ゲータレード、アンダーアーマー…IMGアカデミーで目撃した「超回復」のR&D
世界的トップアスリートを数多く輩出している全米屈指の巨大スポーツアカデミー、IMGアカデミー。『ターザン』が潜入したスポーツ研究の“聖地”では、数々の企業との共同研究も行われている。
取材・文/徳原海 撮影/田中大海
(初出『Tarzan』No.774・2019年10月10日発売)
プロ級の質を誇るトレーニングジム。
テニス、バスケットボール、野球、ゴルフ、サッカー、陸上競技、ラクロス、そしてアメリカンフットボール。MGアカデミーに入学した生徒たちは、それら8つのカテゴリーから自身の専攻を選択し、学業と並行しながらそれぞれの競技の専門性やプレークオリティを追求していく。
またアカデミーには、生徒たちに限らず、大学生から各競技のトッププロ、オリンピック選手まであらゆる世代のアスリートたちが世界各国から集う。
だからこそハイレベルなスキルトレーニングに相応しい質の高いコートやフィールドが数多く用意されているわけだが、そのようにアスリートたちが実際にプレーするための場所だけではなく、ここIMGアカデミーのキャンパス中心部には他に類を見ない規模の「パフォーマンスセンター」が存在する。
実はそのパフォーマンスセンターこそ、IMGアカデミーの“心臓部”であり、アスリート育成における最大のストロングポイントと言えるのだ。
“ホワイトベース”を思わせるフューチャリスティックな建物の中には、アスリートたちのフィジカル&メンタルのコンディショニングやリカバリーを徹底的にサポートするためのありとあらゆる最先端機器が揃っており、アカデミーに通う全生徒はもちろん、外部のアスリートやチームも使用可能。
過去にはメジャーリーガーや、山縣亮太選手、福島千里選手といった陸上のオリンピックアスリートもこのパフォーマンスセンターに惹かれIMGアカデミーで合宿を行ったことがあるとか。トッププロも認める環境が整備されていることの証左だろう。
あらゆる角度からアスリートをサポート。
では、改めてパフォーマンスセンター内をじっくり見ていこう。訪れてみて、まず目を奪われたのはフィジカルトレーニングジムの広さと設備の充実ぶり。
建物の1階から2階が吹き抜けになった開放的なフロアに、数十台のパワーラックやランニングマシン、フィットネスバイクがずらりと並ぶ様は圧巻だ。
パワーラック一台一台に設置されたタブレット型モニターでいつでも蓄積された個人データにアクセスでき、内蔵カメラが随時フォームチェックをしてくれるなど、パーソナルスペースに近い感覚でフィジカルトレーニングを積むことができるように考慮されている点もさすがだ。
またカラダを動かすことだけでなく、メンタルコーチがプログラムを提供するビジョントレーニングで「見て、認識して、適切に動く」能力を高めるための「マインドジム」もある。
アメリカンフットボールの超名門大学クラスではありえても、中学・高校レベルでこんな規模のジムを備えている学校はいくらアメリカ広しといえどもおそらくここだけだ。
ケガに対する手厚いサポートもアメリカ随一。
トレーニングジムの隣にあるのがアスリートたちのリカバリーやケガ予防を目的とした「トリートメントルーム」。
ここには「アスレチックトレーナー」(以下AT)と呼ばれるエキスパート19名がローテーションで常駐し、常にアスリート個々のパーソナルデータに沿ったメソッドでコンディショニングをサポート。酸素カプセルやアイシングバスなどのリカバリー設備も常時稼働している。
また世界屈指の医学部を誇るジョンズ・ホプキンス大学病院と提携しており、ATの領域を超えるケガがある場合は、そこから出向している理学療法士(=フィジカルセラピスト)がサポートしてくれるリハビリスペースも隣接。ここでトレーナーがアスリートとどう向き合っているのかは次ページで詳しくお伝えしよう。
そしてもう一つ、このパフォーマンスセンターの特徴を挙げるなら、施設内に飲料水メーカー〈ゲータレード〉の研究所が入っているところだろう。この研究所は厳重なセキュリティ態勢が敷かれていてアカデミーのスタッフでさえ事前申請がないと立ち入れない。
したがって撮影はNGだったが、現地で実に興味深い話を聞くことができた。それは、〈ゲータレード〉がいわゆる資金提供を行う一般的なスポンサーではないということ。
このパフォーマンスセンター内に水分・栄養補給とパフォーマンスの関係性を研究するラボを構えることで、飲料をベストなタイミングでアスリートに届けることができ、逆にあらゆるトレーニングシーンで飲料を提供されているアカデミー生たちは被験者として〈ゲータレード〉の臨床実験に協力している形となる。メーカーと学生間でウィンウィンの関係が築かれているわけだ。
同じくスポーツメーカーの〈アンダーアーマー〉も、全生徒にウェアやギアを提供し、彼らのパフォーマンスから得たデータを道具開発に生かしている。そのように一歩先を行く企業とのパートナーシップも、アスリートのパフォーマンス力向上に一役買っているのは間違いない。(こちらの記事に続きます)