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わかったつもりの「糖質摂取で太る理由」と「糖質制限で痩せる理由」

糖質制限食が当たり前になってきたけれど、糖質オールカットは寿命を縮めるというデータは世界中で数多く提示されている。まずは糖質の摂り方次第でなぜ太るのか、その理由を知ることから始めよう。

糖質摂取でなぜ太るのか? 主な理由は3つ。

①現代人は「糖質無制限食」に陥っている。

口から取り入れた糖質食品は、主に最小単位のブドウ糖に分解されて小腸から吸収され、肝臓に取り込まれる。その後、一部は血液中に放出されて各組織に運ばれエネルギーとして利用される。この血液中の糖質がいわゆるグルコース(血糖)。

一方、何かのときにいつでも使えるようにとカラダは肝臓や筋肉に糖質をプールする。これが、グルコースが結合したグリコーゲンだ。体格や年齢、運動経験などによって多少異なるが、基本的にグリコーゲンとしてカラダに蓄えられるのは400〜500g程度と考えられている。約1日分の活動量だ。

糖と脂肪の体内の蓄積量を比べてみると
糖と脂肪の体内の蓄積量を比べてみると。/体重70㎏体脂肪率14%の男性のグリコーゲンと体脂肪の蓄積量。グリコーゲンの蓄積量には限度があるが、体脂肪量は理論上は無限に近い。なお、体脂肪のエネルギー量は、含まれる水分を除き、1g=7kcalで計算した。

口から取り入れる糖質がこの貯蔵量とカラダが必要とするエネルギー量をオーバーすると、グルコースはどんどん脂肪組織に運ばれて脂肪として合成される仕組み。糖と異なり脂肪はいくらでも蓄えられる。比較的痩せ型の人でも約40日分のエネルギーを溜め込むことができるのだ。

朝・昼・晩、当たり前のように主食のごはんやパンや麺を食べ、なんなら大盛りやおかわりも辞さない。さらに小腹が空いたらスイーツも食べる。現代人ははっきりいって「糖質無制限食」に陥っている。これでほとんど運動しなければ太るのは当たり前。急務は「無制限」にブレーキをかけることだ。

②糖質無制限の食生活がインスリンを悪者に貶める。

消化吸収に関わるホルモンの中でインスリンは唯一、血糖値を下げる役割を持つホルモン。とはいえ「血糖値を下げる」というのは結果論。

食事をして血糖値が上がると、これを合図に膵臓からインスリンが分泌される。インスリンは筋肉、肝臓の細胞に働きかけ、細胞内にある糖質を取り込む運び手を細胞膜まで呼び出す。そして糖質を引き渡してエネルギーとして使うなり、グリコーゲンとして蓄積させる。

余った糖質はインスリンが同様に脂肪細胞に働きかけることで脂肪組織に取り込まれる。こうして血液中のブドウ糖がさまざまな場所にデリバリーされた結果、血糖値が下がるという仕組みだ。

インスリン抵抗性で行き場を失った糖質は脂肪細胞へ
インスリン抵抗性で行き場を失った糖質は脂肪細胞へ。/血液中のブドウ糖はインスリンの働きによって肝臓や筋肉、脂肪細胞に提供される。ところが大量のインスリンがしょっちゅう分泌されると筋肉と肝臓にはインスリン抵抗性が生じる。そして抵抗性の少ない脂肪細胞が受け皿に。

このシステムは飢餓時代の人類にとってかなり重宝した。次の食事にはいつありつけるか分からない。その間、微々たる量ではあるが糖を筋肉と肝臓に、または脂肪という効率のいいエネルギー源に変えて蓄えることができたからだ。

ところが、現在のような飽食時代ではこれがかえって仇に。1日3回保証された食事と午前10時と午後3時の習慣であるおやつなどを口にすると、そのつどインスリンが分泌される。ほぼ一日中インスリンが出っ放しという場合さえある。

すると、インスリンが出ているのに効きが悪くなってくる。これが「インスリン抵抗性」と呼ばれる状態。しかも厄介なことに肝臓や筋肉にはインスリン抵抗性が生じやすく、脂肪細胞には生じにくい。かくて、インスリンは糖質を脂肪細胞に誘導するエスコート役、「肥満ホルモン」の汚名を着せられることに。

③誤った食事で代謝がダウン。結果、少しの糖質でも太る。

なら、糖質無制限をやめて糖質制限を徹底し、痩せてみせましょう。と、実践してみたはいいけれど、一向に痩せない。というか実践前より太りやすくなったような?

