夜の副交感神経にやさしいこと、ベストランキング10
夜は、副交感神経のスイッチをオン。そのために押さえておくべきことは? 神経を癒やすあの名曲と共にチェケラ。
取材・文/鈴木一朗 撮影/山城健朗/スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/高松由佳(スチーム)/イラストレーション/モリタクマ/監修/福永伴子(ともクリニック浜松町院長)
(初出『Tarzan』No.698・2016年6月23日発売)
人間のカラダは今よりずっと昔から、実にシステマティックにできていた。交感神経の項でも記したが、目が覚めて太陽の光を浴びると、日中に活動を支える交感神経が優位となる。
このときに分泌されるのがセロトニンだ。そして、セロトニンを分泌した約14時間後、日が落ちて暗くなると、今度は休息のための副交感神経が優位になるのだ。このとき分泌されるのがメラトニンである。
2つの物質の分泌時間が体内時計によってほぼ決められていたから、一日を思い通りに過ごせていたのである。と、過去形で話したのにはワケがある。現代社会では、このサイクルが狂ってしまいやすいのだ。そのひとつの理由がストレスにある。
人はストレスを感じると、それに抵抗しようとして、交感神経が活発に働きだす。問題がすぐに消え去ってくれれば大丈夫なのだが、ストレス社会とも言われるこの時代では、いくつもの問題を抱えてしまうこともある。
そして、こんな状態が続けば、副交感神経はなかなか優位になれず、休息もしっかりとれなくなり、下手をすると体調を崩してしまうのだ。さらに環境も変わった。夜明るいのは便利だが、カラダには悪い。
ではどうすれば副交感神経を優位にできるのか。ここでは洋楽のオールドポップスに合わせて紹介していく。やれそうなことがあったら、実践してみてほしい。きっと、これまでより快適な眠りにつけるはずだ。
目次
10位 タバコを吸うのなら就寝の1時間前まで
愛煙家に言わせるとタバコを吸うと「気持ちが落ち着く」のだそうだ。落ち着くって言葉は、とかく副交感神経を想像しがちだが、実態はまったく違う。では、タバコはどのようにカラダに作用するのであろう。
まず、タバコを吸うとニコチンが肺を通じて体内へと入る。体内にはニコチンの受容体があり、ニコチンはこれに結合するのだ。すると、この刺激によって、血管は収縮し、アドレナリンが分泌される。
アドレナリンはカラダを興奮させて、血圧や体温を上昇させるホルモン。つまり、これが分泌されると交感神経が働き始めるのである。では、なぜ落ち着くのか。それは、恐らくニコチンへの依存性によるものであろう。
体内のニコチンが減っている状態のところへ、再投入されることで安心感が生まれるといったところか。とにかく、タバコは、交感神経を刺激してしまうのだ。だから、就寝前のタバコはまったくオススメできない。
寝る1時間前には吸い終わっているようにしたい。吸わないのが一番だが…。煙は目だけにではなく、ココロにもしみてしまうのだ。
9位 ペットを抱いて、癒やされてみよう
あいかわらず、ネコカフェが人気である。ここへ来る人たちに話を聞いてみると、「かわいいから」とか「癒やされるから」と言う人は多い。実はペットというのは人間にとっての安心材料になるのである。
たとえカメだって、人間が守るべき存在になれるし、エサをやれば首を伸ばして必死に食べようとする。その動作に癒やされるのだ。
とくにイヌやネコは、触感も柔らかだし、体温の温もりも感じることができる。これを触ったり、抱いているだけでココロは安定に向かい、なんとも心地よくなってくるわけだ。
このココロの状態は、母親の胎内にいるときの状態に似ているといわれる。人間が一番安心できる場所、子宮の中にいるような感覚が得られるようなのだ。
子宮の中の胎児や、幼児は副交感神経が優位な時期である。栄養を摂り、たっぷりと眠ることで、成長しなくてはならないからだ。
つまり、イヌ、ネコと触れ合うことでも、副交感神経を優位にすることができ、安らかな眠りにつけるということなのだ。母のお腹の中のメモリー、もう一度思い出そう。
8位 会社の人間関係は家まで持ち込まない
