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2020.03.23

過大評価されている!? “睡眠”ホルモン・メラトニンの実態

メラトニンの真実

“眠りの精”とされるホルモン、メラトニン。必要以上に過大評価されがちなその実態を検証する。

1. メラトニンはセロトニンから作られる。

ヒトのように日中活動して夜休む昼行性動物でも、マウスのように夜活動して日中休む夜行性動物でも、メラトニンの分泌量は夜に増える。その理由はこうだ。

メラトニンのもとになるのは、神経伝達物質のセロトニン。セロトニンからメラトニンを合成する酵素は、光を浴びている間はあまり働かないようになっている。日が落ちて暗くなるとこの酵素の活性が高まり、メラトニンは増える。

セロトニンの原料は、必須アミノ酸のトリプトファン。夜のホットミルクが安眠に良いとされるのは、牛乳にトリプトファンが豊富だから。

でも、夜にトリプトファンを摂っても遅い。トリプトファンが多い食品(牛乳以外にも肉類、卵、魚類など)を摂るなら、セロトニンが合成される朝食の方が効果的。

ただ、普通の食生活で、トリプトファン不足でセロトニンやメラトニンが足りなくなることはまずない。

メラトニンを大事にするなら、夜に光を浴びないことを最優先に

以前は晴れた日の窓際に相当する2,500ルクスくらいの明るさがあるとメラトニンが減るとされていたが、現在は暗めの部屋に相当する300ルクス程度でもメラトニンが減ることがわかっている。

2. 眠りの準備を整えるのは、メラトニンだけではない。

眠りと覚醒に関わる物質の大半は神経伝達物質であり、厳密にはホルモンではない。睡眠関連で血液中を巡る正真正銘のホルモンと呼べるのは、ほぼメラトニンのみ。

「メラトニンは脳の底部にある松果体という内分泌器官で作られ、血中に放出されるホルモンです」 (櫻井武・筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構[WPI-IIIS]教授)

睡眠を語るうえでメラトニンは欠かせないホルモンだが、その役割はかなり誤解されている

一般的に日が落ちて暗くなるとメラトニンが作られて、深部体温や心拍数を下げるなどして眠りの準備を整えてくれるといわれる。

でも、この説明は間違っている。

メラトニンはどこで作られ、 どこで働いているのか。
メラトニンはどこで作られ、 どこで働いているのか。
体内時計の中枢は脳の深部にある視交叉上核。全細胞に備わる時計遺伝子に指令を送るマスタークロックだ。松果体が出すメラトニンは視交叉上核に働く。
出典/『睡眠障害のなぞを解く』(櫻井武著/講談社)

体内時計はほぼすべての体内メカニズムを時刻に合わせて最適化する。睡眠と覚醒も例外ではない。

「メラトニンはその体内時計に作用するホルモン。体内時計は時計である以上、正確さが必要。メラトニンは夜間分泌されることで明暗のメリハリを作り、体内時計が正確に時を刻むのを助けます」 (櫻井教授)

しかし、眠りを制御しているのは体内時計だけではないから、メラトニンだけで眠りを説明するのは誤り。

体内時計の乱れで眠れない人にとってメラトニンは大きな意味を持つが、それ以外の人はメラトニンを必要以上に過大評価しない方がいいようだ。

3. メラトニンを真似た睡眠薬は効き目がわかりにくい。

睡眠薬=怖いクスリというイメージを持つ人は少なくないが、それは大昔の推理小説や映画などで、睡眠薬で自殺する場面がちょいちょい描かれていたからだろう。

大昔の睡眠薬はバルビツール系といわれるタイプ。麻酔に近い作用を持っており、一度に大量服用すると呼吸が止まり、下手をすると死に至る恐れがあった。

現在の睡眠薬の主流はベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系。ややこしい話だが、前者も「非」と付く後者も作用はそっくり。ともに眠りへ誘うGABAの働きを強めるものだ。効き目はGABAの存在量でリミッターがかかるので、万一飲みすぎても危険はない。

さらに2011年に登場したのが、メラトニンの作用を真似た睡眠薬、「ロゼレム(成分名ラメルテオン)」というクスリだ。

カラダが作る成分の働きに即しているからこちらも安全だが、なかには効果が低いなどと訴える患者もいる。

「副作用も少なく非常に良い薬ですが、自発的に得られる眠気につながりにくく、また体内時計を介したものなので作用が出るのに時間がかかる。このため自覚的な効果を感じにくい点があります」(櫻井教授)

4. 「メラトニンの抗酸化作用で健康になれる」は誤り。

メラトニンには、抗酸化作用がある。抗酸化作用とは、有害な活性酸素の酸化からカラダを守る働き。活性酸素は呼吸で取り入れた酸素から生じる悪玉である。

一説にはメラトニンを最初に作ったのは、地上で初めて光合成を始めた藻類の仲間とか。光合成で生じた酸素の一部は活性酸素に変わる。その害から自らを守るためにメラトニンを作ったとされる。

ならばヒトでも、メラトニンは抗酸化作用を発揮してくれるのか。

確かにメラトニンの一部は脳を出て、女性の卵胞を抗酸化作用で守っているようだが、松果体が作る分量で、全身で抗酸化作用が期待できるとは思えない。

「藻類では十分な抗酸化力があった可能性もありますが、ヒトでも同じように効くとは限らない。メラトニン以外でも、藻類のような下等生物とヒトのような高等生物で、同じ成分が違った働きをしている例は多く見受けられます」(櫻井教授)

もともとメラトニンは、オタマジャクシの体色を明るくする物質として発見されたものだが、ヒトの肌色は何ら変化しない。この他、鮭の体色を変えるMCHというホルモンは、ヒトではレム睡眠の制御に使われる。

ともあれ抗酸化力を期待してメラトニンサプリを飲むのは単なる気休めで終わりそう。

取材・文/井上健二 イラストレーション/飛永雄大 取材協力/櫻井武(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構[WPI-IIIS]教授)

初出『Tarzan』No.782・2020年2月22日発売

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