身に覚えのある人も多かろう。こういうタイプは糖質制限をしているつもりで、実はカロリー制限も同時に行ってしまっている可能性が高い。

ごはん、パン、麺といった主食をオールカットし、なおかつサラダや鶏肉のささみ、こんにゃく、豆腐などだれが見てもそりゃそうでしょうという低カロリー食材ばかり口にしているのだ。

こうした食生活では摂取カロリーが減るので実践直後は確かに体重が減る。でも、カラダの方は毎度これしかエネルギーが入ってこないなら仕方あるまい、と代謝を下げて節約モードに切り替える。

というわけで、本人はとてもひもじい思いをしているのにもかかわらず、体重も体脂肪もイマイチ減り幅が見込めない。ちょっとでも糖質食材を口にしたらたちまち太る。そんな残念な結果に。

糖質制限に着手するなら、それまで摂取していたエネルギーは最低限死守することが重要。カロリーという概念をいったん頭から追い出すことが、痩せるカギとなる。

糖質制限でなぜ痩せるのか? ふたつの理由。

本人にすれば決して食べ過ぎているという自覚はない。でも、食事と食事の間にグルコースやグリコーゲンを使い切るような労働をしている人はごく稀。そんな現代人が野放図に糖質を口にすること自体、やはり糖質無制限食に繫がる。

続いては、こうした無制限状態を改善することで、どうして痩せていくのか? その理由について学んでいこう。仕組みが分かればこれまでの食生活が客観視できる。無意識の無制限っぷりに自覚が湧く。実際に行動を起こすのは、その後で。

①インスリンの減少でむくみが解消。

インスリンの働きは血糖値コントロールに関するものだけではない。実は血管の働きや水分の調節作用があることが分かっている。その中でも知られているのは、インスリンが腎臓に作用してナトリウムを再吸収するという働き。

体内にナトリウムが溜まると水分も一緒に引き込まれ、カラダにむくみが生じやすい。むやみやたらにインスリンが出過ぎると、こうしたむくみの症状が表れやすいのだ。

実際、糖質の摂取量を減らすとむくみの症状が取れる。理由は糖質1分子に水分子3つがくっついているので糖質を減らせば水分が排出されるというのがひとつ。もうひとつの理由はインスリンのナトリウム再吸収作用が低下し、やはりそれと一緒に水分が排出されることだ。

糖質コントロールで最初に体重が減るのは、脂肪が減ったのではなく水分が排出されているだけという説も確かにある。だが、むくみの解消がその後のダイエットのモチベーションになればしめたもの。

②第2、第3のエネルギー回路が稼働し、痩せる。

代謝の手間という意味でいうと、糖質は非常に効率のいいエネルギー源。脂質やタンパク質をエネルギーとして代謝するにはいくつもの手順がある。それに比べるとグリコーゲンは直に細胞に取り込まれてエネルギーとして利用できる。

普通に生きている限り、どんなときも糖質と脂質は同時にエネルギーとして利用されているが、糖の取り込みは主食の炭水化物や甘い糖質食品から賄うことになる。重労働を行うときは丼めし、疲れたときに甘いものを食べてホッとするのはこうしたわけ。

だが、それが唯一の糖質のエネルギー供給ルートというわけではない。その気になれば糖質がなくてもカラダは糖エネルギーを作り出せる。体内にプールされたアミノ酸や筋肉を原料にして肝臓で糖を新たに作り出す糖新生という回路が働くのだ。

カラダに備わっている3つのエネルギー回路
カラダに備わっている3つのエネルギー回路。/グリコーゲンを利用する第1の回路は解糖系。現代人はもっぱらこの回路に頼りがち。糖質を一時的にストイックに制限することで糖新生回路、ケトン体回路が働く。

それだけでは到底エネルギーが足りないので、次に脂肪酸をどんどん利用したり、脂肪酸の一部からケトン体という物質を作り出す。このケトン体が脳をはじめとするあらゆる細胞のエネルギー源となるのだ。

ストイックな糖質制限をすると3日間くらいで糖新生ルートが働き、1週間から10日後くらいにケトン体回路が発動し、痩せる

しょっちゅう食べ物を口にしている現代人がなかなか使う機会のないエネルギー回路を蘇らせる。糖質制限にはそんな意味もまたある。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/浦上和久 取材協力/亀川寛大(亀川ひかるクリニック院長) 参考資料/『糖質制限の外食ガイド』(亀川寛大著、マキノ出版刊)

初出『Tarzan』No.783・2020年3月12日

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