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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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カラダを巡る多様な物質が、眠りの世界を精巧にコントロールしている。
まず何が眠りを操るかを知ろう。1つ目は体内時計。その中枢は脳の奥にある視交叉上核で、1日24時間10分前後のサイクルを持ち、毎朝光を浴びるとリセットされる。体内時計は覚醒レベルを調整し、就寝するタイミングに覚醒レベルが下がる。
だが、その支配は絶対ではない。
「体内時計が絶対なら夜更かしはできないはず。体内時計と眠りが厳密に結びつくように思えるのは、ヒトが夜まとめて眠り、昼間はずっと起きている単相性睡眠だから。動物にも体内時計はありますが、彼らは一日中寝たり起きたりしています」(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の櫻井武副機構長)
睡眠負債の影響もある。”負債”と聞くとネガティブに感じるが、実態は眠りを誘うために必要な機能=睡眠圧。睡眠圧で毎日ちゃんと眠り、その日の負債を完済するのが本来のリズム。睡眠負債を溜め続けるのがよくないわけだ。
脳の奥の大脳辺縁系による不安や恐怖などの情動も眠りに関わる。
「動物にとって不安や恐怖があるときは天敵に襲われたりするリスクを伴い、眠ってはいけない状況。それはヒトでも同じです。安らかにならないと眠れないのに、現代はストレスなどで不安などが募り、眠れない人が少なくないのです」
次に眠りとホルモンの関係が、一体どうなっているのかを探ろう。
睡眠に応じて分泌が大きく変化するホルモンは2つある。
第一に脳の下垂体から出る成長ホルモン。寝入って30〜60分で分泌される。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、成長ホルモンが分泌されるのは、ステージ3の深いノンレム睡眠。睡眠中の成長ホルモンは、新陳代謝を助けるために分泌されていると考えられる。
もう一つのコルチゾールは、起床の2時間ほど前から増えるホルモン。副腎から分泌されており、起きてすぐ動けるように血糖値と血圧を高めて活動の準備をする。
面白いことに、起きる時刻を決めて目覚まし時計をセットするだけで、コルチゾールは決めた起床時刻の約2時間前から増える。これは眠る時刻を本人が認知して眠った場合に起こる現象で、サプライズで早く起こしてしまうとコルチゾールの分泌は起こらない。
「潜在意識に起床時刻がインプットされるだけで適切な時刻に適切なホルモン分泌が起こるのです」
体内時計とシンクロして、睡眠と覚醒を切り替えているのは、脳。実際には、視床下部と脳幹で作られる物質がカギを握る。神経同士の情報伝達に用いられる神経伝達物質で、ホルモンの一種だ。
覚醒を担う場所は、視床下部に隣接する脳幹。脳幹のニューロン(神経細胞)は、興奮性の神経伝達物質であるモノアミン(ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンなどの総称)やアセチルコリンを出す。モノアミンを出すのはモノアミン作動性ニューロン、アセチルコリンを出すのがコリン作動性ニューロンであり、脳全体に働いて覚醒を促している。
一方、眠りを誘導するのは視床下部の視索前野。GABAという抑制性の神経伝達物質を出すGABA作動性ニューロンが集まる。これはモノアミン&コリン作動性ニューロンを抑え、逆にモノアミン&コリン作動性ニューロンはGABA作動性ニューロンを抑える。この交互作用のおかげで睡眠と覚醒は原則として混在せず、休息と活動のメリハリがつけられる。
眠りは大切だが、それ以上に重要なのは覚醒。その事実を忘れるなかれ。生きるために必要な食べ物を見つけたり、子孫を残すパートナーと出会ったり、天敵から逃げたりできるのは、覚醒中のみ。
「何のために眠るのか?」というのは答えるのが難しい問いだが、確実に言えるのは、眠りが覚醒の充実のためにあるということだ。
生命のまさに生命線である覚醒を保つのが、櫻井先生らが発見したオレキシンという神経伝達物質。オレキシンを出すニューロンは視床下部の摂食中枢で見つかり、ギリシャ語で食欲を意味する「オレキシス」から命名された。
このオレキシンと関わるのが、モノアミンの一種のセロトニンという神経伝達物質。俗に「幸せホルモン」と呼ばれているが、その性格は単純には割り切れない。
「セロトニンは覚醒中に分泌されますが、覚醒を持続させるオレキシンを強く抑えて眠気を起こすこともある。セロトニンは多くても少なくても眠りにマイナスです」
取材・文/井上健二 イラストレーション/飛永雄大 取材協力/櫻井武(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構[WPI-IIIS]教授)
初出『Tarzan』No.782・2020年2月22日発売