カリスマトレーナーの初対談! ランと筋トレを両立させるコツとは?
本誌で何かとお世話になっているカリスマトレーナー、白戸拓也さんと中野ジェームズ修一さん。指導者としてはマルチだが、どちらかというと白戸さんは筋トレ派、中野さんはランニング派。編集部が勝手にそんなイメージを抱いているお二人に、筋トレとランに関する一家言、ご披露いただくことにした。
取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 イラストレーション/たつみなつこ
初出『Tarzan』No.781・2020年2月13日発売
有酸素運動を取り入れると、筋トレ効果が下がる
ターザン お二人は細マッチョ志向の人を指導されるとき、筋トレとランのメニューをどう組み立てているんですか?
白戸 その人がガリガリで筋肉つけないと細マッチョにならないなら筋トレがメイン。普通体型で脂肪を落として筋肉をつけなきゃならないときは、有酸素も筋トレも両方取り入れます。
中野 筋肉量はひとつの判断基準ですよね。筋肉量が少なくて脂肪がある人はトレーニングの8割くらいを筋トレ、筋肉量があって脂肪も多い場合は逆に有酸素運動を8割くらいにします。
白戸 筋トレの効果は有酸素運動を取り入れることによってすごく変わってきます。筋トレ効果だけ狙うなら有酸素はやらない方がいいというのはありますけど。
中野 有酸素運動を取り入れると筋トレ効果が下がりますからね。
ターザン えっ、そうなんですか!?
白戸 筋トレの効果が180%あったとして、有酸素を入れると150%くらいに下がります。ストレスホルモンであるコルチゾールが出て筋肉が分解されたり、AMPキナーゼという糖質代謝に関わる酵素が活性化されるので。
中野 AMPキナーゼのマスタースイッチは、有酸素運動と筋トレのどちらに入るかが決定すると、途中で変わらないんです。有酸素系の運動でスイッチが入ると、その後で筋トレを行ってもスイッチが入りにくくなります。
ターザン 糖質の代謝が有酸素と筋トレ、どちらかに偏ってしまうんですね。でも筋肉が多いか少ないかという判断をするにはどうしたら?
中野 標準より筋肉量が多いか少ないかでしょうね(平均筋肉率は30代男性で37%)。でも、筋肉量だけでなく筋肉がどこについているかも重要です。
白戸 ジムに通っている人でも上半身の筋肉はあるけど太腿の筋肉が落ちている人は大勢いますね。
中野 家の構造にたとえると、柱に当たる下半身が細くて、その上に大きな屋根である上半身が乗っているようなもの。下半身の筋肉は全身の筋肉の6〜7割を占めます。それが少ないと、走るときに骨盤や膝を安定させることができません。だから走り続けられないし、ケガをすることもある。そういうバランスが悪いトレーニングマニアの人たちがすごく気になります。
白戸 以前所属していたフィットネスクラブでは、入会すると最初に立ち上がりテスト(台に座って反動をつけずに片脚で立ち上がる)をやっていました。そうすると20代でも40cmの台から立ち上がれないんです。こういう人たちは筋力的にゆっくりのジョグでも走れない。
中野 そうですね。
白戸 普通のスポーツクラブでは2割くらいそういう方がいらっしゃいます。だから速めのウォーキングだったらいけるけど、ジョギングは続かない。
中野 そういう場合、うちではステップエクササイズから始めましょうということにしています。歩いたり走ったりはみんなできますけど、下半身の筋肉がないとある程度走り続けることが難しいんです。
下半身トレは辛い。でも脚力なしには走れない。
白戸 カラダづくりという意味でも、下半身を鍛えた方が代謝が上がりやすいです。アスリートを指導していて体重が落ちなくなってきたときに脚を鍛えると、結構すぐに落ちるんですよ。
中野 下半身を鍛えた方が脂肪分解を促す成長ホルモンがたくさん出ますしね。
ターザン なぜ、多くのトレーニーは下半身を鍛えないんでしょう。
白戸 最近のスーツやアスレジャーの細身パンツは太腿が太いと入らないから。一方、ボードショーツを穿いてしまうと、太腿のラインが自覚しにくいということもあります。それに何といっても、脚のトレーニングはキツいんですよ。
中野 そう、辛いんです! 自分も嫌です。やらなくて済むならやりたくない。
白戸 朝、脚のトレーニングをやると午後2時くらいには眠くなる(笑)。あとクライアントが脚のトレーニング中にトイレ行ってきますと言って、吐いてることも…。
中野 できればやりたくない。だから私の場合、下半身トレは低負荷高回数にしています。
白戸 重たいものを担ぐとウェストも太くなりますからね。レップ数はどれくらいですか?
中野 30〜40回を4〜5セットです。
白戸 結構いきますね。30回とかになると精神的なプレッシャーがありますよね。僕は心が負けちゃう。だから上半身も下半身も8〜12回のレップ数でやってます。
ターザン そんなに辛い下半身トレ、指導するのが難しそうですけど。
中野 有酸素領域のトレーニングにもなるので脂肪も一緒に燃やしましょう、と言うとやる気になってくれます。動いている時間が長いということはエネルギー消費も見込めるので。音楽に乗せてBPM(1分間のリズム)に心拍数を合わせる手もあります。
白戸 それはいいですよね。僕もよく曲に合わせてトレーニングをしています。フレーズがガッと上がったところでトレーニングを終えると心地いいですね。
ターザン 下半身の筋肉がないと走れない。でもそこに辿り着くまでに挫折してしまう人も少なくないのでは?
