アスレチックトレーナーに聞いた、IMGアカデミー「超回復」プログラムの極意
世界的トップアスリートを数多く輩出しているIMGアカデミー。全米屈指の巨大スポーツアカデミーで見えてきた独自の「超回復」プログラムの極意を、アスレチックトレーナーの長であるジャレッド・ホワイトさんに聞いた。
取材・文/徳原 海 撮影/田中大海
(初出『Tarzan』No.774・2019年10月10日発売)
日々、学生アスリートの変化に目を配る。
「私たちは、ケガの予防、ケガをした後のリハビリという両面によって学生アスリートたちを支えています。そこで大切にしているのが、彼らのカラダに日々どのような変化が起きているのかを観察し、認識すること。運動生理学的にも若い年代のアスリートというのは1か月や1年単位で全く違ったカラダになるもの。
なかにはたった1日で変わる子もいますから。とはいえカラダそのものだけを見ているのではなく、“どれだけ眠れているか” “どんな栄養を摂っているか”などさまざまな視点から総合的にチェックをします。主観ではなく客観的に、学生たちの状態を常に正しく見なくてはなりません」
前述の通りIMGアカデミーの専属ATはジャレッドさんを含めて19名。しかし学生は約1,300人いる。一体どのようにして、彼ら全員のコンディショニングと日々向き合っているのだろうか。
「毎年、1学期の始まりと終わり、2学期の終わりに全員参加のフィジカルテストを行い、可動域やバランスなど細かな部分までを徹底的に調べます。
そこで得た学生たちのパーソナルデータは全セクションのトレーナーたちに共有されますが、時にはATが直接フィールドやコートに出てグラウンドレベルでコンディションをチェックしたり、逐一スマートフォン上で学生とやりとりをすることもあります。
そして現在、さらなるアップデートの必要性を感じたことから、アスリート、AT、栄養士らすべてのエキスパートたちがより時間のロスなく情報を共有できる最新システムを開発中です」
テクノロジーだけでなく一人一人との対話も重視。
一方、考えうる最もアナログな手法を重んじている点も興味深い。
「直接会って話をすることは非常に大事ですね。なかにはデータ上はそれほど問題なく見えても実は隠れたケガや痛みに苦しんでいて、かつ性格的になかなかそれを打ち明けられない学生もいますから。
そういう子たちに必要なのは何よりも私たちとの密なコミュニケーション。トレーナーとアスリートが良好な信頼関係を結んでこそ、本当に正しいトレーニングを提供できるのです」
アカデミー生たちは、ATが常駐する「トリートメントルーム」に好きな時にアクセスができ、たとえ筋肉の張りなどといった小さな不調であっても的確かつ入念なケアとサポートが受けられる。
「このアカデミーでもやはり、最初は多くの学生が競技スキルを上げることだけにフォーカスしがちです。そこで私たちは、彼らにケガの予防や栄養学、メンタルコンディショニングの必要性を説くところからカウンセリングをスタートするのです。“総合的に能力の高いアスリートになるためにはそれらが一番大事だよ”と」
「だからケガをしていなくても、カラダに少しでも気になる点があればここを訪ねてきなさいという指導をしていますし、逆に治癒に30日以上を要するケガをしてしまった場合は栄養士、メンタルトレーナー、フィジカルセラピストらも巻き込んだ形で特別なプログラムを組むことになっています」
「何にせよ、私たちが原理原則に掲げているのは“ケガをさせない”こと。それでもケガをしたら今度は“早く回復させる”こと。そして、全力でそのアスリートに合った回復トレーニングを提供し、リハビリの先にあるパフォーマンスをケガをする前より高いレベルに押し上げること。それが私たちATの仕事における喜びであり、情熱を捧げられるところなのです」(こちらの記事に続きます)