はじめてのボルダリング。身につけたい基本の動き・ムーブのコツ
ボルダリングの動き「ムーブ」を、初心者向けに解説。要領を得たら、早速ジムへ行こう!
取材・文/井上健二 イラストレーション/黒木仁史 取材協力/千葉啓史
(初出『Tarzan』No.772・2019年9月12日発売)
ボルダリングが“バランスボディ”にいい理由。
ボルダリングはシンプルに言うなら岩登りだが、他のスポーツにはないユニークな特徴がある。
「一般的なスポーツはフィールドが平面で、地面を足で踏み込み、その反力を利用して動きます。しかしボルダリングは立体的で複雑なボディコントロールが不可欠。重力に抵抗しながら運動姿勢を制御し、全身を協調させてゴールを目指します」
そう語るのは、パーソナルトレーナーの千葉啓史さん。2020東京オリンピックのスポーツクライミング複合代表に内定した野口啓代選手のトレーナーでもある。
「加えてボルダリングでは上下左右、回旋と3次元の動きが切れ目なく続く。水泳も3次元で切れ目なく動き続けますが、その動きには規則性があります。規則性がないのに動きがつながり続けるのがボルダリングの難しさであり、面白さでもある」
そんなボルダリングの動きを初心者向けに解説。岩に似せた突起の持ち方である「ホールディング」、足の置き方である「フットワーク」、次のホールドを取るための「ムーブ」という3要素に分けて解説していくが、本記事では「ムーブ」を紹介する。
基本となる2つの動き。
1. ムーブの基本
膝と股関節を曲げてガニ股になり、両肘を床と垂直に伸ばしてブラ下がると余計な腕力を使わずに済む。その際、骨盤を壁に近づけてフットホールドに体重をしっかり乗せる。
逆に膝と股関節が伸びて棒立ちに近くなり、肘が曲がってカラダが壁から離れすぎると腕の負担が増えるのでNG。この姿勢を長時間保つのは不可能だ。
2. 着地の基本
ボルダリングで大事なのは、壁をより高く登ることではなく、怪我なく安全に終えること。危機管理として「落ちる」のではなくどう「着地するか」を考えるべき。「上級者ほど着地が上手。膝を抜き、胸を丸めて体幹で着地衝撃を吸収するのが正解。膝が伸びて胸を張ったままだと足首などを痛めやすい」
上を向いたまま着地をすると、地面との距離感がつかめない。失敗リスクを感じたときはホールドにこだわらず着地に集中。
6つの「ムーブ」を身につけよう。
1. セイタイ
カラダの中心軸が壁に向いた姿勢(正対)で次のホールドを取りに行くムーブ。縦方向の大きな体重移動を伴う。簡単に見えるが、初心者の多くは壁にただ張り付くのが精一杯で固まっているだけのことが多い。重要なのは、脇を締め、背すじを伸ばし、胸を張ること。
下半身は、骨盤を立てて両脚を開いてガニ股になり、支持する足はインサイドエッジでホールドに乗せて踵を引き上げる。上半身では、肘を伸ばして次のホールドを取りに行き、肘を曲げて重心を引き上げる。
「セイタイが苦手な初心者の多くは背中が丸まって骨盤が立たず、足首の動きが硬くなっている。ロールアップでカラダをほぐしましょう」。パワー、姿勢コントロール、タイミングを意識して克服せよ。
ポイントは「脇を締める」こと
保持側の肘を曲げたまま、反対の腕を伸ばす。次のホールドを摑んだら、脇を締めて肘を曲げ、手のひらを胸に向けるようにホールドを引きカラダを近づけていく。
2. ソクタイ
カラダの中心軸が壁に対して横を向いた姿勢(側対)で、次のホールドを取りに行くムーブ。セイタイでは重心の上昇を伴うが、ソクタイでは重心を低いままで保ち、必要以上に体重移動しないのがコツ。ポジショニングとカラダの捻りを上手に活用したい。
扉を開け閉めするように、肩関節のヒンジ(蝶番)を意識して、肩と骨盤を水平に回してやろう。
「肘の屈伸を伴うセイタイは少なからず腕力を要しますが、ソクタイは手で引く力がほとんどいらないため、腕力がなくても登れます。その意味では初心者が最初に身につけたい動きです」。上達ポイントは、脱力、可動域、ポジショニングにアリ。
ポイントは「脇を閉じる」こと
セイタイでは脇を閉じて肘を曲げることが多いが、ソクタイではホールドを摑んだ腕を伸ばしたまま、脇を閉じる肩関節の水平屈曲を伴いながら登るケースが多いのが特徴。
3. ステミング
コーナーやグルーブ(凹角)などで両足を左右に突っ張って姿勢を保つこと。ホールドを踏むか、スメアリング(軸となる足でしっかりホールド)して姿勢が安定したら、両手を離すこともできる。両足のスタンスの幅は広い方が強い力がかけられ、安定しやすい。
4. クロスムーブ
左右の腕をクロスさせてホールドを取るソクタイのムーブの一種。上からのクロスと下からのクロスがある。「腰より高いホールドに足を置くときは上からクロスした方がいいし、腰より低いホールドにスタンスしたいときは下からクロスした方が動きやすい。膝から回り始めるとクロスに入りやすくなります」。
5. キャンパシング
足を置くフットホールドがない状態で次のホールドを取りに行くムーブ。体幹部からの反動を利用して、脚を引きつけたら丸まり、重心が上がったタイミングで全身を伸ばしてホールドに飛びつく。力ではなくカラダのしなりで動く。ボルダリングに特徴的な動きの一つ。
6.ランジ
ホールドとホールドの間隔が離れている場面で活躍するムーブ。単なるジャンプと誤解されがちだが、イメージ的には跳び箱を跳ぶ動きに近い。
一度沈み込んで背骨を丸め、手首をスナップしてホールドを下へ突き放す。背骨をしならせて壁に近づけるタイミングで両足を踏み込んで引きつける。背骨のしなりを使わず、脚力のみに頼ろうとすると飛距離が稼げない。