夜は仕事関係のことは考えない。たとえば、会社の人間関係が上手くいかなくなっていたって、それを家にまで持ち込んではダメだ。帰宅したら副交感神経が優位になるように、ゆったりと過ごしてほしいのだ。といっても、気になることはいつまでたっても気になるというのが人間の性。だから、忘れられるようにちょっと技を使う。
それは、いろんなことを忘れるほど、楽しめることを見つけること。といっても、没入するような刺激的なことはいけない。それによって、反対に交感神経が刺激されてしまうからである。
音楽の好きな人なら、のんびりと音に身をゆだねてしまうのもいいし、クロスワードパズルなんてのも楽しいし、それほど後を引かない遊びであろう。
とにかく、そういうものを探して、実践すればいい。そして、ひとつ提案。一回読んだ本を、読み返してはどうか。これならストーリーがわかっているから、先に進みたいという強い欲求も起きない。
読んで眠くなったら、そのまま寝てしまえばよい。くよくよするな! 今日一日は終わったのだから。
7位 暑い夏には冷房をかしこく使うのだ
さて、これから先、いよいよ夏本番である。寝苦しくて、辛い夜がやってくるのだ。この時期に活躍するのが、そう冷房である。巷でよく言われているのは、冷房は28度に設定するといい、ということ。
果たして本当だろうか。日本では気温が25度以上になると夏日。28度は、それよりも3度も上なのだ。決して快適に眠れるような温度ではないことがわかるはず。
ではどうすればいいか。決まった温度に設定するのではなく、その日の気温、自分の体調などを考慮して、気持ちがいいと感じられる温度にすればよい。そして、その温度設定で眠るのだ。タイマーで夜中に冷房を止める人も多いと思うが、暑くなって眠りが浅くなるからやらないほうがいいだろう。
冷房をつけて眠るのがイヤという人はドライと扇風機を活用する。ドライをつけて、扇風機で部屋の空気を循環させる。これなら快適だ。
ただ、ひとつ注意。扇風機の風が直接、カラダに当たらないようにすること。寝冷えの原因になってしまうのだ。気持ちいい冷房は、まさにそよ風の誘惑、だね。
6位 ホットミルクが、眠りに誘ってくれる理由
眠りにつく前の1杯のホットミルク。これが安眠に繫がるというのは、昔から言われてきた。実際にホットミルクにはいくつかの効能がある。まずひとつが、温かいミルクが胃の中に入ると、体温が上がる。ヒトは眠りに入るときは、体温が低下していく。ミルクの熱によって一時的に体温を上げれば、その後、体温が下がりやすくなり、カラダは眠れる状態になっていくのだ。
もうひとつが牛乳に入っているアミノ酸・トリプトファンだ。トリプトファンは腸で吸収されると一部が脳へと送られる。そして、これがセロトニンになり、このセロトニンからメラトニンが作られるのだ。つまり、交感神経、副交感神経の働きに重要な役割を果たすアミノ酸なのである。
さらには、カルシウムやビタミンB群。これらは神経伝達系に欠かせない成分で、こちらも大きく睡眠に関わっている。
ただし、もちろんホットミルクを飲んだからって即効性があるわけではないので、毎日小ぶりのカップ1杯というのを、習慣にしてもらいたい。ミルクたっぷりの乳房は、ホットミルクのモトなのだ。
5位 パジャマに着替える。これが入眠儀式なのだ
寝る前に常に同じ行動をとっていると、カラダが自然に寝る準備を始めるようになる。それが、入眠儀式となって、条件反射のように眠くなるのだ。だから、儀式を持つことは、ひとつ大切なことだ。そこでパジャマである。外と内、オンとオフを切り替える象徴を、外出着とパジャマにするのだ。
家へ帰ったら、まず風呂に入る(入り方は2位で紹介する)、それから、パジャマに着替える。ここで、外とはいっさいお別れというように、だ。
で、このパジャマ。選び方もある。まずひとつは、サイズはゆったりめにすること。パンツのゴムの線が腹にクッキリなんていうのはいただけない。締め付けは、安眠の敵なのである。
素材は、できるだけサラサラ、滑らかなモノをチョイス。肌が素材で擦られると、肌ストレスが生まれ、これが交感神経を刺激して、浅い眠りになってしまうことがある。
スウェットやジャージは、生地が厚くて熱がこもるので、寝るときには使用しないようにしたほうがいい。やっぱり、シルクのパジャマなら、着心地は最高なのだ。
4位 アロマの香りを嗅いでココロを解放させる
