ホルモンとフェロモン。発音してみると、なんとなく語感が似ている。 加えて、どちらも性的魅力にも関わることや、目に見えないのもそっくりだ。
「フェロモンはエクトホルモンと呼ばれた時期もあります。エクトとはラテン語で“外” “外側”という意味です」と話すのは、帝京科学大学教授の近藤保彦先生。
「1959年に2人の研究者によって、ギリシャ語の単語である“pherein(運ぶ)”と“hormao(刺激する)”を組み合わせて今の呼び方になりました。無論、名前は似ているものの、フェロモンとホルモンは完全に別物です」
ホルモンとフェロモンの一番の違いは?
ホルモンは自分自身に作用するのに対して、フェロモンは同種の他個体の受容体に働きかける点が、両者を分ける一番の違い。
「でも相関関係にあることは間違いない。特に性ホルモンは関係が深いです。フェロモンがホルモンの分泌を促す一方、ホルモンによりフェロモンが放出されます」
このようにホルモンバランスに作用するフェロモン(プライマーフェロモン)について、すでにさまざまな研究が行われている。
「マウスを使った研究で、オスとメスを一定期間同居させてみるとメスの性成熟までの期間が通常より早まった。また別の研究によれば、オスがメスに出合うと30分もせずにオスのテストステロンの分泌が増えた。フェロモンの信号を感知した受容体が脳に働きかけて起こった反応と思われます」
同じ空間にいるだけで変化が見られたということは、外界に晒された部分に受容体があるのか。
「霊長類を除く哺乳類にはフェロモンを感知する専門器官(鋤鼻器)が鼻腔内にある。さらにマウスを除く哺乳類の鋤鼻器は細い管で口腔内に繫がっていてウマなどはフェロモンを感じると上唇を開けます」
ヒトは体臭からフェロモンを感知する?
気になるのはヒトのフェロモン事情。
「フェロモンがいかに放出されてホルモンに作用するか、ヒトの場合、まだ不明です。ただし女性同士で長期間親密に暮らすと月経周期が同期する“寄宿舎効果”についてはフェロモンが関与します。またヒトのフェロモンの受容体が鼻腔内の嗅上皮にあると分かっています」
ヒトはにおい(体臭)からフェロモンを感知する、ということ?
「いえ、受容体が感知するフェロモンの分子構造と体臭のそれは全然違います。テレビなどで妖艶な人はいますが、画面越しにフェロモンを受容してるわけではない。現時点で言えるのは、ヒトを含め動物にはフェロモンがあり、性ホルモンと密接だということです」