最適な環境づくりには“お金”がかかる
スポーツをやるには、お金がかかる。
のっけから、文字通り“現金”な話になるのは夢もロマンもない感じだが、実際にスポーツの、とりわけ“良い環境”を作るには、お金がかかってしまう。
競技力を上げようと思えば、コーチやトレーナー、栄養士などさまざまな人的リソースが必要だ。実戦的な経験を積むには遠征も必要で、海外に出る場合はなおさら費用がかかる。トレーニング施設を充実させるなら相応の土地や箱、そして器具など設備投資は避けられない。
日本では大学スポーツが変革の時期にあり、大学スポーツ協会(UNIVAS)の発足とともに、たとえば米国の大学スポーツが莫大なお金を生み出している構造に倣って、少なからずビジネス的な側面を強める向きは確実にある。
しかしプロの世界ならともかく、“体育”という言葉に象徴されるように(実質的にせよ、イメージ的にせよ)スポーツと教育の結びつきが強く、お金が絡むことに難色を示す人々も少なくない。
IMGアカデミーは“トップアスリート養成所”と称されることもあるが、実際は中高一貫の学校で、ジュニア世代がスポーツに取り組む教育機関だ。お金の話は馴染みにくいかもしれないが、たとえばスポンサーシップを見れば、商業的な枠を超えて、そこには幸せな関係があったりする。
企業と選手がWin-Winでいられる場所
ゲータレード社の例を挙げてみる。現在はペプシコ傘下にあるゲータレードだが、IMGアカデミーのスポンサーとして敷地内に研究所を置いている。
主にはアスリートのハイドレーション(積極的な水分補給)のリサーチを行っているのだが、IMGアカデミーには1,200人の中高生が世界中から集まり、出身国の数は80にも及ぶ多様な環境だ。さらには大学生やプロ選手まで短期間のキャンプ参加者も含めれば、年間で数万人のさまざまなバックグラウンド、競技、スポーツレベルのアスリートたちが訪れることになる。
実践的なデータを集めたい研究者にとっては、多種多様のアスリートとリサーチを行えるという、世界でも稀で非常に魅力的な場所になっている。
一方で、研究に協力する生徒やアスリートたちはパフォーマンス向上に役立つ専門的なアドバイスを受けることができるから(ハイドレーションや栄養補給など細かな個人用のデータをもらえたりする)、互いにウィン・ウィンの関係を結べるというわけだ。
また、スポーツのフィールドやコート脇には必ずゲータレードのタンクが設置してあり、練習中の水分補給をサポートしてくれる頼もしい存在として愛着を持つことにもなる。
単純なスポンサードにとどまらない
ゲータレード以外にも、トレーニング機器やテニスラケットなどのスポーツ用具、ウェアやシューズ、VR機器、ベッドマットレスなどさまざまなジャンルのスポンサーがプロダクトを介した実際のコミュニケーションを求めて契約を交わしている。
時には商品化前のプロトタイプが持ち込まれ、それを試したアスリートがフィードバックを行い、あるいはギアの専門家の見地からアスリートに怪我のリスクについてアドバイスをしたりと、相互的なやりとりが展開されているのだ。
契約はIMGアカデミーとスポンサーという企業間のものだ。しかし、ここで重要なのは、それぞれのメリット以上に“アスリートのために”という共通の目標があることだ。その下でお金が動き、商品開発が進み、あるいは商品のファンたちが獲得されているという、とても幸せな関係がある。
彼らは単なる“スポンサー”ではなく、プロダクトやサービスを提供してくれる“サプライヤー”であり、“パートナー”として協業していると言った方が誤解がないかもしれない。だから、単発的なイベントなどではなく、長期にわたるパートナーシップを結んでいる企業が多く、ビジネス的な安定性という意味でもメリットは大きい。
目標を共有できるか。それぞれの持っているリソースは何か。強み、弱みを共有し、補完し合えるか。従来の広告的な価値を超えて、パートナーとしてどのようにコミュニケーションできるか。そのように考えると、日本の大学スポーツもスポンサー獲得において、ポテンシャルが高い。
アスリートがいるのはもちろん、研究機関としてスポーツに関わる学部や施設(医学や栄養学、運動生理学、心理学、スポーツマネジメントなど)を抱えるところも多く、それらの点を線で結ぶことができれば、スポンサーにとっては単なるブランディングやロゴの露出に留まらず、商品開発など実践的で長期的なパートナーシップを結ぶことができる魅力的な場所に映るはずだ。
田丸尚稔(たまる・なおとし)
出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士課程を修了。2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にてアジア・日本地区代表を務める。