アロマオイルの話は交感神経の項で記したので、ここではサラリと説明しておく。人間の五感のなかで最も古い嗅覚。それだけに匂いに対するカラダの反応はとても早い。
だから、アロマオイルでリラックスできる香りを嗅げば、すぐにココロが解放されるってワケだ。では、どんな香りがいいのか。
まず、その代表格となるのがラベンダーだろう。緊張した心身をリラックスさせてくれる。カモミールもよい。効能はストレスからくる怒り、不安、緊張、痛みを和らげる。
マジョーラムは怒りを鎮めたり、筋肉痛や頭痛を緩和してくれる。スポーツを楽しんでいる人は試してほしい。ほかにも、ペパーミント、ベルガモット、イランイランなどがリラックス効果を期待できる。
といっても、香りというのは、個人によって捉え方がかなり違う。同じ香りでも、ある人にはいい匂いなのに、ある人には耐えられない匂いだったりする。
ショップへ行って、自分の好みの匂いを見つけて使ってみるのが一番いいだろう。アロマの香りは、私のお気に入り、を選ぶのがよいのである。
3位 間接照明を使って、眠りやすい環境作り
間接照明はいいですよ。といってもムーディーな部屋作りのため、というのではない。強い照明は光の刺激によって、交感神経を活性化してしまうのである。
天井のライトを弱めにするという手も、もちろんあるが、壁や天井に反射して届く間接照明の光は、柔らかく、リラックスでき、副交感神経に穏やかに効いてくれるのである。
もともと日本の部屋というのは、白いクリアな明かりで昼と同じような状態に保たれていることが多い。それに比べ欧米では多くの人が、間接照明を上手く使い、ゆったりとした夜を過ごしている。
そこで、これに倣ってフロアライトやスタンドなどを使って明るさの模様替えをしてやろう。白い光ではなく、オレンジの光が落ち着ける空間を作り出すポイント。
また、光の強さやライトのカタチはさまざまな種類があるので、照明器具を多く揃えている店に行って、相談をしてみてほしい。
落ち着いた照明の中でくつろいでいると、自然に副交感神経が優位になり、そのまま「おやすみなさい」。トワイライトの光は、眠りを誘ってくれる。
2位 夜は絶対に入浴が○。湯の効能を享受したい
最近、夜もシャワーだけで済ませてしまう人が多い、と聞く。もったいないので、それだけはやめてください。たっぷり張った湯に浸かることで、シャワーでは得難い効能が得られるのです。
まず、そのひとつが浮力。筋肉が重力から解放される。こういう時間は筋肉に休息を与える。次に水圧。陸上にいるときには、重力によって血液や水分が下肢に溜まる傾向にある。ところが、湯の中では下肢に大きな圧がかかるため、これによって下肢から上へと押し戻されるのである。
最後が温度。適切な温度は、カラダとココロをリラックスさせ、副交感神経を活性化する。
さて、実際の入り方だが、温度は38度から、高くても40度までにする。湯が熱くても、冷たくても交感神経を刺激するので、気を付けてもらいたい。そして、まず掛け湯を行い、全身を洗ったら、湯船へ。疲れない程度、15分ぐらい入ったら上がればよい。
上がった後は、体温が低下していくので、すんなりと眠りに入っていくことができるだろう。映画『ミスター・アーサー』のようにバスタブでリラックス。
1位 就寝2時間前にはパソコンとオサラバ
夜にテレビを楽しむのはいいとしよう。でも、パソコンやスマホは絶対にダメ。何が違うかって? 大違いなのだ。まず、テレビは受動的である。情報は一方的に入ってくるだけで、自分から仕掛けていくことはない。
ところがパソコンやスマホは、能動的なのだ。自分からどんどん仕掛けていかないと、物事は進まない。つまり、積極的に考えることが、交感神経を刺激するのだ。
また、画面がいわゆるブルーライトである。この明るく強い光によって、体内では交感神経を活性化させるホルモンがさまざま分泌されてしまうのだ。さらにパソコンでは、長時間、同じ姿勢になっていることが多い。
誰もが経験していると思うが、ずっとパソコンを使っていると、肩や腰に痛みが発生する。筋肉が硬く強張ってしまうのだ。その結果、痛みが生まれて、なかなか寝つけなくなってしまうこともある。
最低でも就寝2時間前には、パソコンとスマホとは、オサラバすること。そうすれば、自律神経の働きが低下することを予防できるのだ。夜中にココロをノックするヤツは、パソコンなのだ。