腰痛はなぜ起こる? 腰痛のメカニズム
原因のわからないことが多い腰痛。セルフチェックでどの筋肉が問題なのか炙り出せば、痛みから解放される日も近いはず。「肩こりのメカニズム」も一緒にチェックを。
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/山内省吾 ヘア&メイク/大谷亮治 イラストレーション/野村憲治、今牧良治、作山依里(以上トキア企画) 取材協力/伊藤和憲(明治国際医療大学鍼灸学部教授)
初出『Tarzan』No.780・2020年1月23日発売
腰痛のメカニズムには腰椎、骨盤、股関節が関わる。
腰痛の85%以上は非特異的腰痛。原因がわからず、病名もつかない腰痛である。現代人の多くが悩むのは、この非特異的腰痛。大半は腰まわりの動きが悪くなって生じている。
腰の動きで軸となるのは、腰椎、骨盤、股関節というトリオ。このトリオには「腰椎骨盤リズム」という連携がある。例を挙げよう。
まっすぐ立った姿勢から、前屈を行うと、腰椎⇒骨盤⇒股関節の順に曲がる。そして姿勢を元に戻すときは、股関節⇒骨盤⇒腰椎の順番に伸びるようになっているのだ。
この腰椎骨盤リズムが乱れると、筋力バランスが崩れて特定の筋肉に疲労が溜まって硬くなり、腰痛を起こしやすくなる。たとえば、日本人は坐っている時間が長く、股関節が曲がったまま固まりやすい。それがリズムを乱し、骨盤や腰椎のストレスとなりやすい。
さらに、運動不足だと30歳以降は年1%の割合で筋力が衰える。「老化は足腰から」と言われるように、足腰の筋肉から先に衰えやすい。これも腰痛と関わっている。
足腰には、重力に対して姿勢を支えている抗重力筋が集まる。お尻や腰部の筋肉だ。これらの抗重力筋が弱くなると、腰椎、骨盤、股関節の正しい位置が保てなくなり、動きも悪くなる。それで腰痛が起こるのだ。
腰まわりの構造と、それを支えている筋肉を確認する。
腰痛に関わるカラダの作りにも、スポットを当てたい。
腰椎は、背骨の根元にある5つの椎骨の連なり。真横から見ると、前側にカーブを描く前彎をしている。椎骨の間には、椎間板というクッション役の軟骨がサンドされている。
腰椎と連結するのが、骨盤。
骨盤は、腰椎に続く仙骨と尾骨が、左右1対の寛骨と合体したもの。寛骨は、腸骨、坐骨、恥骨という3つの骨が、思春期以降に融合して生じる。骨盤には男女差があり、男性より女性の方が開いている。妊娠と出産のスペースを確保するためだ。
股関節は、脚の付け根。骨盤の寛骨の両側の凹みに、太腿の骨である大腿骨の丸みを帯びた先端がハマったものだ。寛骨の凹みが臼のような形をしているから、臼状関節という。
骨盤の傾きは、腰椎と股関節の動きに影響する。骨盤が前傾しすぎると、腰椎の前彎が強くなりすぎ、股関節が内側に捻られる内旋が起こる。逆に骨盤が後傾しすぎると、腰椎の前彎がフラットに近づき、股関節が外側へねじれる外旋が起こりやすい。骨盤の傾きが乱れると、股関節と腰椎に悪影響が及び、腰痛を招く。
これらの構造を支えるのは多くの筋肉。主要なものをイラストで示したので、位置を確認しておこう。
自力で治せない腰痛もある。見極めるポイントを知ろう。
原因がわかる特異的腰痛は全体の15%ほど。その3分の1は、腰部椎間板ヘルニアであり、もう3分の1は腰部脊柱管狭窄症だ。どちらもストレッチや筋トレなどのセルフケアでは治せないから、病院で治療してほしい。
整形外科で診断を受けても異常が見当たらず、筋肉の動きや硬さにも問題が見当たらない場合、メンタルから来る腰痛かもしれない。これは心因性腰痛と呼ばれている。
脳には、痛みを和らげる仕組みが備わっている。痛みが伝わるとセロトニンという神経物質が分泌されて、痛みが伝わるルートをブロックするのだ。だが、抑うつや不安があると、セロトニンが分泌されにくくなり、腰痛を感じやすくなるのだ。
長引く腰痛に加えて、イライラする、気分がふさぎ込む、食欲がない、夜寝付けないといった自覚症状がある人は、心因性腰痛かも。こちらも病院での治療が求められる。痛みを抑える薬に加えて、抑うつや不安に効く薬が用いられることが多い。
この他にも、腰以外の理由で起こる腰痛がある。とくに女性では、子宮内膜症などの子宮や卵巣の病気により、腰に関連痛が出ることがある。しびれを伴ったり、腰を動かしたり姿勢を変えたりしても痛みが変わらない場合、腰以外に何らかの異変があるかも。急いで病院を受診したい。