えると肝機能障害の疑いが。
ともに肝細胞で作られる酵素で、肝臓でアミノ酸の代謝に関わる。アルコールなどの影響で肝臓に障害が起こり肝細胞が壊れると血中の値が上昇する。
特にALTは主に肝臓中に存在するため、肝障害の程度を調べるのにより適している。健康な人はALTよりASTが高値を示すが、肝障害の場合ALTの方が高くなる。ともに30以下が基準値。
⑪尿酸
プリン体の老廃物。増えすぎは痛風の元。
細胞の核の成分であるプリン体が分解されて作られる老廃物。血液とともに全身を巡った後に腎臓で尿や便に混ざって排出されるが、プリン体の材料となる食べ物を摂りすぎたり、腎機能が低下すると増加し、血中濃度が基準値より高いと高尿酸血症と診断される。
増えすぎると痛風の元となる。基準値は2.1~7.0mg/dLとなっている。