中野 意識が体重や見た目の変化に向きすぎてしまうというのが挫折の理由のひとつでしょう。プログラムを消化することに意識が向かわず、こんなにやってるのに見た目が変わらないと思ってしまう。
白戸 トレーニングには見返りが必要です。体重や皮下脂肪が大きく減らないときでも超音波で見てみると変化はあるんです。最初は見えなかった筋膜が見えてくる。次に筋肉内の脂肪が減ってきてグレーに映っていた筋肉が黒く見えるようになる。そこからはじめて皮下脂肪が減ってくるんです。体重や皮下脂肪厚が変わらないけど、カラダは確実に変わっています。
中野 そういうふうに目で見てもらったら続きますよね。筋肉の質やサイズが変わっても体組成計では数値が表れないことがあるので。
白戸 ジムの来館頻度がすごい人でも体組成計のデータがまったく変わっていなくて、その数値を見た瞬間どうやって説明しようかなと困ったことがあります。
中野 うちのジムでもエコーを取り入れていて、画像を見せると信じてくれますね。“前の画像、本当に僕のですか?”と言われることも。そんなところで詐称はしないんですけど(笑)。そういう過程を踏まないとドロップアウトしてしまうかもしれないです。
ランと筋トレ、2つの刺激が必要な理由。
ターザン 筋トレは好きだけど走るのは嫌い、という人も結構いると思うんですが。
中野 ずっと走ってなきゃいけないと思ってる人が多いんです。そんなことはなくて、信号で止まって歩いてまた走ればいい。だから、うちのジムでは走り始めのときはトレーナーが一緒について走ります。週2回のセッションで1回は筋トレ、もう1回はトレーナーと一緒に走るというクライアントさんは多いです。ロスにいたとき、そういうスタイルでやっているトレーナーが多かったので自分のジムで取り入れることにしました。
白戸 ジムでも最近はトレッドミルの人気が以前ほどではないですね。とくに夜はウェイトゾーンの方が混んでいるし、有酸素ゾーンは以前より狭くなっている感じがします。なのでトレッドミルを続けてもらう試みが増えてきているんです。いろんなメニューがディスプレイに出てきて、デバイスやオンデマンドでサポートするとか。
ターザン 自分ひとりでランも筋トレもする、というのはやはり難しいでしょうか?
中野 どうしてもどちらかに偏りますよね。なかでもランニングだけになるとケガをしやすい。月間走行距離200kmを超えるととくに。それでもやめられない。
白戸 筋トレにも依存はありますよ。上半身ばかり鍛えていると動きのクオリティが下がって障害が起こったり、効果も頭打ちになります。
中野 やはりバランスよくトレーニングすることですよね。ひとつのトレーニングだけでオーバーユースになると、やる気の喪失、睡眠障害、慢性的な疲労などが起こって仕事にも影響します。筋トレだけでもなく有酸素だけでもなく、バランスよく鍛えないと。
白戸 僕は基本的にランニングが嫌いなんです。寒いとか足首の調子が悪いとか言い訳は100個以上思いつきます(笑)。でも走った日の夜の睡眠の波形がキレイで深い眠りが得られるので、やっぱり走った方がいいんだなと思います。
中野 走るの嫌いなんですか?
白戸 長距離ランは好きじゃないです。基本は10〜15分走ってあとはひたすらダッシュとかジャンプをします。距離を走ると動きのフォームが悪くなるし、疲れるので。
中野 疲れますね。
白戸 あと、お腹も空きます。
中野 えっ、お腹が空くから幸せなんじゃないですか! お腹いっぱい食べても走ったらまた帰ってきて食べられるんですよ?
白戸 それはありますね。僕はあんこが好きで、ランニングした後だけご褒美に食べるようにしてます。走った後はプロテインと団子(笑)。
ターザン 中野さんのご褒美は?
中野 とくにないです。走ることがご褒美なので。
白戸 すごいっス!
中野 でも一昨年までは月間走行距離が100km以上でしたが、去年からランニングを週1回にしたんです。筋肉量を増やそうと思って。12kmを週1回走って筋トレをしたら、1年間で筋肉が5kg増えました。
白戸 すごいですね。でも分かります。僕も1年のうち2か月はまったく走らず、筋トレだけやって体重を増やします。ここ何年かで10kgくらい増えました。
中野 筋肉がついたのはいいんですけど、問題点もあるんですよ。今、平地だとキロ4分半から5分くらいで走れるんです。
白戸 速いですね。
中野 でもプロランナーの高地合宿で選手と一緒に走ると、キロ6分で3kmもたないんです。筋肉量が多いとそれだけ酸素が使われるので当然なんですけど、すごくショックで。キロ6分で3km走れないという屈辱感…ランナーって余分な筋肉はいらないんだなと改めて実感しました。どっちがその人にとってメインの目的なのか考えさせられたというか。
白戸 確かに。僕もスタジオレッスンの数がすごく多いときは筋肉量が全然増えませんでした。
中野 今は走りたいのを我慢してますけど、本当は毎日でも走りたいです。筋トレも嫌いじゃないですけど走るのはやっぱり楽しい。
白戸 何が一番楽しいですか?
中野 走っていると閃きが湧いて仕事のクオリティが高くなるんです。アスリートのセッションの内容とか次に出す本のタイトルとか、閃くことが多いですね。
白戸 なるほど。僕も企画書で行き詰まったとき、バイクを漕いでいると閃きますね。ランニング嫌いなのでバイクなんですが。
中野 筋肉量減らしたら走るのが楽になりますよ(笑)。
白戸 いやいや、ジャンプとかダッシュの方が自分には向いてます。
中野 ダッシュが得意という人も、長距離を走るのが得意という人もいます。自分に合っている方法でバランスよく鍛えるのが、やはり重要ですよね。